44話 王国の重鎮たちとの対面
普通の人間、あるいは並の貴族であれば、この並び立つ重鎮たちの圧倒的な覇気と威圧感を前にしただけで、その場に腰を抜かして座り込み、命乞いを始めてしまうような絶望的な空間。
だが、中身が転生者であり、元より規格外のステータスを持つユウキにとっては、その威圧感など春の微風にも満たなかった。
(うわぁ……やっぱりめちゃくちゃ怒る気満々じゃん。完全に包囲網敷かれてるよ。どうしよう、「父上が勝手に軍を動かしました」って全部親父のせいにしちゃおうかな……)
ユウキは内心で再び深い溜め息を吐きながら、どうやってこの面倒なお説教から逃れるか、そればかりを考えていた。
緊迫した静寂の中、円卓の最上席にいた宰相がゆっくりと立ち上がり、重々しく口を開いた。
「急に呼び立ててしまい申し訳ない、ヴァルテンブルク辺境伯令息ユウキ殿。さっそくではあるが、本題を話そう」
宰相の鋭い眼光がユウキを射抜く。
「率直に言おう。我々は、国境を守るヴァルテンブルク辺境伯家には大いに感謝している。君がこれまで成し遂げた偉業も、驚嘆に値するものだ。……だが、ヴァルテンブルク辺境伯のご令息である君が、隣接する鉱山資源の豊富な旧伯爵領の臨時領主として居座り、そこをも完全に治めるとなれば話は別だ。ヴァルテンブルク家が、中央を脅かすほどの権力と発言力を持ちすぎるのではないかと、王宮内でも危惧する者が非常に多いのだよ」
――それすなわち、「これ以上の専横は許さない。大人しく利権を手放せ」という、国家中枢からの事実上の脅しであり、政治的な圧力であった。重鎮たちは、この若き英雄に冷や水を浴びせ、王国の優位性を知らしめるつもりだったのだ。
宰相が話を終えると同時に、タイミングを見計らったかのように部屋の扉が勢いよく開け放たれた。
本来なら厳重な警備兵が立ち塞がっているはずの最高軍事会議室。間違って誰かが入室することなどあり得ないその場所に、華やかな足音を響かせて入ってきたのは――。
「ユウキ様! お越しになられていたのですね!」
サラサラの淡い金髪を揺らし、サファイアの瞳を輝かせた第一王女、セルシア・バルハイトだった。
セルシアは周囲の重鎮たちの驚愕の視線を一切無視し、当然のような顔でユウキの真横へと歩み寄ると、ぴったりと身体を寄せて隣の席に座り込んだ。
「あ、セルシア。どうしてここに?」
「ユウキ様が王宮の重鎮たちに呼び出されたと聞き、居ても立ってもいられず駆けつけましたの!」
突然の王女の乱入に、ユウキは苦笑いを浮かべつつも、先ほどの宰相の言葉を頭の中で反芻した。
重鎮たちの言い分は、要するに「お前が領地を持ったらヴァルテンブルク家が強くなりすぎて怖いから、臨時領主を辞めろ」ということだ。
それは、目立ちたくなく、のんびりスローライフを送りたいユウキにとって、これ以上ない「渡りに船」の提案だった。
「なるほど、そういうことですか。分かりました」
ユウキは心底ホッとした表情を浮かべ、晴れやかな声で即答した。
「では、臨時領主の解任、確かに了承しました。利権も領地もすべて即刻立ち退きますので、後の面倒な書類手続きや鉱山の管理は、どうぞ皆さんでよろしくお願いします。いやあ、助かりました」
面倒極まりない領地経営から、国の方から合法的に解放してくれるというのだ。ユウキとしては万々歳だった。これでようやく、王都でのんびりサボる学生生活に戻れる。
しかし――安堵したユウキとは対照的に、彼の隣に座るセルシアから、この世の終わりかと思うほどの凄まじい怒りのオーラが爆発した。
「……っ、あり得ませんわ!!」
ドンッ! と、セルシアが華奢な手で円卓を激しく叩いた。そのサファイアの瞳には、重鎮たちを容赦なく射殺さんばかりの、苛烈な怒りの炎が燃え盛っている。
「どういうことですの、皆様方!? ユウキ様を解任!? 正気の沙汰とは思えませんわ! あの荒廃しかけていた鉱山領地を、これほどの爆速で立て直し、完璧に引き継げる者が他にいるとでも仰るのですか!?」
「ひ、姫殿下、これは国家の権力バランスの調整であり――」
青ざめる宰相の弁明を、セルシアは鋭い怒声で叩き潰した。
「黙りなさい! これは我が父、国王陛下のご指示なのですか!? いいえ、陛下がこのような愚策を認めるはずがありませんわ! 今回の、我が国に対する謀反とも言える汚職文官どもや公爵家の行いを、皆様方は長年放置してきたのでしょう!? それを、たった一人で完璧に解決なされたのがユウキ様なのですわよ!? 救国の英雄に対し、恩賞を与えるどころか、言われなき疑いをもたせて解任ですって!? 恥を知りなさい、この中央の無能な烏合の衆がっ!!」
「くっ……!」
「う、うむ……」
王女の烈火のごとき正論の猛追に、百戦錬磨の重鎮たちが一斉に顔を引つらせ、言葉を詰まらせた。
早いもので、次話が最終話となります。
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