第四十話 “共有”の意味
「共同輸送管理権の共有」
ゼルドは穏やかな笑みを崩さなかった。
だが。
ミレナの顔は完全に冷えている。
「共有、ですか」
「ええ」
ゼルドは優雅に頷く。
「アルノルト商会は、まだ小さい」
「ですが発想は素晴らしい」
「共同輸送」
「共同護衛」
「保存食流通」
「実に面白い」
褒めている。
だが同時に。
(値踏みしているな)
アルノルトは静かに相手を見る。
ゼルドは完全に、“買収側”の顔だった。
「で?」
アルノルトが聞く。
「共有すると、何が変わるの?」
「簡単です」
ゼルドが指を広げる。
「赤蛇商会の資本と物流網を使える」
「つまり北部だけでなく、帝国全域へ広げられる」
かなり強い。
実際、大商会の流通力は魅力だ。
今のアルノルト商会にはないものを全部持っている。
「しかも」
ゼルドは続ける。
「黒牙団問題も解決できます」
空気が少し変わった。
「……どうやって?」
ダンが低く聞く。
「簡単ですよ」
ゼルドは笑う。
「大商会が本気を出せば、盗賊など消えます」
言い方が妙だった。
アルノルトは少し目を細める。
(ん?)
その瞬間。
【ユニークスキル《企業経営》が発動】
【警告】
【赤蛇商会と黒牙団の関連性:高】
(あー……)
理解した。
つまり。
(繋がっているな、これ)
直接か間接かは不明。
だが赤蛇商会は、黒牙団を知りすぎている。
「アルノルト様」
ミレナが小声で言う。
「乗らない方がいいです」
「理由は?」
「赤蛇は、“共有”と言って全部持っていきます」
かなり嫌っている。
過去に何かあったのかもしれない。
「侯爵の坊ちゃん」
ダンも低い声になる。
「俺も嫌な匂いする」
だがゼルドは余裕を崩さない。
「誤解しないでいただきたい」
「我々は協力したいだけです」
「北部物流の発展は、帝国全体の利益になりますから」
綺麗な言葉だった。
だがアルノルトは前世で知っている。
本当に善意だけで巨大商会は動かない。
「ゼルドさん」
「はい」
「赤蛇商会って、今まで北部へ来ていた?」
ゼルドの笑みが一瞬だけ止まった。
「……いいえ」
「どうして?」
「利益が薄かったからです」
「でも今は来た」
「ええ」
アルノルトは少し笑った。
答えは簡単だった。
(利益の匂いを嗅ぎつけた)
だから来た。
つまり今の北部物流には価値がある。
それ自体は悪くない。
問題は。
(どこまで飲み込まれるか)
だった。
「ちなみに」
アルノルトは何気ない口調で聞く。
「もし断ったら?」
空気が静まる。
ゼルドは笑ったままだ。
だが目だけが笑っていない。
「残念です」
「ですが、大商会との競争は厳しいですよ?」
脅し。
だがかなり柔らかい。
慣れている。
「価格競争」
「流通妨害」
「商人引き抜き」
「市場圧力」
ゼルドは淡々と並べた。
「小商会では耐えきれない場合もあります」
ベルマンが青ざめる。
リリアも不安そうだった。
だがアルノルトは逆に冷静だった。
(やっぱり来るよな)
市場が大きくなれば、こういう競争相手は必ず出る。
前世でもそうだった。
新規市場を作ると、巨大資本が来る。
それは自然な流れだ。
「……なるほど」
アルノルトは静かに笑った。
「つまり正式に、“競合”になりに来たわけだ」
その瞬間。
ゼルドの笑みが、少しだけ深くなった。
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