第3話 走れ俺 光の速さで
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「はあ……はあ……。」
森の中を抜けて、少し歩いた先、異世界物の王道とも呼べる、まっすぐに草原を貫くように続く道と高い山が広がっていた。
そんな光景の中、俺は急に我に返って道に座り込んだ。
よくよく考えたら、俺ってただの一般人(人違い)じゃん。
それなのに、お城を派手にブチ壊して、国を挙げて全世界指名手配。手配書の顔はゴリラだし、イケメン勇者からはゴミを見るような目で見られたし……。
「……俺、これからどうなっちゃうんだろ。ぶっちゃけ、めちゃくちゃ社会的に詰んでない?」
魔境の真ん中で、急に自己肯定感がどん底まで急降下してきた。
異世界に転移、まぁ拉致されただけでも理不尽なのに、気づけば世界の敵である。いったいどうしたらいいんだ。これからどうやって生きていけばいいんだ。
「グルルル……!」
「アオーン!」
俺が膝を抱えて落ち込んでいると、森の奥から気配を察した他の魔獣たち(ワイバーンとか、なんか強そうな狼とか)が、ゴリラ手配犯を仕留めようとワラワラと集まってきた。
「……あーもう、鬱陶しい! 悩んでる時に話しかけないで! とりあえず、ここから逃げる!!」
深く考えるのが面倒になった俺は、現実逃避のためにその場から全力で走り出すことにした。
駆は激怒した。この理不尽な現状に。
某昭和初めの有名小説のあいつはひたすら走った。友と交わした約束を守るために、死ぬことがわかっていても、自分の命をすり減らしながらただ、ただ、走った。
ならば、俺も走るしかない。
「なんかこう……『あそこに一瞬で追いつく』ってノリで、自分の体を光の弾丸にするイメージで……ウオオオオオッ!!」
いつも通り、物理的なノリと気合いだけで、地面を思いっきり後ろに蹴っ飛ばした。
――ドッパァァァァァァァン!!!!
「ギャウン!?」
「ブフッ!?」
俺が最初の一歩を踏み出した瞬間、足元の地面が音速を超えた衝撃波で消し飛び、わらわらと集まっていた魔獣たちがまとめて遥か彼方へと吹き飛んだ。
そして俺の視界は、一瞬で『線』になった。
「ぶふぇっ!? はやっ、速すぎっ!?!? 周りの景色が光の速さ並みに流れていくんだけど!?」
本人は「ちょっと本気でダッシュした」くらいのつもりだが、実際はあまりの脚力と、無意識に編み出した移動魔法 (※本人はただのダッシュだと思っている)のせいで、周囲の空気が摩擦でバチバチとプラズマ発光している。文字通り、光の速さ(並み)の超特急だ。
山を一つ越えるのに一歩。
巨大な湖を水面蹴りで一瞬で渡りきるのに二歩。
「止まり方っ! 止まり方教えて――誰か!!」
ブレーキのイメージを忘れていた俺は、目の前に迫る巨大な岩山に向けて、とりあえず両足でドンッ!!と踏ん張った。
ズガガガガガガガガガガガガッ!!!!!
凄まじい火花と砂煙を上げながら、岩山を数キロメートルほど削り取ってようやく停止。
息を整えて後ろを振り返ると、俺が走ってきたルートに沿って、大地に見事な大峡谷(グランドキャニオ
ン)が新設されていた。
「ふぅ、あぶねー。……ってか、ちょっと走り込んだらスッキリして、自己肯定感戻ってきたわ! 悩んだ時はランニングに限るな!」
当の本人は、メンタルが回復して爽快な笑顔を浮かべている。
しかしその頃、ギルドの観測所では「たった今、光の速度で移動する超高エネルギー体が確認された! 新種の災害か、あるいは魔王の軍勢か!?」と、世界中の冒険者たちが大パニックで武器を握り締めていたのだった。
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