第二十話 金の代わりに払うもの
「……で」
ベルマンが恐る恐る口を開く。
「その街道整備、誰がやるのでしょうか……?」
「みんなで」
「みんな?」
「村人」
空気が止まった。
ベルマンが青ざめる。
「む、無理です!」
「また即答だね」
「ただで働く余裕なんてありません!」
それはアルノルトも分かっていた。
村人たちは貧しい。
畑を耕し、薪を集め、生きるだけで精一杯だ。
そこへ追加労働など受け入れられない。
だが。
(逆に言えば、“得”を見せれば動く)
前世でもそうだった。
人は精神論では動かない。
利益で動く。
「ベルマン」
「は、はい……」
「この村、今一番困っているのは?」
「食料と……冬用物資です」
「だよね」
輸送量が少ないせいで物価が高い。
つまり生活が苦しい。
なら。
「街道整備へ参加した人には、共同輸送の優先利用権を渡す」
ベルマンが固まった。
「ゆ、優先……?」
「安い輸送を先に使える権利」
共同輸送。
灰狼商会。
その噂は、すでに北部にも少し届き始めているらしい。
ベルマンの顔色が変わった。
「そ、それは……」
「冬前の物資を安く仕入れられるかもしれない」
その瞬間だった。
ベルマンの喉が、ごくりと鳴る。
(やっぱりそこか)
金より物資。
辺境ではそちらの方が重要なのだ。
「あと」
アルノルトは続ける。
「整備参加者には、保存食も配る」
「保存食?」
「干し肉とか塩漬けとか」
リリアが目を丸くする。
「アルノルト様、そんなの持っているんですか?」
「持ってない」
「えっ」
「これから作る」
辺境北部。
寒冷地。
物流弱い。
つまり保存食需要が高い。
むしろここで作らない理由がない。
「ベルマン」
「は、はい!」
「この辺で一番よく獲れるものって何?」
「え、ええと……川魚と、あとは山羊でしょうか」
「いいね」
アルノルトは笑った。
魚。
山羊。
塩。
寒冷地。
(保存食向きだ)
前世知識がどんどん繋がっていく。
「まずは干物と燻製を作る」
「くんせい……?」
「長期保存用の加工」
物流が弱い地域ほど、保存技術が重要になる。
前世でも同じだった。
冷蔵庫がない時代、人類は保存食で生きていた。
「アルノルト様って……」
リリアがぽかんとしている。
「本当に何でも知っていますね……」
「社会人は大体こういう知識を変な方向へ増やすんだよ」
「しゃかいじん?」
「こっちの話」
危ない。
また前世が漏れかけた。
「ですが……」
ベルマンが不安そうに聞く。
「本当に人が集まるでしょうか」
「集まるよ」
アルノルトは即答した。
「だって得だから」
それだけだった。
道徳でも理想でもない。
利益。
それが人を動かす。
【ユニークスキル《企業経営》が発動】
【《労働報酬制度》を構築】
【住民協力度が上昇】
【街道整備計画の成功率:41% → 68%】
(上がりすぎじゃない?)
アルノルトは少し笑ってしまった。
だが理由は分かる。
この世界では、“労働への対価設計”が雑すぎるのだ。
だから人が動かない。
逆に言えば。
(ちゃんと設計すれば、一気に回る)
アルノルトは村の外れを見つめる。
崩れた街道。
止まった物流。
貧しい村。
だが。
(ここ、絶対化けるよな)
そんな確信が、少しずつ強くなっていた。




