第二十一話 最初の労働者
翌朝。
ラウル村の広場には、思ったより多くの人が集まっていた。
「……来たね」
アルノルトは少し驚く。
せいぜい数人だと思っていた。
だが実際には、二十人近くいる。
男だけではない。
女性もいるし、年配者まで混ざっていた。
「本当に安く物資が手に入るんですか……?」
痩せた女性が恐る恐る聞く。
「条件を満たせばね」
アルノルトは頷く。
「街道整備への参加。一定日数の労働。それが条件」
ざわつきが広がる。
村人たちの目は真剣だった。
北部の冬は厳しい。
物資不足は、そのまま生死へ直結する。
「坊ちゃん」
ベルマンが小声で囁く。
「思ったより集まりましたね……」
「うん」
予想以上だった。
やはり物資不足は深刻らしい。
(まあ、この環境だもんな)
市場は小さい。
物流は弱い。
価格は高い。
普通に詰んでいる。
「アルノルト様」
リリアが袖を引く。
「でも、この人数で道って直せるんですか?」
「全部は無理」
アルノルトは即答した。
「でも、重要地点だけならいける」
前世でもそうだった。
物流改善は、全体よりボトルネック。
一番詰まる場所を直すだけで、流れは激変する。
「ベルマン」
「はい」
「荷馬車が一番止まりやすい場所、案内して」
代官は頷き、村の北側へ歩き始めた。
数十分後。
「……あー」
アルノルトは思わず声を漏らした。
酷い。
街道の一部が完全に崩れていた。
雨水で地面が削れ、大きな溝になっている。
これでは荷馬車が通れない。
「ここで立ち往生する馬車が多いんです……」
ベルマンが苦い顔をする。
「迂回路は?」
「森側へ回るしか……ですが魔物が」
「だよね」
つまり実質ここが詰まりポイント。
物流の心臓部だった。
(逆に言えば、ここ直すだけで変わる)
アルノルトは周囲を見回した。
石。
木材。
川。
最低限の資源はある。
「よし」
アルノルトは地面へしゃがみ込む。
「まず排水路作ろう」
「……はいすいろ?」
村人たちが揃って首を傾げる。
「水を逃がす道」
アルノルトは溝を指差した。
「これ、水が溜まるから地面が崩れるんだ」
「あ……」
ベルマンが目を見開く。
どうやら今まで考えたこともなかったらしい。
「だから水の流れを変える」
「そ、そんなことで……?」
「かなり変わるよ」
前世では常識。
道路維持で一番重要なのは排水だ。
むしろ水を制する者が道路を制する。
「あと石を敷く」
「石?」
「地面補強」
アルノルトは村人たちを見回した。
「重労働になる」
「でも終われば、冬前の輸送量が増える」
「物価も下がる」
空気が変わった。
皆、理解し始めている。
これはただの土木作業ではない。
生活そのものへ繋がっているのだと。
「……やります」
一人の老人が前へ出た。
「このままじゃ、冬を越せません」
その言葉で空気が決まった。
「俺もやる」
「うちも参加する!」
「荷車通れるようになるなら……!」
村人たちが次々声を上げる。
ベルマンが呆然としていた。
「こんなに人が動くなんて……」
「利益が見えれば、人は動くよ」
理想論ではない。
生活。
実益。
未来。
それが見えた時、人は初めて本気になる。
【ユニークスキル《企業経営》が発動】
【《共同労働体制》を構築】
【住民士気が上昇】
【インフラ改善速度:上昇】
(なんかゲームの街づくりが始まったな……)
だが嫌いじゃない。
むしろかなり楽しい。
アルノルトは崩れた街道を見つめる。
今は泥だらけだ。
だが、その先が見えていた。
(まずは物流)
(全部はそこからだ)




