第四十五話 最初に契約した村
フェルン村へ試験的な輸送を始めてから十日後。
アルノルト商会の倉庫は、以前よりもずっと忙しくなっていた。
「保存食、追加で二十箱!」
「燻製魚はこっちへ!」
「荷馬車の点検終わりました!」
エルたち孤児組も、すっかり仕事に慣れている。
最初は遠慮がちだった。
だが今では違う。
誰よりも真面目に働いていた。
「頑張っているね」
アルノルトが声を掛けると、エルが少し照れくさそうに頭を掻く。
「飯が食えるからな!」
「大事だね」
「あと」
エルが少しだけ笑った。
「役に立ってる気がする」
アルノルトも笑った。
それは大事なことだった。
人は金だけでは動かない。
自分の仕事に意味があると思えた時、一番力を発揮する。
「アルノルト様!」
その時、ベルマンが慌てて走ってきた。
「フェルン村の村長が来ています!」
「お」
予定より少し早い。
アルノルトは応接用に使っている部屋へ向かった。
中にはオルド村長が座っていた。
表情は以前より明るい。
「こんにちは」
「アルノルト様」
挨拶を交わす。
そして。
オルドは机の上へ羊皮紙を置いた。
「契約をお願いしたい」
リリアが小さく目を丸くする。
ベルマンも嬉しそうだった。
だがアルノルトは慌てなかった。
「理由を聞いても?」
オルドは苦笑した。
「ちゃんと届いたからです」
シンプルだった。
「保存食も品質が良かった」
「約束の日に来た」
「値段も変わらなかった」
「それだけです」
それだけ。
だが商売では、その“それだけ”が一番難しい。
約束を守る。
継続する。
言うのは簡単だが、実際には難しい。
「それに」
オルドが続ける。
「村人たちの反応も良い」
「反応?」
「冬への不安が減りました」
その言葉に、アルノルトは少し嬉しくなった。
価格だけじゃない。
生活が変わり始めている。
それが何より大きい。
「では」
オルドが羊皮紙を差し出す。
「フェルン村として、年間契約をお願いしたい」
ベルマンが息を呑む。
「年間……!」
大きい。
かなり大きい。
単発取引ではない。
一年単位の契約だ。
つまり。
(収益予測が立つ)
これは経営的に非常に強い。
「受けます」
アルノルトは即答した。
オルドが安堵したように笑う。
そして。
「実はもう一つ」
「うん?」
「カルド村も契約したがっています」
アルノルトは思わず吹き出した。
「早いなぁ」
「フェルン村へ来た荷を見て決めたそうです」
やはり口コミだった。
広告より強い。
実績より早い営業もない。
「侯爵の坊ちゃん」
後ろで聞いていたダンが笑う。
「村が村を連れてくるのか」
「理想的だね」
「怖いくらい順調だぞ」
その言葉に、ミレナが静かに口を開いた。
「だからこそ危険です」
空気が少し変わる。
「赤蛇商会ですね」
「ええ」
ミレナは頷く。
「向こうもこの流れには気付いているはずです」
当然だった。
契約村が増える。
物流網が広がる。
つまり北部市場がアルノルト商会側へ傾き始める。
赤蛇商会が黙って見ているとは思えない。
その時だった。
【ユニークスキル《企業経営》が発動】
【《長期供給契約》を締結】
【契約村:1→2
(予定)
】
【商会ランク:F→E】
【安定収益基盤を確立】
(お、ランク上がった)
アルノルトは少し笑う。
商会はまだ小さい。
だが。
確実に根を張り始めていた。
そして大樹になる前に。
必ず誰かが、それを切り倒しに来る。




