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辺境伯家の最強令息、王都の学院で王女殿下に全力で懐かれる  作者: あるふぁ
第3章:お忍びで街中散策で拾い物をする

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16話 衛兵の横暴と、最強の自己紹介

♢衛兵の横暴と、最強の自己紹介


 散策を続けていると、無骨な石造りの衛兵の詰め所が視界に入った。

 そこはただの役所ではなく、建物の脇から見える裏庭に、木人の並ぶ鍛錬用のスペースがチラリと覗いている。新調した剣をどうしても試したかったユウキは、思い切って詰め所の頑丈な木扉を叩き、受付の衛兵に声を掛けた。


「すみません、ちょっと……裏のスペースを使わせてもらえませんか?」


 しかし、王都の中枢にある詰め所だけあって、内は書類仕事や巡回報告の兵士たちでごった返していた。声を掛けられた衛兵は、不機嫌極まる顔でユウキを思い切り怒鳴りつける。


「なにを言ってんだ! この忙しいときに邪魔をするな! ここは衛兵の詰め所だぞ、宿屋でも娯楽施設じゃねぇんだぞ!」


 怒声と共に、男の口から放たれた唾が宙を舞う。普通の一般人や民草ならば、国家の盾である衛兵にここまで一喝されれば平伏して引き下がる。下級の兵士であっても、怒らせればありもしない罪をでっち上げて地下牢に放り込まれる、そんな不条理がまかり通る世界なのだ。

だが、ユウキは王都の温室育ちの衛兵よりも、遥かに屈強で凄惨な辺境伯領の兵士たちを見慣れている。目の前の男から放たれる程度の凄みなど、蚊に刺されたほどにも感じない。恐怖など微塵も抱くことなく、ただただ面倒な奴に当たったなと、冷めた瞳で相手を見据えていた。


「スペースを、ちょっとだけで良いんで……」


 なおも平然と食い下がるユウキに、衛兵の額にぴきりと青筋が跳ね上がった。


「貴様、兵士の邪魔をしてただで済むと思っているのか!? 捕らえるぞ!」


 一般の冒険者が着るような、くたびれた身なりをしている少年の態度が気に入らないのだろう。だが、ユウキはただ冷めた目で衛兵を見返した。


「は? 俺は、ただ空いてるスペースを貸してもらいたいと言っただけで捕らえるのか? それは、何の罪なんだ?」


「貴様、何様のつもりだ! 駆け出しの冒険者風情が兵士に向かって……!」


 完全に頭に血が上った衛兵が、ガタァンと大きな音を立てて机を乗り越えるようにしてユウキの胸ぐらを掴み、凄まじい睨みを利かせてきた。男の粗い息遣いと、汗臭い匂いが至近距離で漂う。


「お前こそ、ただの兵士だろ。街の治安を守るのが仕事だよな? その兵士が、罪もない民を私怨で捕らえて良いと思ってるのか?」


 ユウキは言いながら、自分の胸ぐらを掴み上げている衛兵の分厚い手首を、逆の手で掴み返した。そして、規格外の筋力をほんのわずかに乗せて、容赦なく捻じり上げる。メリメリと骨が鳴るような圧力が男の手首を襲った。


「くそっ! い、痛ぇ……! これで十分……罪が出来たな! 兵士に対して暴行だぞ!」


「……はぁ、こんなおままごとが暴行になるのか? 王都の兵士のレベルの低さに呆れるな」


 ユウキが深く溜め息をつきながら軽く挑発すると、ジャラジャラと装備を鳴らして周囲の異変に気付いた他の衛兵たちが、一斉に武器の柄に手をかけてユウキを取り囲んだ。殺気立った男たちの鋭い視線が集中し、一触即発の重苦しい空気が詰め所を完全に支配する。


 その騒ぎを聞きつけ、詰め所の奥で仕事をしていた少し上役らしき男が現れた。


「……まったく、兵士を挑発するバカがいるとはな。皆、仕事へ戻れ! ――それで、お前は何をしに来たんだ?」


「あぁ……ただ、買った剣の試し切りをしたくて。裏庭の空いてるスペースを使わせてもらいたくて」


 ユウキが腰に下げた古い剣の柄を示しながら淡々と事情を説明すると、その偉そうな衛兵は大きな溜め息をつき、鼻で笑うように呆れた笑みを浮かべた。


「お前、肝が据わってるというか……バカだろ。じゃなきゃ……どこかのお貴族様か?」


 痛めつけられた部下の体面を保ちつつ、皮肉と冗談を交じりに言ってきた男に対し、ユウキは隠す必要もないかと軽く首を傾げた。


「え、あ……まあ、俺はヴァルテンブルク辺境伯の息子のユウキだ」


 近所のおっさんに名を名乗るような、ごく軽い自己紹介のつもりだった。


 しかし、その瞬間。

 衛兵の詰め所全体が、まるで時間が凍り付いたかのように、完全に静まりかえった。書類をめくる紙の音も、ひそひそとした話し声も一瞬で消え失せる。


 さっきまでニヤついた笑みを浮かべていた上役の顔が一瞬で土気色に青ざめ、額から嫌な汗が噴き出す。胸ぐらを掴んで凄んでいた衛兵にいたっては、あまりの恐怖に膝の力が抜け、腰が抜けたようにその場にばったりと座り込んでしまった。ガタガタと歯の根が合わないほどに身体を震わせ、床を擦るようにして必死にユウキから距離を取ろうとする。


 この絶対的な身分社会において、高貴な身分の詐称はそれだけで即座に極刑に値する大罪だ。国中の兵が詰める王都の本拠地で、わざわざそんな命知らずな嘘を吐くヤツなどいるはずがない。


 つまり、目の前にいる地味な衣服の少年は本物だ。ヴァルテンブルク辺境伯――怒らせれば一晩で王国が滅びるとすら噂され、王族ですら常に最大限の配慮を怠らない、国家の絶対的な重鎮。その唯一の跡取り息子が、今、自分たちの目の前に立っていた。

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