第二十四話 共同輸送、北部進出
「……共同輸送を、北部でも?」
ミレナは腕を組み、じっとアルノルトを見ていた。
その視線は鋭い。
だが否定ではない。
完全に“計算している顔”だった。
(やっぱり商人だな)
ガルドと同じだ。
利益が出るか。
リスクはどうか。
そこを見ている。
「北部街道の問題は三つ」
アルノルトは指を立てた。
「道が悪い」
「魔物が多い」
「物流量が少ない」
ミレナが小さく頷く。
「その通りです」
「だから単独輸送だと利益が死ぬ」
「……否定できませんね」
特に護衛費。
北部は危険地帯だ。
つまり輸送量が少ないほど、一回あたりの負担が重くなる。
「でも共同輸送なら?」
「護衛費を分散できる……」
「そう」
さらに。
「輸送量が増えれば、商人も集まり始める」
「市場そのものが育つ」
ミレナが黙り込む。
頭の中で計算しているのだろう。
「ただし」
彼女が静かに口を開く。
「北部街道は帝都ほど甘くありません」
「魔物?」
「はい。それに盗賊」
黒牙団。
ベルマンが言っていた名前を思い出す。
「最近は輸送隊そのものを狙う連中も増えています」
「なるほど」
つまり。
(物流が弱いから、余計に荒れる)
完全な悪循環だった。
だが逆に言えば。
(大規模護衛を組めれば強い)
共同輸送と相性が良すぎる。
「ミレナさん」
「なんでしょう」
「今、一番困っていることって何?」
彼女は少し考えたあと、即答した。
「帰りの荷です」
「帰り?」
「北部へ来ても、帝都へ戻る時の積荷が少ない」
アルノルトは少し感心した。
(ちゃんと分かっている)
片道だけ儲かっても意味がない。
復路が空なら効率は悪い。
つまり。
(北部側の商品が必要)
そこでアルノルトは、広場の燻製小屋を指差した。
「だから作ってる」
「……保存食」
「そう」
北部の魚。
山羊肉。
燻製。
塩漬け。
これなら帝都へ運べる。
しかも長期保存可能。
「北部の輸出品にする」
ミレナが目を細めた。
「……なるほど」
ようやく全部繋がったらしい。
共同輸送。
街道整備。
保存食。
全部がバラバラではない。
一つの物流網として設計されている。
「アルノルト様って……」
リリアが呆れたように呟く。
「そこまで考えてたんですか?」
「まあ、なんとなく」
「なんとなくで領地改造しないでください……」
正論だった。
だが前世知識がある以上、見えてしまう。
この辺境は。
(物流さえ通れば、一気に化ける)
その時だった。
ミレナが静かに口を開く。
「……面白いですね」
「お?」
「北部街道でそこまで大きな話をする人、初めて見ました」
そして彼女は手を差し出した。
「ミレナ商会、共同輸送へ参加します」
ベルマンが息を呑む。
村人たちもざわついた。
北部商人が乗った。
それはつまり。
(物流網形成スタートだ)
アルノルトは笑いながら、その手を握った。
「歓迎するよ」
【ユニークスキル《企業経営》が発動】
【《北部共同輸送》が開始】
【参加商会:2】
【推定年間利益:銀貨920枚】
(え、急にデカくない?)
アルノルトが思わず固まる。
だが、すぐ理解した。
(ああ、年間予測か)
しかも北部は競争相手が少ない。
つまり市場を取れれば独占に近い。
その時だった。
【警告】
【黒牙団が物流網へ注目しています】
(はい来た)
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