32話 父の意外過ぎる爆弾発言
♢父の意外過ぎる爆弾発言
前世の高校生時代、そこそこモテていた自負はある。だが、この異世界の美少女たちのレベルは完全に段違いなのだ。そんな規格外の美女と美少女に左右を挟まれ、しかも片方からは猛烈に密着されている。ぶっきらぼうを装うユウキの心臓は、すでに警報レベルの爆音で鼓動を刻んでいた。
そんなユウキの様子をジト目で見つめていたセルシアが、ついに痺れを切らしたように口を開く。
「……あの、ミオルさん? 確かミオルさんは、ユウキ様の『妹』ですわよね? いくらなんでも、少々距離感が近すぎではよろしくなくて?」
おっとりとした笑みを浮かべつつも、セルシアのサファイアの瞳の奥には、どこか静かな圧が籠もっている。対するミオルは、ユウキの腕をさらに強く抱きしめながら、ふんと鼻を鳴らした。
「実の兄妹ではありませんもの。それに、お兄様のお世話をするのは昔からの私の役目ですから、王女殿下にご心配いただく必要はありませんわ」
「あら、そう。ですが――」
「おい、二人ともそこまでにしとけ。街のど真ん中で火花散らすな……」
始まったヒロインレースの火に油が注がれる前に、ユウキは慌てて引き剥がそうと言葉を挟んだ。
明らかな好意の視線と、肌で感じる熱烈な距離感に戸惑いを隠せない。
(いや、ミオルはセルシアが言うように……あくまで妹だし。うん、妹だ。俺に懐いてくれてるだけだろ、そうに決まってる)
ユウキは必死に自分に言い聞かせ、爆発しそうな心音を落ち着かせようと努めた。
その時。前方からドタドタと重厚な足音が響き、視察を続けていたユウキたちの前に、さらに物々しい護衛騎士の集団が姿を現した。
その中心に堂々と立っていたのは、熊のように強靭な肉体を持つ男――ユウキの父親であり、現ヴァルテンブルク辺境伯その人だった。
「ユウキ! 見事な統治を行ったと風の噂に聞いたぞ。利権を狙った中央の汚職文官どもを叩き潰し、瞬く間にインフラを整えたそうだな。見事だ、さすが我が息子だな! アッハハハハ!」
地響きのような豪快な笑い声を上げ、父親は機嫌良さそうにユウキの肩をバンバンと叩いた。王国最強の武闘派貴族である彼からすれば、息子の圧倒的な内政無双ぶりは誇らしくて仕方がないのだろう。
「……あ、あぁ。のんびりしたかっただけなんだけどな」
ユウキが引き気味に答えると、父親はふと、息子の左腕に視線を移した。
そこには、普段ならユウキに対してツンツンと棘のある態度を取っていたはずの義妹・ミオルが、これ以上ないほど愛おしそうな顔でユウキの腕に抱きついている姿があった。
かつて仲の悪かった二人のあまりの激変ぶりに、父親は一瞬だけ丸く目を見開いて驚き、ニヤリと口元を歪めた。
「ん? ユウキ、ミオルと仲が良くなったのか? その様子だと……なるほど、そういうことか」
この世界の一般的な貴族の常識であれば、義理とはいえ兄妹がこのような禁断の距離感にあることは問題視され、強制的にミオルが領地へ連れ戻されてもおかしくないシチュエーションだった。ユウキも一瞬、「やべっ、怒られるか?」と身を硬くする。
しかし、ヴァルテンブルク辺境伯は常識の枠に収まる男ではなかった。父親は大きく頷くと、とんでもない爆弾を発言を言い放った。
「元よりミオルは、我が戦友の娘。血の繋がりなどないのだ。ユウキ、お前が気に入ったのならば、そのまま嫁にしてやれ! 元々は犬猿の仲だと心配していたが、ユウキが面倒を見てくれるとなれば、親としては心配事が一つ減るというものだ! よし、話は決まったな!」
「はぁ!?」
ユウキの口から素っ頓狂な声が出る。
父親は自分の言葉に大満足したように「ではな! しっかり励めよ!」と再び豪快に笑いながら、呆然とするユウキを置いて護衛兵たちと共に嵐のように去っていった。
「ちょっと、お父様!? 今のはどういうことですの!?」
背後でセルシア王女が、かつてないほど動揺した声を上げて父親を追いかけようとするが、時すでに遅し。
ユウキは「嫁にしろって、おい……」と、あまりにも突然降ってきた許嫁(第二夫人候補)の決定に、唖然としたまま完全に思考が停止して固まっていた。
「……っ」
そんなユウキの腕の中で、ミオルはぽっと頬を綺麗な桃色に染め上げていた。
父親からの直々の「お墨付き」を得た彼女の瞳は、まるで満天の星空のようにキラキラと輝いている。ミオルは嬉しさを隠しきれない様子で、熱い吐息混じりに、じっとユウキの顔を甘く見上げるのだった。




