第三十九話 赤蛇商会
「大商会?」
アルノルトが聞き返すと、村人は何度も頷いた。
「見たことない数の荷馬車です!」
空気が変わる。
ミレナが露骨に嫌そうな顔をした。
「……嫌な予感しかしません」
「知っている相手?」
「たぶん」
ダンも眉をひそめる。
「南側で最近荒れてる連中だな」
アルノルトは少し考える。
共同輸送。
北部物流回復。
商人ギルドの介入。
ここへ来て“大商会”。
(タイミング良すぎるな)
つまり。
(様子見じゃなくて牽制か)
「見に行こう」
ラウル村入口。
そこには、十台近い荷馬車が並んでいた。
しかも護衛付き。
装備も良い。
完全に大商会規模だった。
「うわ……」
リリアが圧倒されている。
「すごい人数……」
「金あるねぇ」
アルノルトは逆に感心した。
そして荷馬車側面の紋章を見た瞬間、ミレナが舌打ちする。
「やっぱり」
「有名?」
「赤蛇商会です」
ダンが嫌そうに顔をしかめた。
「中央寄りの大型商会だな」
「かなり評判悪いです」
ミレナが即答する。
分かりやすい。
「どう悪いの?」
「安値潰し」
「独占」
「地方商会吸収」
「あと――」
ミレナが少し声を落とす。
「黒い噂も多い」
(あー……)
前世でよく見たタイプだ。
資本力で潰す系。
その時だった。
「これはこれは」
馬車の奥から、派手な服装の男が降りてくる。
年齢は三十代後半ほど。
金の指輪。
高級外套。
そして、貼り付けたような笑顔。
(うわ、営業慣れしている顔だ)
前世で何回も見た。
笑顔なのに目が笑ってないタイプ。
「初めまして」
男が優雅に一礼する。
「赤蛇商会北方支部長、ゼルドと申します」
「アルノルト・ヴァルツェン」
「お噂はかねがね」
ゼルドの視線が周囲を流れる。
荷馬車。
保存食。
労働者。
共同輸送。
全部見ていた。
「いやぁ、驚きました」
「こんな辺境で物流改革とは」
「褒めてる?」
「もちろん」
だが空気が薄ら寒い。
ミレナも完全に警戒していた。
「それで?」
アルノルトが聞く。
「今日は視察?」
「半分は」
「もう半分は?」
ゼルドが笑みを深くする。
「提案です」
来た。
「アルノルト商会」
「我々、赤蛇商会の傘下へ入りませんか?」
空気が止まった。
ベルマンが固まる。
リリアも驚いている。
だがダンは露骨に嫌そうな顔をした。
「うわ、始まった」
「有名なの?」
「赤蛇のやり方だ」
ミレナが低く言う。
「有望な地方商会を飲み込む」
ゼルドは否定しなかった。
「ですが悪い話ではありません」
指を立てる。
「資金援助」
「大型市場接続」
「帝都流通網」
「護衛提供」
「そして――」
ゼルドが笑った。
「北部物流の全面支援」
かなり大きい。
正直、普通の地方商会なら飛びつく条件だった。
だが。
(うますぎる話だな)
前世経験が警鐘を鳴らす。
条件が良すぎる案件は、大体裏がある。
「見返りは?」
アルノルトが聞くと、ゼルドは即答した。
「共同輸送管理権の共有」
ミレナが舌打ちする。
ダンが鼻で笑った。
アルノルトも理解する。
(あー、そこ狙いか)
つまり赤蛇商会は。
北部物流そのものを取りに来たのだ。
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