第五十一話 羊の村
数日後。
アルノルトたちはカルド村へ向かっていた。
フェルン村からさらに南。
北部では珍しく、羊の飼育が盛んな村だった。
「思ったより多いな」
村へ近づいたアルノルトは少し驚いた。
丘の斜面。
草地。
そこを大量の羊が歩いている。
白い毛が風に揺れていた。
「カルド村は昔から羊です」
ベルマンが説明する。
「北部でも有名ですよ」
「有名なのに儲かってないの?」
「……はい」
即答だった。
アルノルトは苦笑する。
だいたい予想通りだった。
原料を売るだけ。
加工しない。
販路も少ない。
それでは儲からない。
「侯爵の坊ちゃん」
ダンが羊を見ながら言う。
「これ本当に全部が金になるのか?」
「なるよ」
「本当に?」
「今が安すぎるから、大丈夫だよ」
羊毛。
乳。
肉。
全部売れる。
問題は売り方だった。
「アルノルト様」
リリアが指を差した。
「あそこです」
村の中央。
大きな柵の前に数人の男たちが集まっていた。
どうやら村長らしい。
「初めまして」
アルノルトは軽く頭を下げる。
「アルノルト・ヴァルツェンです」
「カルド村村長のゲイルだ」
五十代くらいだろうか。
日焼けした顔。
太い腕。
いかにも現場の人間だった。
「フェルン村の話は聞いている」
ゲイルは腕を組む。
「随分儲かっているそうじゃないか」
「まだまだだよ」
「貴族が言うと嫌味に聞こえるな」
少し笑いが起きた。
悪い雰囲気ではない。
「今日は羊の話ですかな?」
「そう」
ゲイルが頷く。
「やっぱりな」
どうやら予想されていたらしい。
「先に言っておく」
ゲイルは真顔になった。
「羊毛の値段は安い」
「知っているよ」
「毛を刈っても儲からん」
「それも、知っている」
「商人も買い叩く」
「うん、そうだよね」
ゲイルが少し驚く。
「なら話が早い」
アルノルトは笑った。
「だから、儲かるように加工しよう」
村人たちが顔を見合わせる。
「加工?」
「羊毛を糸にする」
「布にする」
「服にする」
沈黙。
そして。
「そんなことできるのか?」
ゲイルが聞いた。
「できる人を探せばいい」
前世知識がある。
やり方は分かる。
必要なのは職人だ。
「侯爵の坊ちゃん」
ダンが小声で聞く。
「また人探しか?」
「また人探しだね」
「好きだな」
「人はいつでも足りないからね」
人材不足は深刻だった。
物流も。
加工も。
全部人が必要になる。
その時だった。
一人の村人が慌てて駆け寄ってくる。
「村長!」
「どうした?」
「商人が来てる!」
ゲイルが眉をひそめた。
「またか」
アルノルトも察する。
この反応。
初めてではない。
「赤蛇商会?」
ゲイルが頷いた。
「三日前にも来た」
やはり先回りされている。
ミレナの予想通りだった。
「何を言っていた?」
「羊毛を全部買うってよ」
アルノルトは少し考えた。
そして笑う。
(なるほど)
赤蛇商会は。
商品を作る前の段階で押さえに来ている。
さすが大商会だった。
だが。
(だからこそ勝機もある)
相手は原料を見ている。
こちらは加工品を見ている。
勝負する場所が違うのだから。




