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辺境伯家の最強令息、王都の学院で王女殿下に全力で懐かれる  作者: あるふぁ
第6章:王女殿下の「正妻ムーブ」と義妹の焦燥

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38話 宣告される王室の裁き

 ――ドゴォォォォン!!!


 次の瞬間、大演習場の空間そのものを激しく揺るがすような、凄まじい衝撃波が凄絶に爆発した。


「ぎゃあああああああああっ!?」


 ライネルの持っていた自慢の特注魔導剣は、まるで脆いガラス細工のように一瞬で粉々に砕け散り、その破片が太陽の光を浴びてキラキラとダイヤモンドダストのように宙に舞う。

 そして、デコピンが放った凄まじい風圧それだけで、面白いように後ろへと弾き飛ばされたライネルの身体が、まるで大砲の弾のような猛烈な勢いで舞台の端まで転がり、演習場を囲む頑丈な防護結界に背中から大音響と共に激突した。


「がはっ……!」


 ドサリと床に落ち、白目を剥きながらピクピクと手足を痙攣させて完全に気絶する伯爵令息。


「……あ。やべ、ちょっと力入りすぎたか?」


 ユウキは自分の右手の指先を凝視し、額から冷や汗を流しながらぽつりと呟いた。これでも彼の中では、飛んでいる蚊を軽く叩くほどの極小の力しか出していないつもりだったのだが、人間の枠を遥かに超越した規格外のステータスは、やはり繊細な自重が恐ろしく難しい。


 広大な演習場は、今や完全に氷河期が訪れたかのように凍りついていた。

 すり鉢状の観客席に座る誰もが、限界まで目を見開き、呼吸をすることすら忘れて舞台の上に佇む一人の少年を凝視している。

 剣を抜くどころか、ただの「デコピンの放った風圧」だけで、中央貴族の精鋭を自称していた男が文字通り一撃で瞬殺されたのだ。



♢宣告される王室の裁き


「し、勝者……ユウキ・フォン・ヴァルテンブルク!」


 審判を務める教師の、恐怖に震える声が静寂を切り裂いて響き渡ると同時に、観客席の最前列から、サラサラとまばゆい金髪を揺らした美少女が勢いよく立ち上がった。第一王女セルシアだ。その美しいサファイアの瞳は、熱烈な憧憬と、隠しきれない愛おしさで爛々と輝いている。


「素晴らしいわ、ユウキ様! やはり貴方は、知勇を兼ね備えた我がバルハイト王国の真の英雄です! おーっほっほ、身の程知らずな中央の泥棒猫が、これで少しは身の程を弁えて大人しくなるかしら?」


 まるで自慢の夫を称える新婚の妻のように、誇らしげに豊かな胸を張る王女の「全力正妻ムーブ」を目の当たりにし、観客席の男子生徒たちは激しい嫉妬と底知れぬ恐怖で完全に狂いかけていた。しかし、先ほど見せつけられたユウキの圧倒的な武力を前に、誰一人として文句を言う声はおろか、呼吸の音さえ出せなかった。


 気怠げに歩き出すユウキの動きに合わせて、周囲の貴族生徒たちが怯えたようにバッと左右へ道を空ける――まさにモーセの海割りのような恐慌の光景が、そこに再現されていた。


 だが、この日の衝撃はこれで終わりではなかった。


 重々しい足取りで壇上に進み出た学院長が、鋭く冷徹な声をマイクの魔導具に乗せて、演習場全体へと響かせる。


「静粛に。……先ほど戦闘不能となったライネル・フォン・グラナード令息、およびその取り巻きの生徒数名に対し、学院の最高決定機関、ならびに王室の連名による厳重なる処分をここに発表する」


 その容赦のない言葉に、激痛のなかでようやく気絶から目を覚まし、腰を抜かした状態でガタガタと無様に震えていたライネルが、絶望に染まった顔をゆっくりと上げた。


「ライネルらは、中央の汚職派閥と結託し、公文書の偽造、ならびに旧伯爵領における鉱山資源の不正横領に関与していた疑いが完全に立証された。これはヴァルテンブルク家、延いては王家に対する明白な叛逆行為である」


「な、貴様ら……何を言って……! 俺の後ろにどなたがいらっしゃるか分かっているのか!?」


 ライネルが裏返った悲鳴のような声を上げるが、学院長はその見苦しい姿に一瞥もくれない。


「よって、ライネル・フォン・グラナードを本日付で『退学処分』とし、その身柄を即座に王宮近衛騎士団へ引き渡す。グラナード伯爵家家門に対しては、爵位剥奪を含む厳罰が下るものと心得よ」


「そんな……ばかな……! 俺は、俺は伯爵家の高貴な次期当主だぞ! ただ田舎者に負けただけのはずだ、なぁ、誰か助けてくれ、助けてくれぇ!!」


 冷徹な近衛騎士たちに両脇を荒々しく引きずられ、床に爪を立てながら、文字通り涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにして連行されていくライネル。その姿には、かつてユウキを「辺境の野蛮人」「無能の出がらし」と見下し、嘲笑っていた傲慢な面影など微塵も残っていない、ただの無様な敗北者のそれだった。


 中央の汚職派閥である大物公爵の経済的利権を、ユウキの圧倒的な内政無双によって完全に叩き潰され、彼らが最後の足掻きとして仕掛けたつもりだった武力行使(決闘)すらも、たった一発の「手加減デコピン」の風圧だけで粉砕されたのだ。これ以上ないほど完璧で、残酷な「公式公開処刑」であった。


 絶望の叫び声を上げながら去りゆくライネルの背中を、ユウキはやっぱり心底面倒くさそうに見送る。


(あーあ……これでまた、俺の望む平穏なスローライフが、宇宙の彼方まで遠のいたな……)


 心の中で深く重い溜息をつくユウキの背後に、足元の影から一切の音もなくシアが当然のように姿を現し、さらには観客席からミオルが「お兄様、お怪我はありませんか!?」と血相を変えて凄まじい勢いで駆け寄ってくるのが見えた。

 世界最強の武力を隠し持ちながら、どこまでも平穏を愛するユウキの、甘すぎる上に賑やかすぎる学院生活は、まだまだ多くの波乱を孕んで続いていきそうだった。

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