第三十四話 アルノルト商会
ラウル村へ戻った頃には、すでに日が暮れ始めていた。
共同輸送の第一便は成功。
荷馬車も無事。
襲撃もなし。
しかも。
「塩、全部売れました!」
ミレナが珍しく興奮気味だった。
「保存食も想像以上に反応が良かったです!」
北部では塩不足が深刻だった。
さらに燻製魚。
保存できる食料への需要は高い。
「利益は?」
「第一便だけで銀貨二十六枚ほどかと」
ベルマンが息を呑む。
「に、二十六枚……」
辺境感覚では大金だ。
しかもこれは一回分。
つまり定期輸送化できれば、継続収益になる。
(かなり良いスタートだな)
アルノルトは静かに頷く。
そして重要なのは。
(“成功した”って事実)
共同輸送は回った。
商人も利益を出した。
つまり信用が生まれる。
それが一番大きい。
「侯爵の坊ちゃん」
ダンが笑う。
「これ、次回もっと増えるぞ」
「だろうね」
「商人ってのは儲け話大好きだからな」
実際、噂は広がるだろう。
北部で利益が出た。
しかも安全。
なら参加者は増える。
「アルノルト様」
リリアが少し嬉しそうに言う。
「村の人たち、笑っています」
アルノルトは広場を見た。
村人たちが話している。
保存食。
輸送。
次の仕事。
以前の沈んだ空気とは明らかに違った。
(流れが変わったな)
経済とは空気だ。
人が、
•動けば変わる
•稼げる
•明日がある
と思い始めた時、街は変わる。
「アルノルト様」
ベルマンが恐る恐る聞く。
「今後はどうされるのですか?」
「組織化する」
「組織……?」
「共同輸送も、保存食も、人も増える」
「だから管理組織が必要」
今はまだ小規模だ。
だが。
•商人
•傭兵
•労働者
•孤児
•村人
もう個人管理の限界が近い。
前世でもそうだった。
人数が増えると、“仕組み”が必要になる。
「名前も必要だね」
ミレナが少し笑った。
「やっとですか」
「そろそろかなって」
ダンがニヤリと笑う。
「決まってんのか?」
「一応」
アルノルトは少しだけ考える。
前世で会社名を考えたことはない。
だが、この世界でやることは決まっている。
物流。
市場。
人の流れ。
全部を動かす。
「――アルノルト商会」
空気が少し静まった。
そして。
「そのまんまだな」
ダンが吹き出した。
「シンプルでいいでしょ」
「嫌いじゃねぇ」
ミレナも小さく頷く。
「覚えやすいですね」
ベルマンは少し感動したような顔をしていた。
「商会が、本当にできるんですね……」
その言葉で、アルノルトも少し実感した。
最初は塩不足。
共同輸送。
そこから始まった。
だが今は違う。
人が増えた。
物流が動いた。
利益が生まれた。
そして。
(組織になる)
【ユニークスキル《企業経営》が発動】
【《アルノルト商会》を正式設立】
【商会ランク:F】
【所属人数:18】
【主力事業:《共同輸送》《保存食加工》】
【月間利益予測:銀貨94枚】
(Fランクなんだ)
ちょっとゲームっぽかった。
だが嫌いじゃない。
むしろ分かりやすい。
「侯爵の坊ちゃん」
ダンが肩を叩いてくる。
「これで本当に後戻りできなくなったな」
「最初からそのつもりだよ」
アルノルトは笑った。
辺境。
貧困。
物流崩壊。
普通なら見捨てられる土地。
だが。
(だからこそ、面白い)
改善余地がある限り、利益は生まれるのだから。
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