第二十五話 黒牙団
「……黒牙団?」
アルノルトは脳内表示を見ながら、小さく呟いた。
その反応に、ミレナが眉をひそめる。
「どうしました?」
「いや、なんでもない」
さすがに“脳内ウィンドウで盗賊団から狙われているって出ました”とは言えない。
だが。
(タイミング的に間違いないな)
北部共同輸送。
街道整備。
物流回復。
それはつまり、“盗賊の稼ぎが減る”ということでもある。
物流が死んだ場所では、盗賊が強くなる。
前世でも治安の悪い地域はそうだった。
「アルノルト様?」
リリアが不安そうに聞く。
「大丈夫ですか?」
「たぶん」
「その“たぶん”が怖いんですけど……」
だがアルノルトはむしろ冷静だった。
問題が見えるなら対策できる。
見えない方が怖い。
「ミレナさん」
「はい」
「黒牙団って強い?」
空気が少し変わった。
ミレナの目が鋭くなる。
「……なぜその名前を?」
「さっきベルマンから聞いた」
半分本当だ。
「北部街道を荒らしているんでしょ?」
「ええ」
ミレナは頷く。
「最近急激に勢力を伸ばしています」
「規模は?」
「正確には不明ですが、少なくとも数十人」
かなり多い。
普通の盗賊団より規模が大きい。
「しかも妙なんです」
「妙?」
「動きが組織的すぎる」
アルノルトは少し目を細めた。
(あー……)
なんとなく察する。
これ、たぶん。
(裏で誰かいるな)
ただの盗賊にしては、物流妨害が効率的すぎる。
帝都での赤蛇商会を思い出す。
利益が動く場所には、必ず妨害が入る。
「アルノルト様」
ベルマンが青い顔で言った。
「共同輸送、本当に大丈夫でしょうか……」
「むしろやるべき」
「え?」
「今やめたら、“脅せば止まる”って証明になる」
前世でもそうだった。
クレーム。
圧力。
妨害。
そこで折れると、次から永遠に舐められる。
「だから逆」
アルノルトは静かに笑った。
「ここで対応する」
ミレナがじっとこちらを見る。
「……肝が据わっていますね」
「ブラック企業で鍛えられたから」
「ぶらっく?」
「こっちの話」
危ない。
また漏れた。
「ただし」
アルノルトは少し真面目な顔になる。
「対策は必要」
「護衛増強ですか?」
「それもある」
だが、それだけでは足りない。
前世知識が警鐘を鳴らしていた。
(守るだけじゃ赤字になる)
護衛を増やし続ければコストが膨らむ。
それでは長期的に勝てない。
重要なのは。
(“襲う価値が低い”と思わせること)
「ミレナさん」
「はい」
「盗賊って、どんな荷を狙う?」
「高価で売りやすいものです」
「だよね」
つまり。
金貨。
宝石。
高級布。
換金しやすい商品。
「保存食は?」
「……あまり狙われませんね」
アルノルトは少し笑った。
(やっぱり)
保存食は利益率が低い。
重い。
かさばる。
盗賊向きではない。
つまり。
(物流量増やすには最高)
しかも北部では需要が高い。
「まずは生活物資中心で回す」
「利益より安定を優先するんですね」
「最初はね」
物流網構築初期は、“信用”が一番重要だ。
安全。
安定。
止まらない。
そこを確立すれば、後からいくらでも拡張できる。
【ユニークスキル《企業経営》が発動】
【《低利益高回転戦略》を認識】
【物流安定性が上昇】
【盗賊被害予測:減少】
(なんか経営用語増えてきたな)
だが悪くない。
むしろこの方向は正しい。
その時だった。
村の入口側から、慌てた叫び声が聞こえた。
「た、大変だ!」
一人の村人が転がるように駆け込んでくる。
「街道の先で、荷馬車が襲われてる!」
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