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辺境伯家の最強令息、王都の学院で王女殿下に全力で懐かれる  作者: あるふぁ
第一章:転生、二つの人生の融合

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4話 平均的な辺境伯の息子

 特筆すべきは、外敵や獰猛な魔物の急な襲撃に即座に対応するため、国王の許可なしに独自の判断で戦争を始められる「強大な軍事権」が認められている点だ。普通、貴族が軍隊を動かすには国王の動員令が必要だが、辺境伯は例外的に強力な私兵団を保有し、独自の判断で動かすことが許されている。

 さらに、領地内の税金を国に納めずすべて自分の軍備に回せる「免税特権」や、独自の法律で領民を裁く「裁判権」まで有していた。中央の法律が届かないその領地は、王国内でありながら、半分は「独立国家」のような独自の強さを保っている。


 もし辺境伯がへそを曲げて国境の守りを放棄すれば、王国は一瞬で滅びる。ゆえに国王や中央の権力者たちも常に気を遣っており、時に王家すら無視できない圧倒的な発言力や影響力を持つ。国境の危機はあまりに巨大であり、近隣の辺境伯軍同士が手を組んで連合軍を作り、事態に対処するなどという生易しい真似は到底不可能だった。一つの辺境伯家が、それぞれ単独で一国に匹敵する防衛力を担わねばならないのだ。


 そして、このヴァルテンブルク領こそが、魔物の襲撃を頻繁に受ける最前線だった。重厚な石造りの壁には、過去の激戦を物語る無数の爪痕や、魔術の焦げ跡が深く刻まれている。領地全体が巨大で強固な城壁に囲まれ、鉄壁の城塞都市として機能するこの危険な地を統べるヴァルテンブルク家は、数ある辺境伯の中でも群を抜いて最上位の権力と、王国最強の私兵団を擁していた。窓の向こうから響く兵士たちの無骨な掛け声が、その圧倒的な武力と誇りを証明するように、夕暮れの空に重く張り詰めていた。


 ──だが、この世界で何よりも重要視されるのは、家柄だけではない。


「魔力、魔力量……それに身体能力、か」


 ユウキは己の手のひらを見つめ、小さく呟いた。指先を見つめるその瞳は、現実を冷静に見定めようとする光を宿していた。


 この世界を支配する最も重要なルール。それは、個人の持つ純粋な強さだった。体内にどれほど膨大な魔力を宿しているか、どれほど優れた身体能力を持っているか。要するに、戦いにおいて強いヤツこそが至高であり、最も偉く、人々から無条件に尊敬され敬われる。洗練された血統という盾の裏で、生々しいまでの暴力が価値を決める、そんな極端な実力主義の世界なのだ。


 だからこそ、元々のユウキへの評価は悲惨なものだった。


 魔力量の底浅さも、魔法を紡ぐ技術の未熟さも、剣技の鋭さも、身体能力の限界も、すべてにおいて見事なまでに平均的。悪く言えば、特筆すべき才能が何一つない凡庸。一国に匹敵する武力を誇るヴァルテンブルク家において、その平々凡々さはそれだけで罪に等しかった。その上、性格は弱々しく大人しい。


 記憶の中にある周囲の視線が、再び脳裏をかすめる。それは単なる格下への見下しではなく、最強の血筋に生まれながらも牙を持たない、出来損ないの仔犬を見るような、哀れみと冷ややけな失望に満ちていた。


 物陰から、こちらに気づいていない使用人たちの声が微かに聞こえてくる。


「……なぁ、若様、また昼間から寝ておられたらしいぞ」


「はぁ、ヴァルテンブルクの長男だというのに、あの弱気な性格はどうにかならないものか。魔力も剣も凡庸極まる。あんなことで、魔物が押し寄せるこの過酷な領地を本当に継げるのだろうか……」


 石造りの廊下の冷気を含んで響く、陰口。将来を不安視し、失望を隠そうともしない冷ややかな声が、重く沈殿していく。

 しかし、今のユウキ──悠希は、そんな声を耳にしても、傷つくどころかフッと小さく鼻で笑うだけだった。精神が抉られるような痛みなど微塵もない。


(将来を心配、ね。まぁ、今までの俺ならその通りなんだろうけど……)


 胸の奥、自身の魂の深淵へとそっと意識を向けてみる。


 次の瞬間、ユウキは息を呑みそうになった。まるで底の見えない暗海のように、恐ろしいほど膨大な魔力が、自身の身体の中で静かに、だが皮膚の裏側を焼き焦がさんばかりに力強く脈打っているのが分かった。


 それは、元々のユウキの身体がただ眠らせていた、世界を揺るがすほどの規格外な力。現代からやってきた悠希の魂という不純物が引き金となったのか、転生をきっかけに、漆黒の檻を壊して完全に目覚めようとしていた。あまりの密度の濃さに、周囲の空気がピリピリと微弱な静電気を帯びて震える。


「悪いが、これからはその心配、まったくの無用になるぜ?」


 誰もいない薄暗い廊下で、誰に聞かせるでもなくそう呟く。ユウキは唇の端を吊り上げ、不敵な笑みを浮かべた。溢れんばかりの己の力を確かめるように、五指を折り、拳をぐっと強く握りしめる。その瞬間、手のひらの中で弾けた見えざる魔力の奔流が、確かな熱となって彼の全細胞を支配していった。

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