29話 空白地の統治と、さらなる特大の無茶振り
♢空白地の統治と、さらなる特大の無茶振り
ユウキが軍の到着を待たず単独で、しかも一瞬にして上級魔物を殲滅したという驚愕の報は、早馬を飛ばすまでもなく、またたく間に王宮の最深部へと届けられた。
これにより、ユウキの「真の実力」が改めて国中に知らしめられると同時に、魔物の発生原因を急ぎ調査した王宮の厳格な役人たちによって、件の伯爵家が手を染めていた闇の裏取引、度重なる汚職問題、そして今回の責任転嫁に満ちた虚偽の報告が、全て言い逃れの Byできない形で白日の下に晒されることとなった。
報告書を読み、欺かれたことに激怒した国王により、伯爵家には即座に爵位剥奪、そして財産没収によるお家潰しという、容赦のない最上級の厳罰が下された。
しかし、真の問題はここからだった。
主を失ったことで宙に浮いた、広大で肥沃な伯爵領地と、莫大な富を生み出す豊富な鉱山資源。国境付近の軍事的な要でもあるその土地を、統治者不在の危険なまま放置しておくわけにはいかない。
数日後、再び王宮の厳かな謁見の間へと呼び出されたユウキに対し、玉座に深く腰掛けた国王は、これまでにないほど満足げに、そしてニヤリと多分に政治的な悪い笑みを浮かべた。
「ユウキ・フォン・ヴァルテンブルク、見事な討伐であった! 王国を揺るがす危機から民を救ったその武勇、まさに称賛に値する。……さて、空白となったあの領地だが、国境の要をいつまでも眠らせておくわけにはいかぬな」
国王はわざとらしく立派な顎を撫で、困惑の色を隠せないユウキの顔をじっと見つめる。
「これも次期辺境伯としての『勉強』だ。王の勅命として、お前にその地を預ける。見事、臨時領主として、あの鉱山領を治めてみよ!」
「は? ……いやいやいや!! お言葉ですが国王陛下、俺、まだ十六歳のしがない学生なんですけど!?」
静まり返る謁見の間で、ユウキは内心で激しく頭を抱え、大パニックに陥っていた。
目立ちたくない、実力をひた隠しにしてのんびりとしたスローライフを謳歌したいという、前世から抱き続けてきたささやかな願いとは真逆の未来。十六歳にして一国の重要領地を丸ごと統べる臨時領主という、超重要かつ超多忙なポジションに強引に就かされてしまったのだ。完全に今後の人生設計の計算が狂っている。
なんとかしてこの厄介事を辞退しようと、必死に言い訳を探して視線を泳がせるユウキだったが、その時、玉座のすぐ隣に立つ人物と視線がぶつかった。
「さすがは、私の見込んだユウキ様……! 領主として民を導かれる凛々しいお姿も、きっと素晴らしく素敵ですわ……っ」
第一王女セルシアが、白磁の肌を極上の桜色に染め、その美しいサファイアの瞳をうっとりとした熱い輝きで満たしながら、ユウキのすべてを肯定するように熱い視線を送っていた。
王女としての気品を保ちつつも、隠しきれない無条件の信頼と深い愛情がこれでもかと詰まった彼女の笑顔は、胸がすくような破壊力抜群の美しさだった。
(……これ、絶対に断れない流れじゃねえかよ)
最高権力者である王の絶対的な勅命、そしてその背後から突き刺さる、愛らしい王女の猛烈な熱視線。
退路を完璧に断たれたことを悟ったユウキは、周囲に見えないよう深く重いため息をつきながら、そっと自嘲気味に額を押さえるのだった。
♢若き臨時領主の超効率主義と、激化する懐かれ包囲網
「……おい、この書類の数字、誰が計算した?」
前伯爵から没収した旧領主館の、冷え切った広い執務室。
机の上にずらりと積み上げられた、カビ臭い古びた羊皮紙の山を前に、ユウキ・フォン・ヴァルテンブルクは心底面倒くさそうに、重く深い溜息をついた。
ヴァルテンブルク辺境伯領の隣に位置する、豊富な鉱物資源を抱えたこの土地。上級魔物の襲撃をきっかけに、無能で見栄っ張りな前伯爵が完全に失脚し、現在は国王の勅命によって、ユウキが「臨時領主(代官)」として内政の全権を握っていた。
だが、のんびりと学生生活の延長でスルーを決め込みたいユウキの前に、さっそく立ちはだかったのは、中央の汚職派閥――王都の大物公爵の息がかかった、腹黒い文官たちだった。
「おや、ユウキ様。何か不備でもございましたかな?」
にやにやと下品で傲慢な笑みを浮かべて前に出たのは、王都から『補佐役』という名目の監視役として送り込まれた、脂ぎった肥満体の文官、バルトロだった。
「我々中央の専門家が夜通し精査した、完璧な鉱山管理の収支報告書です。まだ十六歳の、学業の途中にいらっしゃる学生身分の若き領主様には、いささか難解すぎましたかな? これでも採掘量が激減しておりましてな。中央への税を引けば、ヴァルテンブルク家の取り分は『ゼロ』、いやむしろ赤字ですな。ハッハハ!」
バルトロをはじめとする中央の文官たちは、完全にユウキを舐めきっていた。いくら武勇に優れていようが所詮は辺境の田舎貴族、しかもただの世間知らずなガキだと。適当に複雑な数字を改ざんして煙に巻き、鉱山の莫大な利権を背後の大物公爵へと横流しする。これは、若き代官を追い詰めるための、分かりやすい「嫌がらせ」だった。
(……レベル1の村人が、調子に乗ってバグ技使おうとしてるレベルだな、これ)




