第五十九話 帝国経済戦争
帝都進出から三年。
アルノルト商会は、いつの間にか帝国最大級の商会へ成長していた。
北部物流網。
保存食事業。
織物産業。
共同輸送契約。
そして、帝国初の大規模融資事業。
辺境の小さな商会は、もはや帝国経済を支える柱の一つになっていた。
「赤蛇商会が倒産しました。」
ミレナが静かに報告する。
「最後まで強かったね。」
「ええ。」
価格競争では負けなかった。
だが。
信用競争では負けた。
契約。
安定供給。
長期視点。
それがアルノルト商会の武器だった。
「次は帝国です。」
クラウスが羊皮紙を差し出す。
帝国財政報告書。
そこに並ぶ数字は酷かった。
「戦争。」
「飢饉。」
「貴族の浪費。」
「全部乗せだね。」
アルノルトは苦笑する。
「国家も会社も同じか。」
収入以上に使えば潰れる。
それだけの話だった。
そして。
帝国は今、潰れかけていた。
王族は助けを求めた。
貴族たちは責任を押し付け合った。
商人ギルドも動いた。
だが。
足りない。
圧倒的に足りない。
「侯爵の坊ちゃん。」
ダンがため息を吐く。
「嫌な予感しかしねぇ。」
「奇遇だね。」
「アンタの場合、その予感は当たるんだよ。」
否定できなかった。
アルノルトは立ち上がる。
「行こうか。」
「どこへ?」
リリアが聞く。
アルノルトは笑った。
「帝国を買いに。」
その言葉に。
誰も笑わなかった。
もう誰も。
アルノルトの無茶を冗談だとは思っていなかったからだ。
翌日。
皇帝から正式な招集状が届く。
内容は簡単だった。
――帝国を救ってほしい。
辺境へ追いやられた侯爵家の三男へ。
帝国そのものが助けを求めていた。




