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辺境伯家の最強令息、王都の学院で王女殿下に全力で懐かれる  作者: あるふぁ
第7章:激動の婚約と、辺境伯家の「ざまぁ」大反撃

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42話 害虫駆除の開始

 あの時、バランスを崩したセルシアをソファに受け止め、その柔らかな体躯と甘い鼓動に激しく動揺させられた、単なるラブコメの舞台装置――。

 だが、あの時二人で完成させた「ロストテクノロジー」級の古代術式は、ただの思い出に留まらなかった。ユウキの手によって、密かに辺境伯家の精鋭や、別邸の護衛たちに配備された新型通信魔道具へと組み込まれていたのだ。


「セルシアと解読したあの術式が、今ここで生きる、か」


 ユウキは小さく口角を上げると、通信魔道具に自身の海のごとき膨大な魔力をほんの一滴、流し込んだ。

 キィィィン――という微かな共鳴音と共に、別邸の敷地内、さらには学院周辺の広範囲に散らばっていた護衛や辺境伯軍の隠密たちの魔道具が、一斉に強制同期される。


 それは、ただの音声通信ではない。

 ユウキの『索敵スキル』が捉えた敵の数、位置、移動速度、さらには呼吸の乱れに至るまでの全戦術情報が、術式を通じてすべての味方の脳内へとダイレクトに、かつ完璧な高精度データとして共有された瞬間だった。


 敵の隠密行動も、奇襲のタイミングも、すべてが「視える化」された。



♢害虫駆除の開始


「……よし、聞こえるか。これより、害虫駆除を始める」


 ユウキは通信魔道具へ向かって、チェス盤のキングが駒を動かすかのように、冷徹で圧倒的な指示を飛ばし始めた。


「A班、3秒後に左方から突入してくる暗殺者3人を迎撃。相手は右足に重心が偏っている。B班、屋根の上の魔導師どもが呪文を完成させる前に、配置についたシアが影から処理する。お前たちはそのまま退路を塞げ。C班は――」


「は、はいっ! 了解いたしました、若様!」


 スピーカーから返ってくる護衛たちの声には、驚愕と、それ以上の絶対的な高揚感が混ざっていた。自分たちの脳内に流れ込んでくる完璧な戦術マップと、的確すぎる指示。これなら、レベル100の指揮官に手取り足取り操られているようなものだ。負けるはずがなかった。


「……ふぅ。よし、下準備は終わりだ。あとは、外でイキがってるバカどもの相手を、俺自身が軽くしてやるか」


 完璧に張り巡らされた広域同期ネットワークの中、ユウキは重厚な椅子からゆっくりと立ち上がった。セルシアと共に紡いだ術式という名の「チェス盤」の上で、中央の汚職派閥という名の無能な烏合の衆を蹂躙するための、圧倒的なチェックメイトが今、静かに幕を開ける。


「友軍に告げる。そろそろ全てを終わらせるぞ、屋外にいる者は全員建物内に避難せよ。これから敵の殲滅を開始する」


 彼にとって、この世界に存在する「魔法を封じる結界」や「魔力制限の呪い」など、何の意味も持たない。まるで薄っぺらな紙の包み紙で、世界を滅ぼす巨人の両手を縛ろうとしているようなものだ。破ろうと思えば、ただ指先を動かすだけで文字通り霧散する代物だった。


 ユウキは椅子に座ったまま、気怠げに右手を天井へと掲げた。


「――展開ディプロイ


 小さく呟かれたその声は、世界の理を書き換える神託のごとく響いた。

 瞬間、暗闇に包まれていた別邸の上空が、息をのむほどに美しい「金色の光」によって塗りつぶされる。


 ウオォォォン……! と大気を激しく震わせる重低音と共に、屋敷の屋根を透過するようにして、夜空を埋め尽くすほどの巨大な魔方陣が、幾重にも重なり合いながら突如として出現した。淡く、しかし太陽のごとき圧倒的な威光を放つ金色の幾何学模様が、包囲する兵士たちの顔を恐怖一色に照らし出す。


「な、なんだこれは……!?」


「光の、魔方陣……!? こんな規模の術式、人間が一人で扱えるわけが――」


 包囲網の指揮官や魔導師たちが狂乱の悲鳴を上げるが、すでに遅い。

 ユウキからすれば、彼らはチェス盤の上に並べられた、ただの無機質な駒に過ぎなかった。どこにどの駒が配置されているか、そのすべては完璧に把握している。


「チェックメイトだ」


 ユウキが、掲げていた右手を無造作に、優雅に振り下ろす。


 刹那――夜空を埋め尽くした大量の魔方陣から、無数の金色の光の矢が降り注いだ。

 それはまるで、天から降り注ぐ光の豪雨。


 ドガガガガガガッ!!!


 轟音と共に放たれた光の矢は、超高精度の誘導レーザーのごとく、屋敷の建物をミリ単位で回避し、外輪を包囲していた大軍勢だけを正確無比に貫いていく。

 盾を構えた重装兵も、防御結界を展開した魔導師も、その圧倒的な質量と威力を前にしては均しく無力だった。肉を裂き、鎧を穿ち、大地に突き刺さる金色の閃光。


 悲鳴を上げる暇すら与えられない、完璧なる一瞬の殲滅。

 まばゆい光の残滓が夜空へと溶けていく中、あとに残されたのは、一本の矢も当たらず無傷のまま佇む別邸と、その周囲で完全に戦闘不能となり、大地へ転がっている数百の兵士たちの山だけであった。

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