第二十八話 最初の共同輸送隊
北部共同輸送。
その第一回目は、三日後に決まった。
「参加商人は四組です」
ミレナが羊皮紙を机へ広げる。
場所はラウル村の空き倉庫。
今は簡易的な共同輸送管理所になっていた。
「思ったより集まったね」
「共同護衛が大きいです」
ミレナが腕を組む。
「北部では“安全”が何より高い」
アルノルトは頷いた。
当然だ。
命を失えば商売どころではない。
「護衛は?」
「灰鉄が八人出します」
ダンが椅子へ座ったまま答える。
「この規模なら十分守れる」
「黒牙団は?」
「もし来ても返り討ちだ」
かなり自信がある。
そして重要なのは、“共同護衛”によって費用が分散されていることだ。
単独なら雇えない人数でも、共同化すれば成立する。
前世のスケールメリットそのものだった。
「積荷は?」
「保存食、乾燥豆、布、塩」
ミレナが指差していく。
「特に塩は北部側需要が高いです」
やはりそこか。
保存。
冬備蓄。
寒冷地では塩需要が強い。
「逆に帝都へ戻す荷は?」
「燻製魚を増やしたい」
アルノルトが答える。
今、広場では村人たちが燻製作りを始めている。
最初は半信半疑だった。
だが。
実際に保存期間が伸びると、空気が変わった。
「これ、本当に腐りにくい……」
「冬まで持つぞ!」
村人たちが驚いていた。
そして。
(商品になるって理解し始めている)
そこが大きい。
ただ食べるだけではない。
売れる。
金になる。
それが分かると、人は動く。
「侯爵の坊ちゃん」
ダンがニヤリと笑う。
「村の空気変わったな」
「そう?」
「前は死んだ顔ばっかだったからな」
その言葉に、ベルマンが苦笑した。
「否定できません……」
実際、到着当初はかなり酷かった。
諦め。
停滞。
閉塞感。
それが村全体へ染み付いていた。
だが今は違う。
道を直し。
保存食を作り。
商人が来た。
共同輸送が始まる。
つまり。
(“未来”が見え始めた)
それが重要だった。
「ただし」
ミレナが真面目な顔になる。
「第一回が一番危険です」
「だろうね」
「黒牙団も様子見では済まないかもしれない」
アルノルトも同意だった。
物流網が本格化すれば、連中の収入が減る。
なら動く可能性は高い。
「だから逆に」
アルノルトは笑う。
「絶対成功させる」
最初の輸送。
それは単なる物流ではない。
信用そのものだ。
一度成功すれば、商人は集まる。
人も集まる。
市場も育つ。
だが失敗すれば。
(全部止まる)
だから重要なのは、最初の成功体験だった。
「アルノルト様」
リリアが少し不安そうに聞く。
「本当に大丈夫でしょうか……」
「大丈夫」
「根拠あります?」
「利益がある」
「え?」
「利益がある場所には、人が集まる」
商人。
傭兵。
労働者。
全部そうだ。
前世でも変わらない。
だから。
(この流れは止まらない)
【ユニークスキル《企業経営》が発動】
【《北部共同輸送隊》を結成】
【参加商会:4】
【共同護衛契約:締結済】
【成功予測:74%】
(お、思ったより高い)
アルノルトは少し安心した。
だが、その直後。
【警告】
【黒牙団の活動が活発化しています】
(やっぱ来るよなぁ……)
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