第五十話 売るものを増やせ
フェルン村からの帰り道。
荷馬車の上で、リリアが考え込んでいた。
「どうしたの?」
「赤蛇商会です」
珍しく真面目な顔だった。
「やっぱり強そうですね」
「そうだね」
アルノルトは素直に認めた。
資本。
人材。
販路。
全部持っている。
今のアルノルト商会では正面から勝てない。
「不安ですか?」
ベルマンが聞く。
「少しだけ」
リリアは頷いた。
「村の人たちも、赤蛇商会の話を聞いていましたし」
当然だろう。
農具。
種子。
販路。
どれも魅力的だ。
だからこそ。
(競争になる)
アルノルトは少し笑った。
むしろ、その方が健全だった。
選択肢が増える。
市場が育つ。
悪いことではない。
「侯爵の坊ちゃん」
ダンが合流すると同時に言った。
「で、どうするんで?」
「何が?」
「赤蛇対策」
単刀直入だった。
「向こうは金を配る」
「こっちは?」
アルノルトは少し考える。
そして。
「売るものを増やそう」
全員が首を傾げた。
「またですか?」
ミレナが苦笑する。
「まただよ」
物流を作った。
保存食を作った。
契約も作った。
なら次だ。
「北部には資源がある」
「でも商品が少ない」
それは前回フェルン村で確認した。
だから貧しい。
だから買うしかない。
なら。
(作ればいい)
「フェルン村は燻製肉」
「じゃあカルド村は?」
ベルマンが地図を見る。
「カルド村は羊が多いですね」
「羊か」
悪くない。
毛。
乳。
肉。
使い道が多い。
「加工品は?」
「ほとんどありません」
予想通りだった。
素材のまま売っている。
だから利益が少ない。
「それだ」
アルノルトは頷く。
「加工しよう」
前世でも同じだった。
原料より加工品。
加工品よりブランド品。
利益率は上がる。
「侯爵の坊ちゃん」
ダンが笑う。
「つまり、どうするんで?」
「羊毛製品」
「チーズ」
「干し肉」
次々と案が浮かぶ。
北部は寒い。
防寒具需要もある。
「なるほど」
ミレナも頷いた。
「商品そのものを増やすんですね」
「そう」
赤蛇商会が強いのは流通。
ならこちらは。
商品を増やす。
市場を増やす。
その方がアルノルト商会らしい。
「でも」
リリアが首を傾げる。
「作る人は?」
良い質問だった。
加工には人手がいる。
技術もいる。
そして。
(教育も必要だな)
孤児たち。
村人。
職人。
これから必要になる。
その時だった。
【ユニークスキル《企業経営》が発動】
【《地域産業育成》を認識】
【新規事業候補:羊毛加工】
【新規事業候補:乳製品加工】
【雇用需要が増加】
(よし)
物流だけでは弱い。
商品だけでも弱い。
両方あるから強い。
アルノルトは静かに笑った。
赤蛇商会が市場を取りに来るなら。
こちらは市場そのものを大きくすればいい。




