1.1
自分が今いる街や国の名前を知ること。それは、最低限のことだった。
そのための最も基本的な戦略といえば――
いや、待てよ!
我は指を前方に突き出した。「オープン・システム!!」
……
何も起きない?ふむ、言葉を間違えたか?
「オープン・ステータス!」
……
また何も起きないだと?
「オープン・インフォメーション――」
目の前に、小さな青いポップアップが現れた。
【俺に話しかけてるのか?】
ふふ、思った通りだ。我はやはり天才だな。
「そうだ。なぜ応答にこれほど時間がかかった?」
【ああ、そこまで考えてなかった。俺の名前はタナカだ】
「タナカ?人の名前だと?一体なぜシステムが人間の名を持っているのだ!?」
【それが単に俺の名前なんだよ】
それは実に奇妙なことだが、まあ、どうしようもないか……
「よし、それでは我のステータスを見せろ」
【ステータス?】
「そうだ……我のステータスだ。我のレベルが幾つなのか知りたい、それに――」
【ない】
「はぁ!?」
【ステータスなど存在しない。この世界には、そもそもそんなものはない】
「冗談だろう!?だったら、お前は一体何のために存在しているんだ!?」
【寂しい時に話し相手になるため。まあ、そんなところだ】
「なら、お前は文字通り無能じゃないか!」
我はズボンのポケットに両手を突っ込んだ。ため息をつき、前へと歩き出す。
ポップアップが、我の左側に現れた。
【何か聞きたいことはないのか?ネタバレにならない範囲でなら、俺も手伝ってやれるぞ】
「ネタバレだと?この小説を読んでいる読者へのネタバレを気にしているとでもいうのか?」
我は肩をすくめた。
「お前の助けなど必要ない。我はこの世界のことなら、既にすべて知っているのだからな」
【結構だ】
そしてついに、システムは我の視界から消え去った。
いや、タナカ、だったか。くっ、忌々しい――そんな名で呼んでやるものか。
我の周りの通りは人でごった返しており、傍から見れば、我もただ露店で値切り交渉をしている一人の買い物客に過ぎないように映っただろう。
そう見えたかもしれない。だが、断じて違う。当然のことだ。
我はもっと深遠なことを考えていた。我のような聡明な頭脳でなければ、到底思いつけぬようなことを。
我は中世の世界にいる。ならば、王というものが存在するはずだ。
そうだろう、タナカよ?
ポップアップが現れた。
【何だ?】
「なるほど、我の心を読めるというわけか……教えろ、この世界には王国や王というものが存在するのだろう?」
【それはネタバレになる】
「……どういう意味だ?」
【王国があるかどうかを教えること自体が、この世界のネタバレになる。だから俺は――】
「まったく役に立たん奴だな!そ、それにあれは明らかに修辞的な問いだった!」
【じゃあな】
ポップアップは消えていた。
ったく……
さて、我の卓越した推理に話を戻すとしよう。神自らの手によって異世界に送り込まれた、高潔なる存在である我が、権力の座に就くのは当然の理屈だ。
王、といったところか。我はきっと、この国の王――
いや……それが事実なら、道行く者たちは我にぶつかるのではなく、我を見て気づくはずだ。
つまり、今この国では王位継承戦争が起きているに違いない。そして我は、それに勝利する運命にあるのだ!
うむ、実に筋が通っている。
我はこれから王になる。あるいは、既に三十万年もの間眠り続けていた王である、というのが妥当なところだろう。
王に常に必要なものとは何だ?ふむ、金、城……いや、それは後回しでいい。王に真っ先に必要なものとは、一体何だ――
無論、妃だ!まともな王というものは、皆美しい王妃を傍らに置いているものだからな。
それに、この世界を案内してもらうのにも、うってつけだろう。
一石二鳥というやつだ。
では、始めるとしよう。
我は人でひしめく通りの中央を見据えた。
「淑女たちよ!」
「我の前に列を作れ。この中から、気品ある王妃にふさわしき者を選んでやろう」
当然、我の声に通りは静まり返った。あらゆる視線が我に集中する。
そして、誰かが口を開くまでに、気まずいほど長い時間がかかった。
その中で、一人の幼い少女が母親の服の裾を引っ張った。
「ねえママ、あのバカ誰?」
ば、バカだと!?
「さあね。でも見ちゃだめよ、危ない人かもしれないし。何か問題を抱えてるのかもね」
母親は背を向け、娘の手を引いて立ち去った。
だが、幾千もの視線は、たった一人の男に注がれたままだった。
……
あ、あ、ああ……こ、こんなことは起きていない!わ、我は――
撤退だ!ミッション中止!!わ、我は今すぐ、戦略的撤退を敢行する!!




