第九話 はじめての利益
共同輸送隊が帝都を出発したのは、昼前だった。
荷馬車三台。
護衛六人。
商人五人。
そして、灰狼商会。
街道を進む馬車の振動に揺られながら、アルノルトは周囲を見渡していた。
(護衛の配置は悪くないな)
前後に二人。
中央に二人。
さらに荷馬車間を巡回。
統率も取れている。
さすが南区最大商会というべきか。
「坊ちゃん」
御者台の前からガルドが声をかける。
「退屈してねぇか?」
「むしろ勉強になる」
「変わったガキだな」
アルノルトは苦笑する。
だが実際、この世界の物流を生で見られるのは大きい。
前世知識だけでは限界がある。
現場を知らなければ、本当の改善はできない。
「しかし、本当に護衛費が下がるんですかねぇ……」
後ろの荷馬車から、小太りの塩商人が不安そうに言った。
「途中で襲われたら終わりでしょう?」
「だから共同に意味があるんだよ」
アルノルトは振り返る。
「単独輸送なら、護衛を増やすほど利益が消える」
「そりゃそうだ」
「でも共同なら、一人あたりの負担は減る」
「……まぁ理屈は分かる」
塩商人はまだ半信半疑だった。
他の商人たちも似たような顔をしている。
(まあ当然か)
この世界に存在しなかった概念なのだから。
だが。
(結果が出れば変わる)
前世でもそうだった。
人は理論では動かない。
利益で動く。
その時だった。
「前方停止!」
護衛の怒鳴り声が響く。
空気が一変した。
馬車が止まる。
ガルドの目が鋭くなる。
「……来たか」
街道脇の林。
そこから数人の男たちが現れた。
粗末な武器。
顔を隠した布。
いかにも盗賊だ。
だがアルノルトは違和感を覚えた。
(妙だな)
装備が綺麗すぎる。
動きも妙に統率されている。
そして何より。
【ユニークスキル《企業経営》が発動】
【警告:計画的妨害を検知】
【競合勢力との関連性:高】
(やっぱりか)
赤蛇商会。
ほぼ確定だった。
「荷を置いていけ!」
盗賊の一人が叫ぶ。
だがガルドは鼻で笑った。
「三流だな」
「なに?」
「人数が少ねぇ」
次の瞬間。
「やれ」
灰狼商会の護衛たちが一斉に動いた。
速い。
明らかに練度が違う。
盗賊たちは一瞬で押し込まれる。
「ぐっ!?」
「な、なんだこいつら!」
数分後。
盗賊たちは悲鳴を上げながら逃げ出していた。
商人たちが呆然としている。
「終わった……?」
「は、早ぇ……」
ガルドはつまらなそうに鼻を鳴らした。
「だから言ったろ。共同の方が強ぇんだよ」
その言葉に、商人たちが顔を見合わせる。
単独輸送では、ここまでの護衛は雇えない。
だが共同なら可能になる。
つまり。
(安全性そのものが上がる)
アルノルトは確信した。
この仕組みは成功する。
絶対に。
【成功率:67% → 81%】
(お、跳ね上がった)
どうやら実績が評価されたらしい。
その時だった。
「……坊ちゃん」
ガルドがニヤリと笑う。
「お前、最初からこうなると思ってたな?」
「まあね」
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