第4話 夕暮れ、そして腹が減る
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「……あ、もう夕方じゃん」
光の速さ(並み)で世界を駆け抜け、大峡谷を作り出してしまった俺。
ふと空を見上げると、いつの間にか異世界の太陽が沈みかけ、空は見事な茜色に染まっていた。夕暮れだ。
それと同時に、俺の胃袋が「グゥゥゥゥウウウウウウウウ!!」と、そこらの下級魔獣なら一撃で気絶しそうな大爆音の悲鳴を上げた。
「腹、減ったなぁ……。そういえばこっちに来てから、まともな飯を食ってない。走ったからプロテインも枯渇してるし、このままだと筋肉が分解されちまう」
自己肯定感の次は、カタボリック(筋肉分解)の恐怖が襲ってきた。これは大罪人になるよりも遥かに恐ろしい事態だ。一刻も早く良質なタンパク質と炭水化物を摂取しなければならない。
とはいえ、ここは誰も近づかない危険な魔境。コンビニなんてあるわけがない。
「……よし、自給自足だ」
俺は狩りに出かけることにした。
目を凝らすと、近くの川辺に、体長3メートルはあろうかという巨大なカニ――『アース・クラブ』が、夕日を浴びながらハサミをチョキチョキさせているのが見えた。甲殻が岩石のように硬く、並の戦士の剣では刃こぼれする凶悪な魔物だ。
「美味そうじゃん。カニは高タンパク・低脂質の超優秀食材だからな」
俺はカニの背後に音もなく忍び寄ると、その巨大な甲羅をガシッと掴んだ。
「ギチチチッ!?」
驚いて暴れるカニ。だが、俺の脳筋パワーからは逃れられない。
「さて、カニを食うのはいいけど、火がないな。……なんかこう、**『火よ出ろ!』ってノリで、両手を思いっきり高速で擦り合わせて、その摩擦熱で火を熾すイメージ**で……」
俺はいつも通り、物理的なノリだけで両手をマッハの速度でシュシュシュシュシュと擦り合わせてみた。
――ゴォォォォォォォオオオオーッ!!!!
「うお、ついたついた!」
火がつくどころの騒ぎではなかった。
俺の手のひらから、すべてを焼き尽くすレベルの漆黒の業火(※本人はただの摩擦熱だと思っている)が噴き出し、近くの枯れ木が一瞬で激しく燃え上がった。世界の常識で言えば『極大消滅火炎』の無詠唱発動である。
「ちょうどいい火加減だな」
俺は絶妙な炎 (※大災害レベル)の上に、生け捕りにしたアース・クラブを丸ごと放り込んだ。
数分後、パチパチと良い音を立てて、カニの甲羅が綺麗な真っ赤に染まり、香ばしい匂いが辺り一面に漂い始める。
バリッ! と素手で頑丈なハサミをへし折り、中の白い身を引っ張り出して口に放り込む。
「――っつ! 旨い! ぷりっぷりだし、味が濃い!」
味付けなんて何もしていないのに、魔境の天然カニは涙が出るほど美味かった。これにはどん底だった自己肯定感も、完全に限界突破して最高潮である。
夕日を見つめながら、豪快にカニを貪り食う指名手配犯。
しかしその頃、お城の地下室では――。
「勇者様! 早く次の戦場へ向かってください! 魔王軍の別働隊が迫っています!」
「嫌だぁあ! もう3日も徹夜なんだ! 睡眠をくれ! あと温かいご飯を食べさせてくれぇええ!!」
高級なはずの宮廷料理を冷め切った状態で胃袋に流し込み、泣きながらブラック残業に旅立つイケメン勇者の姿があった。
俺が「カニのミソも濃厚で最高だな〜」と、異世界の夜を満喫しているとは、夢にも思わずに。
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