第五話 灰狼商会
灰狼商会の建物は、商会というより砦だった。
帝都南区の中央。
三階建ての石造り。
入口には武装した男たちが立ち、周囲には荷馬車が絶えず出入りしている。
「完全にヤクザでは?」
アルノルトが率直な感想を漏らすと、
「ヤクザってなんですか?」
とリリアが首を傾げた。
「いや、こっちの話」
だが実際、雰囲気はかなり近い。
商会の看板を掲げてはいるが、実態は武力込みの物流組織だ。
この世界では珍しくない。
輸送には常に危険が伴う。
魔物。
盗賊。
他商会の妨害。
だから商人は、自然と武力を持つようになる。
(物流会社兼マフィアって感じだな)
前世知識で翻訳すると分かりやすい。
「こちらです」
市場で声をかけてきた男に案内され、アルノルトたちは奥へ進む。
廊下には厳つい男ばかり。
リリアは完全に怯えていた。
だがアルノルトは逆に周囲を観察していた。
(人員多いな…)
(荷の回転も速い…)
(思ったより組織化されている?)
少なくとも、ただの暴力集団ではない。
むしろかなり優秀だ。
だからこそ南区を支配できているのだろう。
やがて最奥の部屋へ通される。
重い扉が開いた。
「ガルド様。例の坊ちゃんです」
部屋の中央。
巨大な机。
その向こうに、一人の男が座っていた。
年齢は四十代半ばほど。
黒髪を後ろへ撫でつけ、鋭い眼光をこちらへ向けている。
豪華な服を着ているが、貴族とは違う。
実務でのし上がった人間特有の圧があった。
「初めまして、坊ちゃん」
男は静かに笑う。
「灰狼商会の主、ガルドだ」
「アルノルト・ヴァルツェンです」
名乗った瞬間。
周囲の空気がわずかに変わった。
「……ヴァルツェン侯爵家か」
「一応ね」
「“落ちこぼれ三男”って話は聞いてたが」
ガルドは口元を吊り上げた。
「随分、面白ぇことを言うじゃねぇか」
リリアがびくっと肩を震わせる。
だがアルノルトは平然としていた。
「共同輸送の話?」
「ああ」
ガルドは椅子へ深く座り直した。
「坊ちゃん。本気で言ってんのか?」
「本気だけど」
「商人同士で荷をまとめる? ありえねぇな」
「どうして?」
「信用できねぇからだ」
即答だった。
「荷を抜かれるかもしれねぇ。積荷をごまかされるかもしれねぇ。護衛と結託されるかもしれねぇ」
「つまり“仕組み”がない」
アルノルトは即座に返す。
「仕組み?」
「責任と利益を管理する仕組み」
ガルドの目が細くなった。
アルノルトは続ける。
「人を信用する必要はない。信用できる形を作ればいい」
「……ほぉ?」
「契約書。積荷管理。違反時の罰則。利益配分。全部決める」
前世では当たり前。
だが、この世界には存在しない概念。
「そして灰狼商会が“共同輸送の管理役”になればいい」
その瞬間。
部屋の空気が変わった。
ガルドの後ろに立つ男たちがざわつく。
「管理役だと?」
「つまり利益の中心じゃねぇか……」
アルノルトは笑う。
「輸送量が増えれば、護衛依頼も増える。市場全体が大きくなる」
奪い合うな。
市場そのものを拡大しろ。
それが前世経済の基本だった。
ガルドは黙ってアルノルトを見ていた。
やがて。
「……面白ぇ」
低く笑う。
「坊ちゃん、本当に十三歳か?」
「中身は三十五歳だからね」
「?」
「こっちの話」
危うく転生バレしかけた。
ガルドはしばらく考え込む。
そして口を開いた。
「いいだろう」
リリアが目を見開く。
「えっ?」
「一回だけだ」
ガルドはアルノルトを指差した。
「共同輸送。試してみろ」
部屋がざわついた。
「ガルド様!?」
「危険です!」
「失敗したらどうするんです!」
だがガルドは笑う。
「失敗したら、その時は坊ちゃんに責任取ってもらうだけだ」
どう考えても脅しである。
リリアの顔が真っ青になった。
だがアルノルトは逆に口元を吊り上げた。
(きた!?)
最初のチャンス。
ここで成功すれば、一気に市場へ食い込める。
【ユニークスキル《企業経営》が発動】
【大型取引イベントが発生】
【成功時報酬:影響力上昇】
【失敗時:信用低下】
(ゲームみたいになってきたな……)
だが悪くない。
むしろ分かりやすい。
アルノルトは笑みを浮かべた。
「いいよ。その取引、受ける」
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました!
もし「続きが気になる!」「面白い!」と思っていただけましたら、
下にある**【ブックマークに追加】や、【☆☆☆☆☆】を★★★★★**にして応援していただけると、執筆の励みになります……!
ほんの少しの応援でも、作者にとっては嬉しいものです。
どうぞよろしくお願いいたします!




