第四十三話 最初の営業先
翌朝。
アルノルトたちはラウル村を出発していた。
目的地は、南西にある小村――フェルン村。
馬車で半日ほどの距離だ。
「本当に行くんですね……」
リリアがまだ信じられない顔をしている。
「昨日も言ったよね?」
「言いましたけど……」
普通の貴族なら、使者を出す。
代官を使う。
自分で行かない。
だがアルノルトは違った。
(現場見ないと分からないし)
前世でもそうだった。
報告書だけ見ていると、大事なことを見落とす。
「侯爵の坊ちゃん」
ダンが荷馬車の上から笑う。
「断られたらどうするんです?」
「次へ行く」
「即答だなぁ」
「一回断られたくらいで、諦めていたら、商売にならない」
ミレナが苦笑する。
「その辺り、本当に商人向きですね」
アルノルトとしては普通だった。
だが、この世界では違うらしい。
しばらく進むと、小さな村が見えてきた。
木柵。
畑。
古い井戸。
規模はラウル村より少し小さい。
「ここか」
「フェルン村です」
ベルマンが説明する。
「人口は百五十人ほど」
「冬になると毎年食料不足になります」
アルノルトは頷いた。
(予想通り)
北部はどこも似た状況らしい。
だから保存食が刺さる。
共同輸送も刺さる。
「村長に会える?」
「話は通してあります」
ベルマンが少し誇らしげだった。
どうやら事前連絡くらいはしてくれていたらしい。
数分後。
村の集会所。
そこには初老の男が待っていた。
「フェルン村村長のオルドです」
「アルノルト・ヴァルツェンです」
軽く挨拶を交わす。
すると。
「正直に言います」
オルドがいきなり切り出した。
「我々は警戒しています」
直球だった。
リリアが少し緊張する。
だがアルノルトは驚かなかった。
(当然だな)
突然現れた若い貴族。
商会。
共同輸送。
怪しく見えて当然だ。
「理由を聞いても?」
「今まで何度も騙されました」
オルドは苦い顔をした。
「安く売ると言われた」
「定期的に運ぶと言われた」
「だが長続きしなかった」
アルノルトは黙って聞く。
重要なのは反論じゃない。
現状把握だ。
「つまり」
「信用してない?」
「はい」
オルドははっきり言った。
むしろ好感が持てる。
曖昧な返事よりずっと良い。
「それなら」
アルノルトは笑った。
「契約は急がなくていいですよ」
空気が止まった。
「……は?」
オルドが固まる。
「まず一回使ってください」
「使う?」
「共同輸送」
「保存食」
「気に入ったら契約で」
オルドが完全に困惑していた。
たぶん予想外だったのだろう。
普通なら契約を迫る。
条件を並べる。
だがアルノルトは逆だった。
「信用って」
アルノルトは静かに言う。
「最初から売れるものじゃないから」
使ってもらう。
結果を出す。
それから契約。
前世でも同じだった。
特に地方営業では。
「……変わった貴族ですな」
オルドが苦笑する。
「よく言われます」
その時だった。
【ユニークスキル《企業経営》が発動】
【《試用契約》を認識】
【フェルン村との信頼度が上昇】
【正式契約成立確率:18% → 63%】
(上がりすぎじゃない?)
だが理由は分かる。
相手は契約が欲しいんじゃない。
安心が欲しいのだ。
そして安心は、言葉ではなく実績で作る。
アルノルトは少し笑った。
(やっぱり営業は現場だな)




