第二十七話 護衛を“商品”にする
ラウル村へ戻った頃には、すでに空が暗くなり始めていた。
広場では村人たちが不安そうにざわついている。
「本当に続けるんですか……?」
「また襲われたら……」
恐怖は広がるのが早い。
物流より早いかもしれない。
アルノルトは少し苦笑した。
(まあ当然か)
この北部では、“襲われる”ことが日常なのだ。
だから商人が来なくなる。
人も減る。
経済も死ぬ。
完全な悪循環だった。
「アルノルト様」
リリアが小声で聞く。
「どうするんですか?」
「対策する」
「護衛を増やすんですか?」
「それだけじゃ駄目」
護衛を増やすだけでは、コストが膨らむ。
それでは黒牙団と消耗戦になる。
重要なのは。
(“安全”を仕組みにすること)
その時だった。
「……面白ぇこと言うな」
低い声。
広場の入口側からだった。
振り向くと、そこには大柄な男たちが立っていた。
五人。
全員武装している。
傭兵だ。
「誰?」
アルノルトが聞くと、先頭の男がニヤリと笑う。
「北部傭兵団《灰鉄》団長、ダン」
灰色の短髪。
傷だらけの顔。
かなり場数を踏んでいる。
「で?」
「共同輸送やるんだろ?」
「やるよ」
「なら護衛がいる」
アルノルトは少し笑った。
(来たな)
物流が動けば、次は護衛市場が動く。
これも前世と同じだ。
物流量が増えれば、警備・保険・管理業も伸びる。
「雇ってくれるなら守ってやる」
ダンが腕を組む。
「黒牙団とも何度かやり合ってる」
「強い?」
「そこそこな」
自信はあるらしい。
ミレナも小さく頷いていた。
つまり実力は本物か。
「ただし」
ダンが真顔になる。
「普通に雇うと高ぇぞ」
「だろうね」
北部は危険地帯。
護衛費が高騰するのは当然だ。
だが。
(普通に雇う必要ないんだよな)
アルノルトは少し笑った。
「ダンさん」
「おう」
「護衛、共同化しない?」
空気が止まる。
「……は?」
「共同輸送があるなら、護衛も共同化できる」
ミレナが目を見開いた。
ベルマンも固まる。
「複数商隊をまとめる」
「なら護衛も共有できる」
「つまり一商隊あたりの負担が下がる」
ダンが数秒黙り込む。
そして。
「……なるほどな」
理解が早かった。
「護衛を“商品”にするのか」
「そう」
アルノルトは頷く。
前世でも同じだった。
警備。
配送。
保険。
全部、“個別”だと高い。
だから共同化する。
それが効率化だ。
「しかも」
アルノルトは続ける。
「定期輸送化できれば、護衛側も収入安定するよ」
ダンの目が変わった。
傭兵は不安定職だ。
仕事がある時とない時の差が大きい。
だが定期契約なら違う。
「……侯爵の坊ちゃん」
ダンがニヤリと笑う。
「アンタ、商売上手すぎねぇか?」
「よく言われる」
その時だった。
【ユニークスキル《企業経営》が発動】
【《共同護衛契約》を認識】
【護衛費効率:大幅改善】
【北部共同輸送の安全性が上昇】
【黒牙団の優位性が低下】
(よし)
アルノルトは静かに笑った。
盗賊が街道を支配するなら。
こちらは、“安全そのもの”を商品化すればいい。
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