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転生貴族の三男だけど、前世の知識で帝国を買い取ります  作者: ニートは34歳まで
第二章 辺境開拓編

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第五十八話 中央商業会議


 翌日。


 アルノルトは商人ギルド本部の大会議室へ案内されていた。


「広いな……」


 思わず呟く。


 長い机。


 豪華な椅子。


 壁には帝国の大きな地図が飾られている。


 既に二十人ほどの商人が席についていた。


 年配が多い。


 身なりも良い。


 明らかに大商会の人間だった。


「侯爵の坊ちゃん。」


 ダンが小声で言う。


「完全に場違いだな。」


「言わないで。」


 少し傷つく。


 その時だった。


「ああ、君が北部の。」


 声を掛けてきたのは、恰幅の良い男だった。


 五十代くらいだろうか。


 高そうな服を着ている。


「初めまして。」


「ガルド商会の会頭、レオニスだ。」


「アルノルト・ヴァルツェンです。」


 軽く頭を下げる。


「噂は聞いているよ。」


「共同輸送だったかな?」


「はい。」


「面白いことを考える。」


 敵意はない。


 純粋に興味を持っているようだった。


 すると。


「面白い、ですか。」


 別の声がした。


 少し棘のある声だった。


「私はそうは思いませんがね。」


 振り返る。


 そこには見覚えのある紋章があった。


 赤い蛇。


(ああ……)


 来た。


「赤蛇商会、常務のバルツです。」


 四十代くらいの男だった。


 細い目。


 冷たい笑み。


 いかにもやり手という感じだ。


「北部では随分と好き勝手されたそうで。」


「好き勝手?」


「市場を乱した、と言い換えてもいい。」


 空気が少し変わる。


 周囲の商人たちもこちらを見ていた。


「共同輸送。」


「長期契約。」


「価格の安定。」


「非常に結構。」


「ですが。」


 バルツが笑う。


「地方の小商会がやることではありません。」


 なるほど。


 そう来たか。


「どういう意味です?」


「簡単です。」


「中央の流通を無視し始めた。」


「それだけですよ。」


 つまり。


 北部が自立し始めたことが気に入らないのだ。


 アルノルトは少し考える。


 そして。


「それって、駄目なんですか?」


 静まり返った。


 バルツの笑みが止まる。


「……何?」


「北部が豊かになる。」


「商人が増える。」


「取引も増える。」


「それって悪いことですか?」


 誰も何も言わない。


 だからアルノルトは続けた。


「市場って、奪い合うものじゃなくて。」


「大きくするものじゃないんですか?」


 沈黙。


 数秒。


 そして。


「……はは。」


 レオニスが突然笑い出した。


「なるほど。」


「面白い坊ちゃんだ。」


 周りの商人たちも苦笑する。


 だが。


 バルツだけは笑っていなかった。


「理想論ですな。」


「そうかも。」


「ですが、現実は違う。」


 細い目がさらに細くなる。


「市場には限りがあります。」


「誰かが得をすれば、誰かが損をする。」


「それが商売です。」


 アルノルトは首を傾げた。


「そうかな?」


「何?」


「パンを一個しか作らないなら、そうかもしれない。」


「でも。」


「二個作ればいいんじゃない?」


 また静まり返る。


 今度はレオニスまで固まっていた。


「……坊ちゃん。」


 ダンが小声で言う。


「また変なこと言ったか?」


「たぶん。」


 嫌な予感がする。


 ローレンが額を押さえていた。


 何故だろう。


「つまり。」


 アルノルトは続ける。


「市場そのものを大きくすればいい。」


「その発想は……」


 レオニスが呟く。


「普通の商人はしないな。」


 その時だった。


 奥の席から、ゆっくりと拍手が聞こえた。


 全員が振り向く。


 そこには、一人の老人が座っていた。


 白髪。


 豪華な服。


 そして。


 誰よりも鋭い目。


「面白い。」


 老人が静かに笑う。


「実に面白い。」


 ローレンが慌てて頭を下げた。


「会長。」


 会長。


 その一言で、会議室の空気が変わった。


 商人ギルド。


 その頂点にいる人物だった。


「北部の坊ちゃん。」


 老人が笑う。


「少し、話をしようじゃないか。」


 アルノルトは、ようやく理解した。


(……胃が痛くなる相手が増えた。)


 どうやら。


 帝都に来て最初の大物に、目を付けられたらしい。


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