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辺境伯家の最強令息、王都の学院で王女殿下に全力で懐かれる  作者: あるふぁ
第4章:サファイアの瞳の王女と、規格外の英雄

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21話 王都の不穏な影と、足手まといの戦場

♢王都の不穏な影と、足手まといの戦場


 白亜の美しい石造りで統一され、富と権力の象徴として栄華を誇る貴族学院。そこを中心として広がる王都バルハイトの華やかな街並みは、一見すると陽光に満ちた平和そのものの景色であった。

 しかし、その輝かしい表舞台の裏側、冷たい石畳の底深くでは、どろりとした権謀術数が醜く渦巻いていた。


 中央貴族の汚職派閥。

 私利私欲のために領民を搾取し、国の財を貪り尽くしてきた大物公爵をはじめとする利権にまみれた者たちは、今、かつてない激しい苛立ちのなかにいた。

 自分たちの不正を掴み、法の元に徹底的に糾弾しようと動き出した現王家に対し、その特権階級としての傲慢なプライドを逆撫でされていたからである。


 重厚な薔薇飾りのある執務室の暗がりに、葉巻の紫煙が白く漂う。

 その奥で、傲慢な肉体を揺らした大物貴族が、低く濁った声で忌々しげに呟いた。


「身の程をわきまえぬ王家に、見せしめが必要だ。我が権力を揺るがす不確定要素は、今のうちに排除せねばならん。どれほど尊き血であろうとも、地に塗れればただの赤い水よ」


 彼らが目を付けたのは、現国王が目に入れても痛くないほどに最も深く愛し、そして国民からも絶大な人気を誇る第一王女、セルシア・バルハイトだった。

 標決は下され、表沙汰にできない汚れ仕事を専門とする、国家の『暗部』の精鋭たちが静かに動き出す。


 彼らは血の匂いを完全に消し去った漆黒の外套を纏い、闇に紛れて刃を研ぐ。

 本来であれば決して外に漏れるはずのない、王女が護衛を最小限に絞って王都近郊の神殿へと参拝に向かうという極秘のスケジュールは、利権の犬と化した内通者によって、すでに容易に漏洩していた。


 湿った夜の風が、不吉に街を吹き抜けていく。

 何も知らぬ可憐な王女の背後へと、逃れることのできない死の不穏な影が、音もなく、しかし確実に迫りつつあった。


「――仕掛けろ。一人残らず血祭りにあげろ」


 神殿へと続く、薄暗く深い森の街道。

 冷酷な命令が闇に溶けた直後、突如として大気を引き裂くような異様な波動が周囲を満たした。

 木々の隙間からどろりとした赤黒い光が溢れ、空間そのものがねじれていく。敵があらかじめ用意していた周到なる罠――「魔力を霧散させる結界」が発動したのだ。


「なっ、魔法が使えない……!? しまった、奇襲だ!」


 王女の護衛を務めていたのは、王国最高峰の実力を持つはずの「王室近衛騎士団」数十名。

 しかし、張り巡らされた結界によって、彼らが最も得意とする身体強化も防御魔法も、その指先から綺麗さっぱりと霧のように消し飛んでいた。


 魔法という牙を抜かれ、ただの重い鉄の塊と化した鎧に戸惑う彼らの前に、暗部が解き放った凶悪な魔物の群れが咆哮を上げて襲いかかる。

 肉を引き裂く不快な音が静かな森に響き渡った。


「ぐあああっ!」


「ひ、引き撃ちしろ! 王女殿下をお守り――」


 叫び声は途中で途切れ、生々しい鉄の匂いが鼻腔を刺す。

 次々と血に染まり、泥塗れの地面に力なく倒れ伏していく近衛騎士たち。


 国家最高峰と謳われ、数々の戦場を潜り抜けてきたはずの実力者たち。

 だが、この理不尽な罠の前にはただの無力な肉塊に過ぎず、その誇り高き力を発揮することすら許されぬまま、瞬く間に凄惨な壊滅へと追い込まれていった。



♢絶望の淵に響く足音


 激しい衝撃と共に引き裂かれ、無惨に横転した豪華な馬車の残骸。

 飛び散った木片と硝子の破片が散乱する地面の上で、第一王女セルシアは恐怖のあまり身体を小さく丸め、身をすくませていた。


 月光を浴びて美しく輝いていたはずのサラサラとした淡い金髪は乱れ、泥に汚れ、気高かったはずの美貌は完全に絶望の色に染まっている。

 視界の端では、つい先ほどまで自分を命懸けで守ると誓ってくれた騎士たちが、一人残らず冷たい血の海に沈んでいた。


 目の前には、肉を欲して不快なよだれを垂らす魔物の鋭い爪。

 そして、その背後から冷酷な銀色の光を放ちながら迫り来る、暗殺者の無慈悲な刃。

 逃げ場のない死の抱擁を前に、彼女の細い肩が小刻みに震える。


(ああ……ここまで、なのですか……。私は、このような場所で……)


 セルシアはその深く澄んだサファイアの瞳を大粒の涙と絶望に曇らせ、迫る刃の恐怖から逃れるように、そっと静かに目を閉じた。


「――おいおい、何やってんだよ、お前ら」


 場違いなほどにぶっきらぼうで、心底気だるげな少年の声が響き渡ったのは、まさにその時だった。


 たまたま近くの街道を通りかかっていた、ヴァルテンブルク辺境伯家の長男、ユウキ。

 実際のところ、彼はシアが張り巡らせていた独自の情報網によって、事前にこの場所で起こる不穏な異変を完璧に察知していた。目立ちたくはないものの、さすがに王女が死ねば国がひっくり返り、自分の平穏な生活も脅かされる。ゆえに、最低限の隠密部隊だけを引き連れて、ギリギリのタイミングでこの戦場に到着していた。

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