43話 重鎮たちの目論見と、若獅子の自重なき超高速撤退
――時を同じくして。
我が子ユウキと未来の王妃セルシアの命が、中央の汚職まみれの公爵派閥の貴族ごときに狙われたことを知った、もう一人の「本物の化け物」の逆鱗が爆発していた。
「――我が息子と、未来の王妃を狙うとは。中央の烏合の衆め、この王都を更地にされたいらしいな」
王都の城門前。地響きを立てて現れたのは、熊のように強靭な肉体を持つ男――ユウキの父親であり、現ヴァルテンブルク辺境伯その人だった。
法律? 政治的駆け引き? そんな生ぬるいものは、最強の武闘派貴族には一切通用しない。
父親は国王の許可(動員令)など無視し、国境を守る最前線で凶悪な魔物や隣国の侵略軍と戦う最強の「辺境伯軍」の精鋭一個師団を直々に動かし、文字通り地響きを立てて王都へと進軍してきたのだ。
「ひ、悲鳴を上げるな! 辺境伯、これは反逆だぞ! 法律に違反して軍を動かすなど――」
包囲された公爵邸のバルコニーで、泡を吹いて命乞いをする大物公爵。
しかし、現辺境伯は冷酷に笑い、手にした巨大な大剣を地面に突き立てた。
「法律だと? 貴様らの汚職の証拠、そして今回の暗殺教唆の証拠は、すでに我が息子の内政調査によってすべて王宮へ提出済みだ。……王国を死守し過酷な最前線で戦う我が辺境伯軍を前に、その貧弱な私兵共で何ができるか試してみるか?」
直接肌で感じる圧倒的な軍事力、そして言い渡された政治的な完全敗北。
逃げ場を完全に失った黒幕の公爵たち、そしてずっと裏でユウキの悪評などの噂を流し、嫌がらせに加担していた腰巾着の伯爵・子爵・男爵たちの邸宅は、辺境伯軍の圧倒的な武力によって物理的・政治的に文字通り「完全圧殺」された。
家財没収、爵位剥奪、お家潰し。
生き残った汚職にまみれた貴族の一族は芋づる式に全員が罪人となり、大罪人は極刑され、他は過酷な開拓地や鉱山へと追放され、歴史からその名を完全に消し去られた。ここに、全ての因果応報が完了したのである。
♢重鎮たちの目論見と、若獅子の自重なき超高速撤退
激しい嵐が去り、中央の汚職派閥が一掃された王都。その騒乱の余韻が冷めやらぬ中、ユウキの元に一通の書状が届けられた。
それは、現国王からではなく、バルハイト王国政府の最高機関から発せられた『公式召喚状』であった。
「……はぁ。やっぱり、あれだけ派手に暴れりゃこうなるよな」
別邸の自室で、ユウキは天を仰いで深い溜め息を吐いた。
中央貴族の私兵数百人を魔法の光条で一網打尽にし、さらには父親の辺境伯軍まで王都へ進軍させたのだ。いくら正当防衛と汚職の摘発が目的だったとはいえ、王国のお偉い方からすれば、頭痛の種以外の何物でもないだろう。
(絶対にガミガミ怒られる。最悪、また面倒な謹慎処分とかにされるパターンだ、これ)
憂鬱な気持ちを抱えつつも、ユウキは普段の学院の制服ではなく、実家から用意された仕立ての良い重厚な正装に身を包み、しぶしぶ王城へと向かった。
白亜の王城に到着すると、異様な空気がユウキを出迎えた。
いつもなら傲慢な視線を向けてくる王城の近衛兵や兵士たちが、ユウキの姿を見た瞬間に一斉に直立不動の姿勢を取り、怯えたように道を譲るのだ。その様子は、すんなりと待合室へ案内される間も一切変わらなかった。
「ゆ、ユウキ様、こちらでお待ちください……っ」
案内してくれた上級兵士の案内はどこまでも丁重だったが、その声は小刻みに震えており、額からは大粒の冷汗が流れ落ちている。
(あはは、まー、あんなことしちまった後だし、怯えるのも無理はないか……)
ユウキは内心で苦笑しながら、お茶を運んできたメイドの手元がガタガタと音を立てているのを眺めていた。用意された極上のハーブティーを一口啜り、これから受けるであろうお説教に対する言い訳を頭の中で必死に構築しつつ、呼び出しの時間を待った。
やがて、部屋の重厚な扉が控えめにノックされた。
現れたのは、先ほどよりもさらに階級の高い上級将校だった。彼は一礼すると、普段使われる謁見の間や応接室とは、明らかに方向の違う廊下へとユウキを誘導していく。
案内されたのは、窓の少ない、重々しい鉄扉で閉ざされた大部屋――国家の重大な戦略や、有事の際の軍事作戦を決定する『最高軍事会議室』だった。
ユウキが一歩足を踏み入れた瞬間、肌を刺すような濃密な威圧感が大気を満たした。
円卓を囲むようにして待ち構えていたのは、王国の政治と軍事を一手に掌握する最高権力者たち、すなわち王国の重鎮たちであった。
中央で冷徹な眼光を放つ王国宰相。その隣で岩のように座る軍の総司令官。そして、かつてユウキが救出した近衛騎士たちの長である、厳格な近衛騎士団長。この国の実権を握るトップ3が、揃いも揃って険しい表情でユウキを睨みつけている。




