第二十二話 保存食という“商品”
街道整備が始まって三日後。
ラウル村には、少しだけ変化が出始めていた。
「荷車がハマらなくなった……」
「前より進みやすいぞ!」
村人たちが驚いている。
まだ完全ではない。
だが、崩落地点へ石を敷き、排水路を作っただけで、荷車の通行速度は目に見えて改善していた。
(やっぱボトルネックを改善するだけで違うな)
前世でも同じだった。
全部を完璧に直す必要はない。
一番詰まる場所を改善する。
それだけで全体効率は大きく変わる。
「アルノルト様!」
リリアが小走りで駆け寄ってくる。
「魚、集まりました!」
「お、ありがとう」
広場には大量の川魚が並んでいた。
さらに山羊肉もある。
どちらも、この辺境では比較的手に入りやすい食材だ。
「で、これをどうするんですか?」
「保存食にする」
アルノルトは笑った。
物流改善。
それだけでは足りない。
北部最大の問題は冬だ。
雪が積もれば物流は止まる。
つまり。
(保存できる食料が強い)
前世でも寒冷地ほど保存食文化が発達していた。
「まず塩漬け」
アルノルトは魚を指差した。
「余分な水分を抜いて腐りにくくする」
「ほ、本当にそんなので……?」
「かなり持つよ」
塩は偉大だ。
人類史レベルで。
「次に燻製」
「くんせい……」
村人たちが不思議そうに見ている。
アルノルトは簡易的な燻製小屋を作り始めた。
木材。
布。
煙。
構造自体は単純だ。
「煙で乾燥と防腐をする」
「そんなこと考えたこともありませんでした……」
ベルマンが感心したように呟く。
この世界にも燻製文化はあるかもしれない。
だが少なくとも、この辺境では体系化されていない。
(つまり商品になる)
そこが重要だった。
前世知識は、“存在しないもの”より、“あるけど未発展のもの”の方が強い。
普及しやすいからだ。
「アルノルト様」
リリアが魚を見ながら聞く。
「これ、売れるんでしょうか?」
「むしろ北部向き」
「え?」
「冬でも運べる」
そこだった。
生魚は腐る。
だから遠距離輸送できない。
だが保存食なら違う。
つまり。
(物流商品になる)
これは大きい。
保存可能。
大量輸送可能。
価格安定。
共同輸送とも相性が良い。
完全に繋がっていた。
「ベルマン」
「は、はい!」
「この辺、冬になると食料不足起きる?」
「毎年です……」
「なら売れる」
アルノルトは確信していた。
しかもこれは、“辺境の特産品”になれる。
前世でも地方経済は、“保存できる名産”が強かった。
【ユニークスキル《企業経営》が発動】
【《保存食加工》を認識】
【新商品:《北部燻製魚》を開発】
【市場価値:高】
【北部適性:極大】
(極大好きだな、このスキル)
だが、実際かなり相性は良い。
寒冷地。
保存需要。
物流弱い。
全部噛み合っている。
その時だった。
「アルノルト様!」
一人の村人が慌てて駆け込んできた。
「街道の方に商人が来ています!」
空気が変わる。
ベルマンが驚く。
「こ、この時期に……?」
北部街道へ商人が来る。
それ自体が珍しいのだろう。
だがアルノルトは、少しだけ笑った。
(早速来たか)
物流が改善され始めれば、人は来る。
利益の匂いがする場所へ。




