第十話 利益は“信用”を生む
共同輸送隊が目的地の村へ到着したのは、夕方前だった。
帝都から半日ほど。
街道沿いの小さな宿場村だ。
「塩だ!」
「灰狼商会の荷が来たぞ!」
村人たちがざわつき始める。
最近は輸送不足のせいで、物資価格が上がっていたらしい。
特に塩は深刻だ。
「荷を下ろせ!」
護衛たちが動き始める。
商人たちも慌てて自分の商品を確認していた。
「……減ってない」
「こっちもだ」
「全部揃ってるぞ」
ざわめきが広がる。
当然だった。
今回は積荷管理表を作っている。
途中で誤魔化せない。
つまり。
(“安心できる取引”になってる)
それが重要だった。
この世界の商売は、損失前提だ。
盗難。
紛失。
ごまかし。
だから皆、価格へ上乗せする。
結果、全体が高くなる。
だが逆に。
安全性が上がれば、利益率も上がる。
「坊ちゃん」
ガルドが積荷表を見ながら口を開く。
「護衛費、予定通り三割減ってるぞ」
「うん」
「しかも損失ゼロ」
「うん」
アルノルトは笑った。
ここまでは想定通り。
だが重要なのはここからだった。
「塩、売ってみて」
「……は?」
塩商人が目を丸くする。
「価格を少し下げるんだ」
「いや、なんでです?」
「輸送費が下がった分、安くできるでしょ?」
「そりゃそうですが……利益が減る」
「逆」
アルノルトは即答した。
「安くすれば、もっと売れる」
塩商人がぽかんとする。
この世界の商人は、
“単価を上げて利益を取る”
発想が基本だ。
だが前世では違う。
(回転率を上げる)
大量販売。
薄利多売。
物流効率。
市場拡大。
それが現代経済だった。
「今までは高すぎて買えなかった人も買えるようになる」
「……そんなに変わりますかね?」
「試してみれば分かる」
塩商人は半信半疑のまま、値段を書き換えた。
周囲がざわつく。
「安い……!」
「昨日より下がってるぞ!」
「今のうちに買え!」
次の瞬間だった。
村人たちが一斉に押し寄せた。
「うおっ!?」
「ちょ、押すな!」
「塩くれ!」
塩商人が目を剥く。
飛ぶように売れていく。
あっという間に在庫が減っていった。
「な、なんだこれ……!?」
「だから言ったでしょ」
アルノルトは平然としていた。
価格が下がれば需要が増える。
前世なら小学生でも知っている。
だが、この世界にはその概念が薄い。
「利益は!?」
塩商人が慌てて計算する。
数秒後。
「……増えてる」
呆然と呟いた。
「前より利益が多い……!」
理由は単純。
輸送コスト減。
販売量増。
回転速度上昇。
つまり総利益が増えた。
アルノルトは笑う。
(やっぱりこの世界、商売が下手すぎる)
【ユニークスキル《企業経営》が発動】
【共同輸送が成功しました】
【市場信用度が上昇】
【灰狼商会との関係が改善】
【利益:銀貨三十二枚】
(おお、増えてる)
前回予測より多い。
どうやら現地需要が想定以上だったらしい。
その時だった。
「坊ちゃん!」
塩商人が勢いよく近づいてきた。
顔が真っ赤だ。
「俺にも! またその共同輸送ってやつ参加させてくれ!」
他の商人たちも一斉に頷く。
「うちも頼む!」
「次は布も増やしたい!」
「定期的にやれねぇのか!?」
アルノルトは内心で笑った。
(ほらね)
人は理論では動かない。
利益で動く。
そして一度利益を知った人間は、自分から離れなくなる。
これが。
(“市場を支配する”ってことだ)
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました!
もし「続きが気になる!」「面白い!」と思っていただけましたら、
下にある**【ブックマークに追加】や、【☆☆☆☆☆】を★★★★★**にして応援していただけると、執筆の励みになります……!
ほんの少しの応援でも、作者にとっては嬉しいものです。
どうぞよろしくお願いいたします!




