第三十三話 孤児たち
街道脇に止まっていた荷馬車。
その周囲にいたのは、三人の子供だった。
「……ほんとに子供だな」
ダンが眉をひそめる。
年齢は十歳前後。
痩せている。
服もボロボロだ。
しかも荷馬車には、まともな積荷がほとんどない。
「止まっている理由は?」
アルノルトが聞くと、先頭の少年が警戒した目を向けてきた。
「……車輪が壊れた」
見れば、確かに片輪が歪んでいる。
かなり無理をしたらしい。
「親は?」
その瞬間。
空気が少し止まった。
少年が目を逸らす。
「……いない」
リリアが小さく息を呑む。
ミレナも表情を変えた。
(あー……)
察した。
この北部では珍しくないのだろう。
物流崩壊。
貧困。
盗賊。
魔物。
全部が重なる。
その結果、孤児が増える。
「どこへ行くつもりだったの?」
「南」
「帝都側?」
少年は頷く。
「北部じゃ生きられないから」
アルノルトは少し黙った。
かなり重い言葉だった。
そして同時に。
(人材流出しているな)
前世知識が経営視点で反応する。
若者が逃げる土地は衰退する。
これは地方経済の典型だった。
「侯爵の坊ちゃん」
ダンが小声で言う。
「どうする?」
「どうするって?」
「放っとくか、助けるか」
アルノルトは壊れた車輪を見る。
さらに荷馬車。
積荷。
子供たち。
そして。
(働き口がないんだな)
つまり。
(物流が死んでいるから、雇用も死んでいる)
全部繋がっていた。
「名前は?」
少年が少し警戒しながら答える。
「……エル」
「エルか」
アルノルトは少し考える。
前世でもそうだった。
物流が回れば、人が必要になる。
管理。
積み込み。
加工。
記録。
つまり。
(人手不足になる)
今後、北部共同輸送を広げるなら、絶対に人材が必要だ。
「エル」
「……なんだ」
「働く?」
空気が止まった。
「……は?」
「仕事」
リリアが目を丸くする。
ミレナは逆に少し笑っていた。
たぶん察したのだろう。
「共同輸送、これから拡大する」
「保存食も増やす」
「だから人が足りない」
エルは呆然としていた。
「俺たちを雇うのか?」
「嫌なら別だけど」
「いや……」
少年が言葉を失う。
後ろの子供たちも固まっていた。
この世界では、孤児へまともな仕事が回らないのかもしれない。
「給料は出す」
「飯も」
「あと寝る場所」
リリアが小さく笑った。
「アルノルト様らしいですね」
「そう?」
「利益で人を増やしています」
否定できなかった。
だが実際それが重要だ。
慈善だけでは続かない。
雇用として成立するから、組織になる。
「……侯爵の坊ちゃん」
ダンが苦笑する。
「アンタ、どんどん商会の形になってねぇか?」
「まだ名前ないけどね」
その時だった。
【ユニークスキル《企業経営》が発動】
【新労働力を確保】
【《人材育成》を認識】
【組織規模が拡大】
【《アルノルト商会》設立条件を一部達成】
(お、ついに出た)
アルノルトは少し笑った。
商会。
つまり。
(そろそろ本格的に組織化する時期か)
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