40話 焦燥する黒幕と、暗部精鋭の大規模急襲
♢焦燥する黒幕と、暗部精鋭の大規模急襲
だが、この幸福な光景の裏で、どろりとした破滅の足音が迫っていた。
「おのれ……! 婚姻が正式に成立し、ヴァルテンブルク家が王宮の権力まで掌握してみろ! 我々中央の公爵派閥は完全に終わりだ……!」
王都市街の豪華絢爛な公爵邸。その暗い一室で、これまで利権を貪ってきた中央貴族の黒幕――大物公爵を中心とする者たちは、怒りと焦燥で完全に正気を失っていた。
ユウキの内政無双によって経済的に大きな資金的なダメージを負い、公式決闘によって腰巾着のライネルたちを失脚させられた。もはや後がない。
「婚姻の儀が行われる前に、あの出がらしと呼ばれるガキを……いや、あの化け物を葬るのだ! 我らが抱え込んできた『暗部』の精鋭、さらに禁忌の術を得意とする暗殺者集団をすべて動員し直ちに動かせ! ヴァルテンブルクの別邸と貴族学院を同時に叩き潰せ!!」
その夜、王都の夜空が不自然に歪んだ。
ユウキたちの滞在する辺境伯家の別邸、そして油断しているはずの貴族学院の周囲に、大気を激しく遮断する「大規模な隠蔽と魔力霧散の結界」が張られる。
カツン、カツン、と闇に紛れて屋根を伝う、無数の黒装束の影の集団。
その数、総勢数百名。国家転覆すら不可能なレベルの、公爵派閥の貴族たちが全財産を投じて集めた最強最悪の暗殺軍団だった。彼らは一斉に刃を煌めかせ、別邸の寝室へと音もなく飛び降りる――。
♢チェスを動かすような「無双」と、父親の「物理的圧殺」
ガシャン!と窓ガラスを割り、室内に突入してきた暗殺者たち。しかし、彼らが目にしたのは、ベッドの上で暢気に寝ているユウキの姿ではなかった。
部屋の中央、月光を浴びながら、ユウキは椅子に深く腰掛け、退屈そうに指を組んでいた。
「はぁ、まったく遅かったな。待ちくたびれたぞ」
「なっ、貴様、なぜ気がついて――」
暗殺者が驚愕の声を上げるより早く、ユウキの影がすうっと不自然に伸びた。
影の中から音もなく現れたのは、銀髪を夜風に揺らした美少女――ユウキの専属女従、シアだった。
「主様。学院側、およびこの別邸を包囲したネズミの数、合計四百二十一。配置の特定、すべて完了いたしました」
「よし、シア。配置につけ。ネズミが一匹残らずどこにいるか、お前のスキルで全て炙り出せ。それじゃ……始めるとするか」
「御意、主様の御心のままに……」
シアの翡翠色の瞳が、冷徹な輝きを放つ。
ユウキが彼女と結んだ「従者契約によるスキル付与」。ユウキの膨大な魔力によって限界突破したレアスキル『隠密』と『千里眼』や『気配関知』、そしてユウキ自身の規格外の索敵スキルにより、敵の配置は最初から全て丸裸だったのだ。
ユウキは一歩も椅子から動かない。ただ、自身の通信魔道具を通じて、別邸に配備していた辺境伯家の裏の護衛たちへ、チェスの駒を動かすように的確な指示を飛ばす。
『――左翼、三人。シアの影縛りで動きを止めた。叩け』
『――中庭の池の裏、爆発トラップを起動』
「ぎゃああああっ!?」
「な、なんだこれは!? なぜこちらの動きが全て読まれて――がはっ!?」
闇夜に響き渡る、暗殺者たちの絶望の悲鳴。
最強の精鋭であるはずの暗部が、ユウキの完璧な裏の指揮によって逆にハメ殺され、完膚なきまでに返り討ちにされていく。
♢別邸襲撃・暗殺者リーダー戦
重厚な執務室の扉が、凄まじい爆縮の風圧とともに内側へと吹き飛んだ。
煙塵の向こうから姿を現したのは、中央貴族の汚職派閥が放った暗殺団のリーダーだった。
全身をどす黒い魔力の衣で包み、その胸元には不気味な鈍色に明滅する、禍々しい文様が刻まれた首飾りが握られている。
「フハハハ! 見つけたぞ、ヴァルテンブルク家の出がらしが! いかに規格外の身体能力を持とうとも、我が『神殺しの不落呪具』の前には無力と知れ!」
暗殺者のリーダーが狂笑とともに首飾りを掲げると、別邸の空間全体がぐにゃりと歪んだ。
それは、あらゆる魔法を完全に無効化し、さらには生身の拳による物理的な衝撃すら一瞬にして四散させてしまう、古代の絶対防御呪具であった。触れるものすべてを無に帰す不可視の障壁が、ユウキに向かって急速に狭まっていく。
いつもなら「肉体言語(ただの拳)」で済ませるはずのユウキだったが、迫り来る障壁が放つ異様な魔力波を『ステータス鑑定』した瞬間、わずかに眉をひそめた。
(……なるほど。生身の拳で殴ったら、その衝撃エネルギーをそのまま熱量に変換して霧散させる術式か。よくもまぁ、そんな面倒な玩具を持ち出してきたもんだ)




