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転生貴族の三男だけど、前世の知識で帝国を買い取ります  作者: ニートは34歳まで
第一章 帝都物流革命編

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第三話 この世界は商売下手


翌朝。

 アルノルトは、屋敷の裏門からこっそり外へ出ていた。

 隣には、半ば強制的に連れてこられたメイドのリリアがいる。


「本当に行くんですか……?」


「行く」


「旦那様に見つかったら怒られますよ?」


「その時は全力で謝る」


「説得力がありますね……」


 前世で鍛えた謝罪力である。

 現在、アルノルトの手持ちは銀貨三枚。

 普通の貴族なら小遣い程度だが、元社畜の感覚からすると、


(昼飯代よりかはある)


 ので、意外と希望はあった。

 向かった先は帝都南区の市場。

 貴族街とは違い、石畳はひび割れ、人々の声が飛び交っている。


「塩だ塩! 今日入ったぞ!」


「保存肉安いよー!」


「北街道閉鎖で値上がりするぞ! 今が買いだぞ!!」


 アルノルトは周囲を見回した。

 そして確信する。


(やっぱり物流が終わってる)


 店ごとの価格差が酷い。

 品質もバラバラ。

 保存状態も悪い。

 前世日本なら絶対ありえない。

 つまり、改善余地の塊だった。


「アルノルト様、あちら見てください」


 リリアが指差す。

 そこには塩商人の屋台があった。

 粗塩が麻袋に積まれている。


「高いな……」


 一袋、小銀貨二枚。

 去年の三倍近い価格らしい。

 原因は単純。

 輸送不足。

 なら答えは決まっている。


(輸送を握れば勝てる)


 その時だった。


「お客さん、買うのかい?」


 髭面の商人が声をかけてきた。


「ああ、ちょっと聞きたいんだけど」


「なんだ」


「なんでこんな値上がりしてる?」


 商人は鼻で笑った。


「北街道に魔物が出た。護衛代が跳ね上がってんだよ」


「なるほど」


「ま、貴族様には関係ねぇ話だろ」


 アルノルトは少し考える。

 護衛代が高い。

 輸送効率が悪い。

 つまり。


(共同輸送がないのか)


 前世では当たり前だった。

 複数商会で護衛を共有する。

 物流をまとめる。

 積載効率を上げる。

 だがこの世界には、その概念自体がない。

 全員が個別輸送。

 だからコストが爆発する。


(これなら、やっぱり勝てるな)


 アルノルトの脳内で、事業計画が完成し始める。


「リリア」


「はい?」


「この世界、商売が下手すぎる」


「はい?」


「めちゃくちゃ儲かるぞ、これ」


 リリアが不安そうな顔になる。

 最近の主人は、時々こういう顔をする。

 何か悪いことを思いついた時の顔だ。


「まずは小規模輸送から始める」


「え?」


「複数の商人の商品をまとめて運ぶんだよ」


「そんなことできます?」


「できる。というか、誰もやってないのがおかしい」


 アルノルトは市場全体を見渡した。

 皆、自分だけで稼ごうとしている。

 だから非効率。

 だから利益率が低い。

 前世なら新人社員でも気づくレベルだった。


 ――だが。

(この世界には“経営学”が存在しない)


 なら。

 知っているだけで最強だ。


【ユニークスキル《企業経営》が発動】

【事業計画を認識】

【成功率予測:78%】

【推定利益:銀貨二十七枚】


「おお……!」


 アルノルトは思わず声を上げた。

 銀貨二十七枚。

 現在資産の九倍。

 しかも一回の取引で。


「アルノルト様?」


「いける。絶対にいける」


「顔が怖いです」


 だが、その時。


「――そこの坊ちゃん」


 低い声が響いた。

 振り向くと、大柄な男たちが立っていた。

 腕には同じ腕章。

 そして中央には、派手な服を着た男。


「さっきから誰が市場を嗅ぎ回ってると思えば……貴族様か」


 男は笑っていた。

 だが目は笑っていない。


「ここはな、“灰狼商会”の縄張りだ」


 リリアの顔が青ざめる。


「ア、アルノルト様……まずいです」


「有名なの?」


「帝都南区を仕切ってる大商会です……!」


 だがアルノルトは逆に笑った。


(なるほど)


 市場を仕切る商会。

 輸送を独占する連中。

 そして、新参を嫌う既得権益。


(やっぱりいるよな。こういうの)


 前世でも見た。

 変化を嫌う連中。

 自分たちの利益だけ守ろうとする連中。


 だが――。

(だから儲かる!!)


 既得権益が強い業界ほど、改革できた時の利益は大きい。

 アルノルトは静かに口元を吊り上げた。


「面白くなってきた」


ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました!


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