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辺境伯家の最強令息、王都の学院で王女殿下に全力で懐かれる  作者: あるふぁ
第一章:転生、二つの人生の融合

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6話 ツンデレ妹の同行と、二人の奇妙な隠密予習

 屋敷の敷地側から「敵襲か!?」「山火事だ! すぐに現場へ向かえ!」と、大騒ぎでこちらへ走ってくる無数の気配がする。鎧が激しく擦れ合う金属音と、怒号が原生林の木々に反響して近付いてくる。


(やべっ、洒落にならん!)


 慌てて身を隠したユウキは、再び隠密スキルで気配を極限まで殺し、冷や汗を流しながら何食わぬ顔で森を駆け抜けた。自身の残した焦土の惨状を置き去りに、ただ影のように素早く動く。


 迷路のような屋敷の敷地へ滑らかに侵入し、さきほど抜け出した窓から自室へと滑り込む。そのまま何とか自分の部屋のベッドへと滑り込むように逃げ帰った。窓の外からは、慌ただしく駆け回る兵士たちの重い足音や、消火に向かう魔術師たちの緊迫した指示が未だに地響きのように響いてきていた。


 安全なベッドの上でどっと押し寄せた冷や汗を手の甲で拭いながら、ユウキは天井を見上げてぽつりと呟いた。


「……魔法は、しばらく封印だな。これじゃ目立ちたくなくても一発でバレる」


 手のひらに残る、世界を焼き尽くしかねない熱の余韻。


 こうして、世界を滅ぼしかねない最強のスペックを持ちながらも、「無能のフリをしてのんびり過ごしたい少年」の、破天荒で波乱に満ちた異世界生活が幕を開けるのだった。



♢ツンデレ妹の同行と、二人の奇妙な隠密予習


 ベッドにドサリと横たわり、天井を見つめながらユウキはこれからの身の振り方を考えていた。

 先ほど森を消し飛ばした破壊力を思い出し、「魔法は完全封印だな」と決めたばかりだったが、記憶の引き出しをさらに漁っていくうちに、ある重大な事実に突き当たった。


(……あ、忘れてた。貴族学院って、座学の授業だけじゃないじゃん)


 脳裏に蘇ったのは、生徒たちが実際に木剣を握って汗を流す剣術の授業や、標的に向かって魔法を放つ実技訓練の光景だった。

 このまま魔法を完全に封印して一切使わないとなれば、ただの「魔法すら満足に使えない無能」として、これまで以上に悲惨な評価を受けることになってしまう。のんびりスルーを決め込みたいとはいえ、無駄に舐められて面倒事に巻き込まれるのは本意ではない。


(全面封印はナシだ。……よし、この世界の『標準』に合わせよう)


 ユウキは目標を軌道修正した。まずはこの国の軍に所属する本物の魔術師たちをステータス鑑定の基準とし、彼らが放つ実戦魔法よりも、さらに威力をガッツリと抑え込んだ『中の下』あたりの出力を目指して調整する。それが一番目立たないはずだ。


 そうと決まれば、さっそく感覚を掴むために外へ出よう。

 再び部屋を出て大理石の廊下を歩いていると、まるで待ち伏せていたかのように、前方の角からミオルが姿を現した。


「あら、お兄様。お出かけですの?」


 声をかけてきたミオルの反応は、先ほどまでとは完全に激変していた。

 ユウキを蔑んでいたはずのつり目の瞳はどこか潤んでおり、向けられる視線には明らかに熱が混じっている。トゲのあった言葉遣いは信じられないほど柔らかくなり、ドレスの裾を指先でいじりながら、どことなく恥ずかしそうにモジモジと話しかけてくる。完全にさっきの耳元での囁きを、今も引きずっている様子だった。


「ま、学校の実技の予習でもしようかと思ってな」


「……ふぅん……そうですか。では、わたしもお供しますわ」


 あまりの態度の変わりように、ユウキは引き気味に眉をひそめる。


「な、なんだよ? 見張りのつもりなのか?」


「違いますわ……! わたしも、その、予習ですわ。ちょうど体を動かしたいと思っていましたの」


 ミオルはぷいっと勢いよく顔を背けたが、ふわふわとした淡い金髪の隙間から覗くその耳たぶは、夕暮れの残光を浴びたようにほんのりと赤いままだ。微かに上ずる声を必死に隠そうとする彼女の横顔を、ユウキはどこか呆れたような目で見つめるのだった。


 最初は「面倒なことになったな」と思ったユウキだったが、すぐに思い直した。中身が現代人の自分は、この世界の魔法の平均値や常識が分からない。だが、優等生である妹のミオルを観察し、彼女からそれとなく情報を聞き出せば、学院の授業で知らずに上級魔法やレアな魔法をぶっ放して大騒ぎになるのを防げる防波堤になる。


「……まぁ、いいか。行くぞ」


「ええ、お兄様」


 こうして二人は並んで歩き出したが、その光景はヴァルテンブルク屋敷の住人たちにとって、天地がひっくり返るほどの異常事態だった。


 いつもは顔を合わせれば一方的に罵っていた犬猿の仲の兄妹が、なぜか距離を詰めて仲睦まじげに歩いているのだ。しかも、あからさまに毛嫌いをしていた妹のミオルが、兄のユウキの横顔を見つめて嬉しそうに微笑んでさえいた。


 そんな二人とすれ違うメイドたちは驚きのあまり持っていた銀トレイを落としそうになり、カシャリと金属の硬い音を響かせる。通路を固める警備の兵士たちは、俺は幻覚を見ているのか……と言わんばかりに驚愕の表情を浮かべ、慌てて見て見ぬ振りをして目を逸らしていた。張り詰めていた武闘派の屋敷の空気が、困惑と動揺で奇妙に波打っていく。


 周囲の凄まじい視線の群れを背中に浴びながら、ユウキとミオルは屋敷の裏手にある広大な訓練場へと向かうのだった。


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