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辺境伯家の最強令息、王都の学院で王女殿下に全力で懐かれる  作者: あるふぁ
第6章:王女殿下の「正妻ムーブ」と義妹の焦燥

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34話 別邸の火花と、義妹の焦燥

 周囲の男子生徒たちは、持っていたハンカチをキリキリと音が出るほどに噛み締め、猛烈な嫉妬と羨望で目を血走らせていた。学園の誰もが憧れる高嶺の花であり、完璧なる王女殿下にここまで健気に尽くされるユウキが、羨ましくて、そして憎くてたまらないのだ。しかし、彼らはユウキが秘める「規格外の凶悪な強さ」を嫌というほど知っているため、怖くて直接文句の言葉を言うことすらできなかった。


 その一方で、先の汚職派閥に近い中央貴族の生徒たちは、まったく別の意味で顔を青くし、震える声でヒソヒソと陰湿に囁き合っていた。


「見ろ、あの辺境の野蛮人が、王女殿下を完全にたぶらかしているぞ……!」


「ヴァルテンブルク家は、あの鉱山を一瞬で掌握した内政無双の力と王女を後ろ盾にして、王権を我が物にするつもりだ。これぞまさに王位簒奪の企みに違いない……!」


 彼らは、自分たちの不当な利権を完膚なきまでに叩き潰された逆恨みを綺麗さっぱり棚に上げ、勝手に恐怖と大警戒を強めていた。

 己を排除するための、どす黒く危険な陰謀の足音が、学園の裏側で確実に本格化しつつあることなど、目の前の贅沢な弁当に戸惑うユウキ本人は知る由もなかった。



♢別邸の火花と、義妹の焦燥


「――お、お兄様ッ!!!」


 夕闇が迫る王都の一角に佇む、重厚なヴァルテンブルク家の別邸。

 学院での長い一日を終えて帰宅したユウキを迎えたのは、広々とした玄関の真ん中で仁王立ちになり、今にも怒りで爆発しそうなほど顔を真っ赤にした義妹のミオルであった。


「うおっ、ミオル、どうしたんだそんな怖い顔して……」


「どうしたんだ、ではありませんわ! 今日の学院の昼休み、あの変な女狐――いえ、王女殿下にまんまと騙されて、怪しげなお弁当を無理やり食べさせられたというのは本当ですか!?」


 キッと吊り上がったミオルの美しい瞳には、隠しきれない焦燥と怒りの炎がメラメラと燃え盛っている。


「怪しげって……普通の、というかめちゃくちゃ美味い弁当だったぞ。慣れない包丁で指をケガしてまで、朝早くから作ってくれたみたいだし……」


「ーーーッ!!!」


 ユウキのぶっきらぼうな、しかし結果的に王女を素直に庇うような言葉を聞いた瞬間、ミオルの胸の中の危機感と嫉妬心は、ついに限界値を突破した。

 亡き戦友の娘としてヴァルテンブルク家に引き取られ、最初は反発していたものの、ようやく最近になってユウキの毅然とした本当の格好良さに気づき、少しずつ距離を縮められたと思っていたのだ。それなのに、どこかのお高くとまった王女がぽっと出で現れ、あろうことか「正妻の座」を脅かしてくるなど、彼女のプライドとしても、一人の少女の恋心としても、到底許せるはずがなかった。


「ヴァルテンブルク家の当主となるお兄様を支えるのは、私のような、ずっと身近で見守ってきた者だけで十分ですわ! あんなお高くとまっただけの王女殿下に、お兄様の何が分かるというのです!」


 ミオルは白く小さな拳をギュッと握りしめ、悔しさにその美しい瞳をいっぱいに潤ませながら、一歩、また一歩とユウキに向かって詰め寄る。

 迫り来るその猛烈な剣幕と圧迫感に気圧され、ユウキは思わず後ろへ一歩引きながら、顔を引きつらせた。


「いや、俺はただ平穏にのんびりしたいだけで、別に当主になるだなんて大層なことは……」


 なんとか彼女を宥めようと言いかけるユウキだったが、ミオルの胸の中で激しく燃え盛る嫉妬の炎は、その程度の釈明では到底消えそうにないほど、熱く、そして深く根を張っていた。



♢修羅場のサロンと無力な最強令息


 そして数日後の放課後。ユウキが最も恐れていた最悪の事態が、学院の広々としたサロンの片隅で、ついに現実のものとなった。

 ユウキが静かに本を読もうと立ち寄った場所に、偶然にも優雅にお茶を楽しんでいたセルシア王女と、ユウキへの手作りの差し入れを持ってきたミオルが、不運にも真っ正面から鉢合わせしてしまったのだ。


 静寂の広がるサロンに、パチパチと目に見えるような激しい火花が散る。


「あら、ミオルさん。ユウキ様の『義理』の妹君として、いつまでも公私の区別なく甘えていては、未来ある彼のお邪魔ではなくて?」


 セルシアは気品溢れる完璧な微笑みを唇に浮かべながらも、そのサファイアの瞳の奥は氷のように冷たく、一切笑っていなかった。


「フン、ぽっと出の王女殿下こそ、お兄様の何を知っていらっしゃるというのですか!? 私の方が、お兄様の子供の頃からの食の好みも、私生活の細かな癖も、全てを熟知していますわ!」


 ミオルも負けじと薄い胸を張り、お盆を固く握りしめながら冷徹な視線を返す。


「あら、過去の偏った好みなど、これからの輝かしい未来には関係ありませんわ。ユウキ様には、一国の第一王女である私こそが、最もふさわしい地位と、完璧な内助の功を提供できますの」


「地位を無理に押し付けること自体が、お兄様への大いなる迷惑ですわ! 疲れたお兄様を優しく甘やかし、真に癒やすことができるのは、身近にいる私です!」


「「…………っ!」」


 激しく視線で火花を散らし、一歩も引かない二人。

 その恐ろしい激突の中間に文字通り挟まれたユウキは、額から嫌な冷や汗を流しながら、完全にタジタジになって椅子の上で縮こまっていた。


(おいおい、勘弁してくれ……。戦場で対峙したあの狂暴な暗殺者や上級魔物なんかより、この乙女たちの戦いの方が何百倍も恐ろしいんだが……。頼むから俺を巻き込まないでくれ……)


 世界を揺るがす最強の武力を持ちながらも、愛ゆえに猛る乙女たちの戦いの前では完全に逃げ場を失い、ただただ嵐が過ぎ去るのを祈るように小さくなるしかないユウキであった。

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