第五十七話 帝都の商人たち
北部を出発して十日後。
アルノルトたちの馬車は、ついに帝都へ到着した。
「でかいな……」
ダンが思わず呟く。
高い城壁。
行き交う馬車。
人、人、人。
ラウル村とは比べものにならない。
「これが帝都ですか……」
リリアも圧倒されていた。
アルノルトも同じだった。
(東京駅前みたいだな……)
前世の記憶が蘇る。
人が集まる場所には金が集まる。
金が集まる場所には情報が集まる。
そして。
情報が集まる場所には権力が集まる。
「アルノルト様。」
ベルマンが指を差す。
「あれです。」
巨大な建物。
入口には商人たちが列を作っていた。
「商人ギルド本部か。」
「はい。」
北部支部とは比較にならない。
まるで役所のようだった。
「侯爵の坊ちゃん。」
ダンが顔をしかめる。
「嫌な予感しかしねぇ。」
「奇遇だね。」
「アンタの場合、その予感は大体当たるんだよ。」
否定できなかった。
受付を済ませる。
すると、職員が目を丸くした。
「アルノルト・ヴァルツェン様?」
「はい。」
「北部のアルノルト商会の?」
「たぶん。」
職員が慌てて立ち上がる。
「少々お待ちください!」
走っていった。
「なんだ?」
「有名なんじゃないですか?」
リリアが言う。
だとしたら困る。
目立つのは好きではない。
数分後。
一人の男が現れた。
三十代後半。
細身。
眼鏡をかけている。
いかにも仕事ができそうな男だった。
「お待ちしておりました。」
「クラウスさん?」
「いえ。」
男は微笑む。
「商人ギルド中央理事、ローレンです。」
理事。
思ったより偉い人が出てきた。
「北部街道の共同輸送。」
「長期供給契約。」
「保存食事業。」
「大変興味深く拝見しております。」
嫌な予感が強くなる。
「それで?」
「ぜひお話を伺いたい。」
ローレンは笑う。
「帝国の商人たちは、あなたを見たがっています。」
「なんで?」
「常識を壊したからです。」
静かな声だった。
「地方商会は中央に従う。」
「それが今までの常識でした。」
「ですがあなたは逆をやった。」
「地方市場を育て、中央が無視できない規模まで大きくした。」
確かにそうかもしれない。
北部の商人たちは、もう帝都を経由しなくても商売ができる。
それは既存の商人にとって面白くない話だ。
「つまり。」
アルノルトはため息をつく。
「歓迎会じゃなくて品評会?」
「近いですね。」
ローレンが笑った。
「もっとも。」
「敵を作るか。」
「味方を作るか。」
「それはアルノルト様次第ですが。」
ダンが小さく呟く。
「胃痛が増えそうだな。」
「僕もそう思う。」
するとローレンが首を傾げた。
「胃痛?」
「気にしないでください。」
アルノルトは即答した。
たぶん。
これから先、何度も世話になる言葉だった。
帝都。
商人ギルド。
中央市場。
そして。
帝国中の商人たち。
辺境の坊ちゃんの戦いは、ここからが本番だった。




