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辺境伯家の最強令息、王都の学院で王女殿下に全力で懐かれる  作者: あるふぁ
第5章:近隣の領地問題と、若獅子の初統治

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27話 理不尽な書状と「無能伯爵」の擦り付け

♢理不尽な書状と「無能伯爵」の擦り付け


 国境線を預かるヴァルテンブルク辺境伯領。その堅牢な本拠の執務室で、現辺境伯であるユウキの父は、机の上に叩きつけられた一通の書状を激しく睨みつけ、怒りのあまりその屈強な肩を小刻みに震わせていた。


「あの強欲の無能め……! どこまで我が家を舐めれば気が済むのだ!」


 地鳴りのような低い怒号が、重厚な石壁に反響する。

 事の発端は、ヴァルテンブルク辺境伯領に隣接する、とある中央貴族の伯爵領で起きた大失態にある。


 その領地は、本来であれば希少な鉱物資源が豊富に眠る山岳地帯を抱えていた。元々は平穏そのもので、せいぜい駆除の容易な低級の魔物しか出ない安全な土地だったのだが、現地の強欲な伯爵がさらなる富を欲し、王都の汚職派閥へ裏で手を回したのだ。

 彼は周囲の危険性を指摘する声や、辺境伯家からの警告をことごとく無視し、強引に未開の奥地へと採掘の手を広げ、開発を進めていった。


 だが、この国の法律において、王都にへつらう「伯爵位」までの下位貴族は、独自の軍隊(私兵団)を組織することが厳格に禁じられている。彼らが手元に置くことを許されているのは、せいぜい街の治安維持や民の取り締まりを行うための、まともな実戦経験もない貧弱な「領地兵」のみであった。


 そんな脆弱な防衛体制しか持たぬ場所で、欲に目が眩んだ伯爵が山の奥深くを無謀にも掘り返した結果、最悪の事態が引き起こされる。

 突如として、大地の底に眠っていた古代の封印を乱暴に破るようにして、禍々しい瘴気を纏った凶悪な『上級魔物』が出現してしまったのだ。

 当然、錆びついた槍を構えるだけの貧弱な領地兵では、その圧倒的な蹂躙に太刀打ちできるはずもない。悲鳴と血煙が舞い上がり、伯爵領は一気に壊滅寸前のパニックへと陥った。


 ここまでは完全なる自業自得、因果応報。しかし、その無能な伯爵家からヴァルテンブルク家へと送りつけられてきたのは、目を疑うほどに傲慢で身勝手な内容の書状だった。


『我が領内の山岳地帯に現れた凶悪な魔物は、元々は貴領(ヴァルテンブルク領)の管理不足によって流れてきたものに違いない。即刻、最強を自負する辺境伯軍を動かし、我が領内の魔物を討伐・対処されたし』


 インクの匂いも鼻につく最高級の羊皮紙に踊るのは、明らかな責任転嫁であり、自分たちが仕出かした不祥事の尻拭いを押し付ける、破廉恥極まる要求だった。


 ヴァルテンブルク辺境伯家は、王国内において「半独立国家」並みの特権と、独自の強大な私兵団を編成できる軍事権を有している。だが、その強大な力はあくまで国境の向こうに潜む脅威から国を守るための盾であり、王都でぬくぬくと甘ったれて生きる無能な貴族のわがままに付き合うための、都合のいい便利屋などでは断じてないのだ。



♢食卓の火種と学生の退屈


 その頃、国境の緊迫感とは程遠いはずの王都にある辺境伯家の別邸でも、訓練場や兵士たちの詰所はこの噂で持ちきりになっていた。

 当然、その不穏な話は、表向きはのんびりとした学生生活を謳歌しているはずのユウキの耳にも、湯気の立つ紅茶の香りと共に届くことになる。


「へえ、領地兵じゃ手も足も出ない上級魔物か……」


 前世はどこにでもいる普通の高校生だったユウキだが、今のその身体には、底が見えない海のように膨大な魔力と規格外の身体能力、そして数々の理不尽なチートスキルがこれでもかと宿っている。

 初めて放った初級魔法で広大な森を消し飛ばし、焦土に変えてしまったあの日の恐怖から、普段は「肉体言語(生身の体術)」だけで戦うという奇妙な自重ルールを己に課してはいるものの、己の本気の限界を試すという意味では、その上級魔物とやらの実力に少しだけ興味が湧いていた。


 退屈な平日の授業をやり過ごしたユウキは、さっそく週末の休日の前夜、転移魔法であっさりと辺境伯領の広大な本邸へと戻った。


「親父、その魔物討伐、俺が行ってきてもいいか?」


 豪勢な料理が並ぶ夕飯の席で、スープをスプーンで掬いながら何気なく口にしたユウキだったが、対面に座る父は即座に太い眉を不機嫌そうにひそめた。


「馬鹿を言うな。いくらお前があの夜、セルシア王女殿下を救った英雄として騒がれているとはいえ、まだ十六歳の学生だ。中央の腐りきった政治的な思惑が絡む問題に、これ以上我が家の切り札を首を突っ込ませるわけにはいかん」


 厳格な声で一蹴され、ユウキは「あそ、じゃあいいや」と、未練もなさそうにあっさりと引き下がった。

 面倒な揉め事に巻き込まれるくらいなら、自室で泥のように眠る方がマシだ――その時は、本気でそう思っていたはずだった。

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