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辺境伯家の最強令息、王都の学院で王女殿下に全力で懐かれる  作者: あるふぁ
第5章:近隣の領地問題と、若獅子の初統治

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28話 王命の無茶振りと、セルシア王女の「熱烈な推し」

♢王命の無茶振りと、セルシア王女の「熱烈な推し」


 しかし、物事はユウキの知らないところで、驚くべき速さで動き出していた。

 伯爵領の危機と辺境伯家への理不尽な要求は、すぐさま国王の耳にも入ることとなる。そして、厳かな王宮の謁見の間でこの事態を大きく動かしたのは、あの暗殺未遂事件以来、ユウキに完全に恋に落ちている第一王女、セルシア・バルハイトであった。


「お父様! ヴァルテンブルク家のユウキ様の、あの神速の強さをご存知でしょう!? 私の命を執拗に狙った暗殺団も、あの巨大な魔物も、ユウキ様の前ではただの塵に等しかったのですわ!」


 セルシアは深く澄んだサファイアの瞳をこれ以上ないほどキラキラと輝かせ、玉座に座る国王のすぐ傍で熱烈にユウキの凄さを訴えかける。頬を林檎のように赤く染めて身を乗り出すその勢いは、普段の気品溢れるお淑やかな王女の姿からはとても想像もつかない、情熱的な「推し活」そのものであった。


「伯爵領の無能な兵たちが束になっても敵わない災厄など、ユウキ様にとっては赤子同然ですわ! これも次期辺境伯としての素晴らしい経験になります。お父様、ぜひともユウキ様に討伐の機会を!」


 以前から件の伯爵家の汚職や強欲ぶりを苦々しく思っていた国王は、最愛の娘のあまりの熱弁に圧倒されつつも、その言葉の裏にある確かな勝算と政治的価値を見抜き、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。


「面白い。王都を揺るがしたヴァルテンブルクの若獅子の実力、改めてこの目で見せてもらうとしよう」


 こうして、平穏を愛するユウキの元へ、「国王勅命」という名の特大の無茶振りが下されることとなった。

 金色の獅子の刻印が押された重厚な書状には、仰々しい文字でこう記されていた。


『ヴァルテンブルクの若獅子ユウキよ、これもお前の将来のための勉強だ。見事、その上級魔物を討伐し、王国の威光を示してみせよ!』



♢単独行と「一瞬の殲滅」


「は? いや……なんでそうなるんだよ。国王? 俺に?」


 届けられた金色の書状を前に、ユウキは思わず素っ頓狂な声を上げた。

 まさかの絶対的な王命に対し、ユウキの父は驚愕し、青ざめた顔で急いで息子に同行させるための「辺境伯軍精鋭部隊」の編成を始めた。国境を守る本物の鉄血の軍人たちだ。だが、いくら最強を誇る軍隊とはいえ、数百人規模の大がかりな進軍準備には、糧食の調達や武器の点検などでどうしても数日の時間がかかってしまう。


(あー……そんなの待ってたら、軍が着く前にあの魔物が麓の街に降りてきちゃうだろ。面倒だし、先に行くか)


 目立ちたくない、平穏に生きたいと口では言いつつも、本質的に困っている人々を放っておけないお人好しなのが、前世から続くユウキの性分だった。

 父親の軍の完成を待つ気などさらさらない彼は、レアな隠密スキルを持つお目付け役の女従シアを己の影へと潜ませると、完璧に気配を遮断。誰にも気づかれることなく、単独で伯爵領の山岳地帯へと先行してしまった。


 剥き出しの鋭い岩肌が連なる、鉱山地帯の最奥地――。

 バリバリと不快な放電を撒き散らし、大地を揺るがす咆哮を上げながら周囲を徹底的に破壊し尽くしていたのは、全身が禍々しい鋼鉄のような黒い外殻に覆われた、巨大な上級魔物だった。

 周囲の泥濘には、すでに武器をへし折られて戦意を完全に喪失し、生々しい血を流して倒れ伏している伯爵領の兵たちの惨めな姿が無数にある。


 ゴウ、と吹き荒れる硝煙の風の中。

 その猛り狂う巨獣の真ん前へ、ユウキは学院の制服のポケットに両手を突っ込んだまま、退屈そうに平然と降り立った。


『グルァァァァッ!!』


 鼓膜を震わせる咆哮と共に、魔物は突如現れた小さな人間をただの脆弱な獲物と侮り、凄まじい質量を誇る丸太のような太い腕を、容赦なくユウキめがけて振り下ろした。

 人間などまともに喰らえば一瞬で肉塊に変形するほどの、圧倒的な破壊の質量。しかし――。


 ――ズゥゥゥンッ!!


 激しい土煙が激しく舞い上がる中、ユウキはその猛烈な一撃を、ポケットから抜いた左手一本であっさりと受け止めていた。

 凄まじい衝撃の身代わりとなり、彼の足元の頑丈な岩盤が丸く大きく陥没しているが、ユウキの身体には傷一つ、そして制服の乱れすらもなかった。


「……この程度か。お前のおかげで、王命だの勉強だの、色々と面倒なことになったんだけどな」


 ユウキは抑揚のない冷めた目で巨大な魔物を見上げると、右拳を軽く後ろへと引いた。

 同時に、自身の身体の奥底に眠る膨大な魔力を、極限まで精密にコントロールしていく。下手に魔法としてそのまま放てば、この山岳地帯ごと周囲の領地が消し飛びかねない。だからこそ、純粋な身体能力の底上げと、拳のほんの一点にのみ魔力を一点集中させる。


「自重ルール、出力は……零点一パーセントってところか。おい、大人しく砕けろ」


 ――ドンッ!!!


 鼓膜を激しく叩く、空気が完全に爆裂するような凄まじい衝撃波が山岳地帯の空に鳴り響いた。

 ユウキがただ淡々と放った拳の一撃は、上級魔物が誇るいかなる名剣をも弾く鋼鉄の外殻を容易く貫通し、その巨体を内側から木端微塵に爆砕した。

 飛び散るはずの血肉すら残さず、魔物は光の粒子となって瞬く間に大気へと霧散していく。


 あまりにも規格外、あまりにも一瞬の無双劇。

 岩陰から遠巻きにその光景を目撃していた、伯爵領の生き残りの兵たちは、目の前で起きた現実を脳が理解できず、ただただ圧倒的な恐怖と畏怖のあまり歯の根をガタガタと鳴らし、泥塗れの地面にへたり込むしかなかった。

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