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辺境伯家の最強令息、王都の学院で王女殿下に全力で懐かれる  作者: あるふぁ
第4章:サファイアの瞳の王女と、規格外の英雄

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24話 王都を揺るがす「英雄」の誕生

 ユウキは、地面に膝をつき、恐怖の余韻で未だに小さく肩を震わせているセルシアの前に、無造作に歩み寄ってきた。


 王女であるセルシアの前に並び立つ男たちは皆、その瞳の奥にどろりとした下心や、点数稼ぎのための打算を貪欲に滲ませていた。しかし、目の前の少年の瞳には、そんな歪んだ欲望など微塵も存在しない。あるのはただ一つ。


「――怪我はないか? 立てるなら早くしろ、ここは危ない」


 心底面倒くさそうに、ぶっきらぼうに言い放たれた言葉。

 けれど、差し伸べられたその手は、冷え切ったセルシアの心を包み込むように、確かな優しさと絶対的な安心感に満ちていた。


 ドクン、と。

 セルシアの胸の奥で、激しい衝撃が跳ねた。


 さらさらとした淡い金髪が、戦場の跡を吹き抜ける柔らかな風に揺れる。

 涙に濡れていた彼女の深く澄んだサファイアの瞳に、これまでにない熱を帯びた輝きが灯っていく。


(ああ……この方だわ……)


 周囲の有象無象の貴族たちとは違う。窮地を救うために現れた、神話の如き圧倒的な強さ。そして、飾らない、けれど誰よりも真っ直ぐで不器用な優しさ。

 理屈などではなかった。セルシアの魂そのものが、一瞬にして目の前の少年に囚われ、底知れない愛おしさへと突き落とされていた。

 これこそが、バルハイト王国の第一王女セルシアにとって、一生に一度の「運命の一目惚れ」の瞬間だった。


「……はい、ありがとうございます。ユウキ様」


 頬を林檎のように真っ赤に染め、セルシアは熱を帯びた瞳でユウキの手をそっと握り返した。



♢王都を揺るがす「英雄」の誕生


「で、殿下――っ! ご無事ですか――っ!?」


 劇的な救出劇からしばらくして、ようやく遠くから地響きのような足音が近づいてきた。

 遅れて駆けつけた王宮の増援部隊、そしてユウキが「足手まといだから」と手前に下がらせていた最低限の護衛たちが、息を切らせて現場になだれ込んでくる。


 しかし、彼らは一歩足を踏み入れた瞬間、その場に釘付けになったように硬直した。


 王国最強のはずの近衛騎士団数十名が血に染まり、全滅している。

 その凄惨な戦場の中で、たった一人――返り血すら浴びずに、無傷で王女を守り抜いた辺境伯家の令息が、不機嫌そうに佇んでいたからだ。


「な、なんだこれは……。近衛が全滅しているというのに、たった一人でこの数の魔物と暗殺者を……?」


「あり得ん……いくら辺境伯家の血筋とはいえ、まだ学院に入ったばかりの少年だぞ……!?」


 増援の騎士たちは、あまりの光景に顎が外れんばかりに驚愕し、ガタガタと身体を震わせている。彼らにとって、それは常識を遥かに超越した「怪物」の仕業にしか見えなかった。


 周囲のそんな驚嘆と畏怖の視線を肌に感じながら、ユウキは内心で盛大に頭を抱えていた。


(あーあ……最悪だ。めちゃくちゃ目立っちゃったじゃねえか。せっかく無能のフリして、平穏なスローライフを送ろうと思ってたのに……これじゃあ、明日から学院で静かに寝られなくなるだろ……)


 はぁ、と今日一番の重いため息をつくユウキ。

 しかし、そんな彼の絶望をよそに、世界は激変しようとしていた。

 たった一人で王女を救い、一国を揺るがす陰謀を粉砕した規格外の少年。この日を境に、王都には新たな「英雄」の誕生が知れ渡ることになる。


 ユウキの後ろを一歩も離れようとせず、その服の裾を小さな手できゅっと握りしめたまま、セルシアは彼の広い背中をじっと見つめていた。

 サファイアの瞳には、狂おしいほどの愛着と、決して揺るがない確固たる決意がみなぎっている。


(わたくしの英雄さまだわ……。お覚悟なさってくださいね、ユウキ様。あなたは今日、王女の命だけでなく、心まで奪ってしまわれたのですから。わたくしの……未来の、だんな様……っ♪)


 ぶっきらぼうな最強の少年への、王女殿下による「全力の懐き攻撃」が幕を開けようとしている。そんな未来の甘い波乱を予感させながら、戦場には静かに、しかし決定的な新しい風が吹き抜けていった。



♢這い寄る殺意と、氷結晶の帳


 ユウキの手を握り返し、そのあまりにも頼もしい背中を見つめながら、セルシア王女は熱い視線を送ったまま物思いにふけっていた。周囲の中央貴族たちとはあまりに違う、ぶっきらぼうで、けれど確かな安心感をくれる彼への想いが胸を支配していた。


 ――だが、戦場に訪れた静寂は、長くは続かなかった。


 凄惨な戦場に立ち込める、濃厚な血の匂い。そして、先ほどの規格外の破壊による大音響。それらは、この森の奥深くに潜む凶悪な存在たちを刺激するには十分すぎた。己の縄張りを荒らされたと激昂した魔物たちが、引き寄せられるように集まり始めていたのだ。


 ガサゴソ……、ガササッ。


 辺りの鬱蒼とした茂みから、不気味な音が響く。それと同時に、肌を刺すような、明確で禍々しい殺気が一点へと向けられた。

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