第五十二話 消えかけた織物村
「羊毛を全部買うってよ」
ゲイル村長の言葉に、その場の空気が少し重くなった。
「条件は?」
アルノルトが聞く。
「今より二割高い値段だ」
村人たちがざわつく。
二割。
かなり良い条件だった。
「それで?」
「迷っている」
ゲイルは正直だった。
「高く売れるなら悪い話じゃないからな」
「そりゃそうだ」
アルノルトも頷く。
商売なのだから当然だ。
高く買ってくれる相手がいるなら、その話を聞く価値はある。
「ただな」
ゲイルが続ける。
「俺たちも馬鹿じゃない」
アルノルトは少し笑った。
どうやらこの村長も、なかなか見えている。
「今は高くても、ずっと高いとは限らねぇ」
「そうだね」
「だから決めきれん」
村人たちも頷いていた。
どうやらカルド村は、思った以上に冷静らしい。
「それなら心当たりがあるぞ」
ゲイルが急に言った。
全員が顔を上げる。
「本当ですか?」
ベルマンが身を乗り出す。
「ああ」
ゲイルは頷く。
「昔は織物で有名だった村がある」
「昔は……ってことは?」
「今は潰れかけている」
嫌な予感しかしない。
だがアルノルトは興味を持った。
「どうして?」
「南から安い布が大量に入ってきた」
「なるほど」
典型的だった。
大量流通。
価格競争。
地方産業の衰退。
前世でも何度も見た構図だ。
「村の名前は?」
「リンド村」
ゲイルは少し懐かしそうに言う。
「昔は北部じゃ有名だったんだ」
「そんなに?」
「ああ」
近くにいた年配の村人も頷く。
「リンドの布は丈夫だった」
「冬でも長持ちした」
「昔は商人が並んで買いに来たもんだ」
だが今は違う。
誰も買いに来ない。
安い布に押され。
職人も減り。
若者も出ていった。
「今は何人くらい残ってるんです?」
リリアが聞く。
「職人か?」
「はい」
「十人もいないだろうな」
かなり厳しい。
だが。
アルノルトは逆に可能性を感じていた。
「侯爵の坊ちゃん」
ダンが怪訝そうな顔をする。
「なんで嬉しそうなんだ?」
「まだ残ってるから」
「ん?」
「ゼロじゃない」
職人が一人もいないなら終わりだ。
だが十人いる。
なら技術は残っている。
「技術が残ってるなら、やり直せる」
アルノルトはそう言った。
ゲイルが少し驚いた顔をする。
「簡単に言うなぁ」
「簡単じゃないよ」
アルノルトは苦笑する。
むしろ難しい。
だが不可能ではない。
「侯爵の坊ちゃん」
ダンが言う。
「まさか」
「そのまさか」
アルノルトは頷いた。
「リンド村へ行こう」
ベルマンが目を輝かせる。
リリアも少し楽しそうだった。
そしてゲイルは呆れたように笑う。
「羊毛の話をしに来たと思ったら、今度は織物村か」
「繋がっているからね」
羊がいる。
羊毛がある。
職人がいる。
後は繋げるだけだ。
【ユニークスキル《企業経営》が発動】
【リンド村を発見】
【主要産業:織物
(衰退)
】
【推定再建難易度:低】
【推定収益性:高】
(おもしろくなってきた)
衰退した村。
残された職人。
そして大量の羊毛。
バラバラだったものが、少しずつ繋がり始めていた。




