第七話 はじめての共同輸送
翌朝。
灰狼商会の倉庫前は、朝から騒がしかった。
「急げ! 積み込み遅れてんぞ!」
「護衛はこっちだ!」
「塩袋落とすな馬鹿!」
怒号が飛び交う中、アルノルトは腕を組んで全体を眺めていた。
(思ったより規模でかいな)
荷馬車三台。
護衛六人。
参加商人五人。
これが、この世界初の“共同輸送”だった。
「アルノルト様……」
隣のリリアが不安そうに袖を引く。
「本当に大丈夫なんでしょうか……」
「たぶん」
「たぶん!?」
まあ、不安になる気持ちは分かる。
なにせ全員が初体験だ。
商人たちは互いを警戒しているし、護衛たちもどこか落ち着かない。
だが。
(逆に言えば、誰も正解を知らない)
なら先に形を作った者が勝つ。
「坊ちゃん」
ガルドが近づいてきた。
今日は軽装だが、それでも威圧感が凄い。
「積荷確認は終わった」
「契約書は?」
「全員にサイン……じゃねぇな、名前を書かせた」
この世界には署名文化が弱い。
だから簡易的な記名方式にした。
アルノルトとしては印鑑まで作りたいが、今はまだ早い。
「揉めそうな商人は?」
「二人ほどいる」
「予想通りか」
アルノルトは参加商人たちを見る。
塩商人。
干し肉商人。
布商人。
薬草商人。
そして雑貨商。
全員が小規模。
だからこそ輸送コストに苦しんでいた。
「よし、説明する」
アルノルトは荷馬車の前へ立った。
視線が集まる。
十三歳の少年へ向けられる目としては、かなり険しい。
「今回の共同輸送では、護衛費を全員で分担する」
商人たちが黙って聞いている。
「積荷量に応じて支払い比率を調整。不公平が出ないよう記録も取る」
「本当に安くなるんだろうな?」
塩商人が眉をひそめる。
「なるよ。単独輸送より三割近く下がるはずだ」
ざわつきが広がった。
三割。
この世界では破格だ。
「その代わり条件がある」
アルノルトは周囲を見渡した。
「勝手な行動は禁止。途中離脱も禁止。問題が起きた場合は、必ず管理役――灰狼商会へ報告すること」
「……つまり従えってことか」
「そう。ルールがないと共同は成立しない」
前世でも同じだった。
組織。
物流。
会社。
全部ルールで動いている。
自由だけでは大規模化できない。
「そしてもう一つ」
アルノルトは契約書を掲げた。
「今回の内容は、すべてこの契約書に従う」
商人たちが顔を見合わせる。
まだ慣れていない。
だが逆に言えば――。
(ここを慣れさせたら勝ちだ)
契約文化を握る。
それは商業支配に直結する。
「……面白ぇ」
ガルドが笑った。
「坊ちゃん、商人向いてるぜ」
「ありがとう」
「褒めてねぇけどな」
その時だった。
護衛の一人が駆け込んでくる。
「ガルド様!」
「どうした」
「北門付近で、“赤蛇商会”の連中がうろついてます!」
空気が変わった。
ガルドの目が細くなる。
「……赤蛇か」
リリアが小さく呟く。
「競合商会……」
アルノルトはすぐ理解した。
(なるほど。妨害ってこれか)
共同輸送が成功すれば、市場が変わる。
つまり既存勢力からすれば面白くない。
【ユニークスキル《企業経営》が発動】
【警告:競合勢力を確認】
【成功率:64% → 58%】
(うわ、さらに下がった)
だが逆に言えば。
(効いてるってことだ)
誰も気にしない挑戦なら、妨害なんて来ない。
つまり、この共同輸送には価値がある。
アルノルトはゆっくり笑った。
「面白くなってきたね」
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