第三十七話 商人ギルドの提案
「中央側、ですか」
アルノルトは静かに聞き返した。
クラウスは頷く。
「北部だけの話なら、まだ小さい」
「ですが、共同輸送は危険です」
「そんなに?」
「既存流通を壊しかねない」
かなり真面目な口調だった。
脅しというより、本気で警戒している。
「共同輸送は、商人同士の競争構造を変えます」
クラウスは淡々と説明する。
「小規模商人でも、大商会並みの護衛と輸送力を持てる」
「結果、中間管理型の大商会が弱体化する」
(あー……)
アルノルトは納得した。
つまり。
(流通民主化だ)
前世でもあった。
ネット販売。
共同配送。
直販。
そういう仕組みは、既存流通を破壊する。
「さらに保存食」
クラウスが続ける。
「北部冬季価格の乱高下を止め始めています」
「良いことでは?」
「消費者には」
即答だった。
「ですが、“冬季価格”で利益を出していた商人もいます」
ミレナが露骨に嫌そうな顔をする。
「買い占め組ですね」
「ええ」
クラウスは否定しなかった。
つまり今まで。
冬に物流が止まる
↓
価格暴騰
↓
一部商人が大儲けという構造があった。
だがアルノルト商会は、
•保存食
•定期輸送
•共同護衛
で価格を安定させ始めた。
つまり。
(市場の歪みを潰している)
「……侯爵の坊ちゃん」
ダンが苦笑した。
「アンタ、思ったより大暴れしてるな」
「そんなつもりないんだけど」
「市場側からすると十分怪物です」
クラウスが真顔で言った。
ちょっと傷つく。
「ですが」
クラウスは静かに続ける。
「私は反対派ではありません」
空気が少し変わった。
「え?」
ベルマンが驚く。
「物流改善そのものは必要です」
「北部市場は、あまりにも停滞しすぎていた」
クラウスは広場を見る。
働く村人。
保存食。
荷馬車。
以前はなかった光景だ。
「現に、ラウル村は変わり始めています」
その言葉に、ベルマンが少し嬉しそうな顔をした。
「だから提案があります」
クラウスがアルノルトを見る。
「商人ギルドへ加盟してください」
空気が止まる。
ミレナが眉をひそめる。
「……囲い込みですか?」
「半分は」
クラウスは否定しない。
「ですがメリットも大きい」
「例えば?」
「帝国内流通許可」
「中央市場への優先接続」
「大型商会との正式取引」
かなり強い。
要するに。
(中央進出チケットだ)
今のアルノルト商会は、辺境ローカル商会。
だがギルド加盟すれば、帝国規模へ広げることができる。
「ただし」
クラウスの目が細くなる。
「当然、ギルド規約には従っていただきます」
(来たな)
アルノルトは少し笑った。
つまり。
保護。
支援。
その代わり管理下へ入れ。
よくある話だ。
前世でも散々見た。
「アルノルト様……」
リリアが不安そうにこちらを見る。
ミレナも黙っていた。
これは重要な選択だ。
ギルドへ入れば安定する。
だが同時に、自由度は減る。
【ユニークスキル《企業経営》が発動】
【分岐イベント:《商人ギルド加盟》】
【選択により今後の市場構造が変化します】
(さぁて、どうするかな……)
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