3話 制服お披露目会
「なんで今日に限ってこんなに人が来るわけ?」
私は狭い部屋を見回しながら、深いため息をついた。
この部屋に九人いるのはおかしい。
どう考えても多すぎるでしょ。
ソファは満員、床に座った者、壁に寄りかかった者、窓辺に立った者……。
みんなが私を囲むように配置されていて、息苦しい。
昼過ぎに来た配達員の人も、ドアの向こうで一瞬固まってたじゃん。
荷物を渡した瞬間、部屋の中を覗き込んで「……え?」って顔になったのを、はっきり覚えてる。
「あのさ、全員帰る気ないの?」
私は低く言って、みんなを順に見回した。
声に苛立ちが混じってしまう。
「綾、あんたの制服姿見に来てるんだから、帰るわけないでしょ」
灰色のボブカットの女性、凛が楽しそうに言った。
普段はクールな顔してるくせに、なんでこういう時だけノリノリなのよ。
彼女はデスクの端に腰掛けて、灰色がかった黒い瞳を細めて笑っている。
こんな面白いおもちゃ逃すかっていう感じで、余計にイラついてくる。
「凛、あんた最近忙しいから来れないって言ってたでしょうが」
「いやいや。こんな面白い情報、千景から教えてもらったしね。情報料も払ったんだから、その分は回収しないと」
凛は肩をすくめて、悪びれもせずに続ける。
その言葉に、私は視線を部屋の端に移した。
「ち~~~~か~~~げ~~~~」
私が睨むと、部屋の端に座っていた淡い金髪の女、千景が肩をすくめた。
窓から差し込む太陽の光で、髪がやけにキラキラしている。
薄紫の瞳が、いたずらっぽく細められている。
「私はこの家の防犯もしてるから仕方ないし、その時たまたま聴いてしまってね」
絶対それ言い訳でしょ。
千景は膝の上にノートPCを置いて、画面をチラチラ見ながら平然と言い放つ。
その横で、他の連中もニヤニヤしている。
「はいはい、みんな騒がないの」
テーブルの向こうから、落ち着いた声が割って入る。
玲奈だ。
見方は常識人のあんたしかいない。
彼女は腕を組んで、ソファに座ったまま私を見ている。
「あー……その顔。」
心配半分、刑事としての説教半分って感じだ。
琥珀色の瞳が、優しいけど厳しい光を帯びている。
これ別ベクトルでめんどい系だ
「綾。本当にこの事件、首突っ込むの?」
私は視線を逸らさず、玲奈に答えた。
「正直パスしたいよ。だってさ、この年になって女子高生やれって……羞恥プレイじゃん」
「綾さんは女子高生でもかわいいですから、大丈夫ですよ」いつも通り明るい千葉君がフォローを入れてくれる。
彼の声は軽やかで、公園でたむろしているときと同じ社交的な調子だ。
部屋の隅で座っていた他の少年たちも、少し笑みを浮かべて頷いている。
うん、ありがたいけどさ。私は苦笑いを浮かべて、千葉君に軽く視線を送った。
ありがたいけど、今の気分には全然響かない。
むしろ「かわいい」って言葉が、余計に恥ずかしさを増幅させる。
「あんたらも私の年齢になったらわかるって。制服着ろって言われたら、普通パスしたくなるから」
私は腕を組んで、みんなを見回しながら言った。
声に少し苛立ちが混じってしまう。
「そう言われても、男子の制服ってスーツとあんま変わらんし」
フードをいつも通り深くかぶった木崎君が、あっさり切り返す。
彼の声は低く、冷静で、フードの下から覗く目が少し眠たげだ。
他の少年たちも「だよな」と小さく頷いている。
「やったじゃん。綾、真面目に高校生活送ってないんだから楽しめば?」
確かに高校生活の大半は櫻華の技術を教えてもらうのに地獄だった。
文武両道しないとお仕置きもあったし。
青春っぽいことやってないのも本当。
そういえば、お酒は言った時に凜に愚痴った記憶あるわ。
凛がニヤニヤしながら言う。
彼女はデスクの端に腰掛けたまま、灰色がかった黒い瞳を細めて私をからかうように見ている。
普段クールな顔が、今は完全に楽しげだ。
「ならそういう凛が代わってよ」
私は即座に返した。
同じ立場になったらあんたらも断るでしょ。
声が少し尖ってしまう。
「残念だなぁ。仕事が忙しくてね。部下に回してもまだまだ回らなくてね」
凛は肩をすくめて、悪びれもせずに言う。
絶対ウソだ。
彼女の瞳の奥に、明らかに楽しんでいる光が見える。
その時だった。バンッ!
「私は反対」玲奈がテーブルを叩いた。
部屋の空気が一瞬で静まる。
みんなの視線が玲奈に集中し、笑い声やからかいが、ぴたりと止んだ。
玲奈は腕を組んだまま、琥珀色の瞳を厳しく細めている。
「現役警察官として、そんな潜入調査許せるわけないでしょ。断りなさい。ここの維持費なら私が貸してあげるし」
玲奈の声は低く、しかしはっきりとした。
刑事としての顔が完全に表に出ている。
心配と怒りが混じった表情で、私をまっすぐ見据えている。
「いや。それだけは嫌」
私は即答した。
凜たちに、仕事譲ってくれと泣きつく事や玲奈にご飯を作ってもらうことはあるけど。
私は何も提供してないのにお金をもらう事だけは嫌。
いつも同格の友達でありセフレでありたい。
「なら警察の権限を使ってやめさせるわ」
玲奈の言葉は冷たく響いた。
彼女は立ち上がり、テーブルに手をついて私に近づく。
空気がさらに重くなる。
「力づくで止めるなら、私にも考えがある」
私はゆっくりと立ち上がり、玲奈と視線を合わせた。
赤い瞳で彼女をまっすぐ見つめ返す。
部屋の中がしんと静まり返った。
約二名は成り行きを楽しんでそうだけど。本当に趣味が悪い。
みんなの息遣いが聞こえるほどだ。
私はゆっくり息を吐いて、玲奈を見る。
「玲奈。心配してくれるのも、ルール守ろうとしてるのも分かってる」
声は低く、抑揚を抑えて感謝の気持ちを伝える。
「ならやめなさい。不可解な事件でもあるんだから」
玲奈の声は優しいが、厳しい。
彼女の琥珀色の瞳に、妹のように思う私の姿が映っているのがわかる。
それにこの事件は一課預かりになったとも聞いた。
私はちらっと舞の方を見る。
彼女はソファの端で膝を抱え、視線を床に落としたまま私たちの様子をうかがっていた。
仕方ないじゃん。こんなに慕ってくれてるんだから。
「もしさ。舞だけじゃないけど、木崎君や倉橋君、千葉君、片岡君が事件に巻き込まれたらって思ったらさ」
少しだけ間を置いて少年少女たちの顔を一通り見る。
事務所の空気が、重く沈む。
みんなの視線が、私に集中しているのが肌で感じる。
「私は、絶対後悔する」
玲奈の目が揺れる。
琥珀色の瞳に、一瞬だけ動揺が走った。
彼女は唇を軽く噛み、腕を組んだまま私を見つめ返す。
「玲奈達警察の力を甘く見てるわけじゃないよ」
私は静かに続けた。
声は低く、抑揚を抑えて言葉を大切に伝えようとした。
「なら私達警察も、こんなふざけた事件のさばらせないわ」
玲奈の声は厳しく、しかしどこか切実だ。
刑事としての責任。この街の人を危険から守りたい。いろいろな感情が伝わる。
その中には私達もいることは知っている。
「うん、知ってる。私一人より組織が動いた方が強いって。でもさ」
私は肩をすくめた。
いつものジャケットの肩が軽く動く。
「生徒から、本音って聞ける?」
玲奈が言葉に詰まる。
彼女の瞳が、わずかに伏せられた。
聞けるわけがない。
警察、先生、親。構えちゃって話してくれるわけがない。
かといって舞達に捜査をしてもらうわけにはいかない
「それは……しっかり話せば分かってくれるはずよ。特に今回は誘拐とか事件性が高い。生徒たちもしっかり聞けば本当のことを言ってくれるわ。それに六月みたいな危ないことがまた起きたら……気が気じゃないわ」
私は少し笑った。
口角を軽く上げて、赤い瞳を細める。
玲奈の表情から、十年前の記憶がちらつく。
「ありがとう。玲奈お姉ちゃん」
その呼び方は、十年前。
私が葛城の家に世話になっていた頃のものだ。
玲奈の表情が、一瞬だけ柔らかくなった。
でも、すぐに厳しい顔に戻る。
玲奈はため息をついた。
深い息を吐き出して、肩を落とす。
「綾。そこでそういう言い方するの卑怯よ」
私はにっこり笑う。
赤い瞳を細めて、玲奈をまっすぐ見つめた。
事務所の空気が、ほんの少しだけ温かくなった気がした。
「それにおやっさんが言ってたし。警察などが手が出せないことを助けるのが探偵だって」
「本当にあの人にしてもお父さんにしても綾に戦う術を教えたのはやめてほしかった」
「もしさ。私が高校生で、まだ力も何もなくて、同じ事件に出会ったらどうする?」
私は静かに玲奈に聞いた。
声は低く、事務所の空気をさらに重くする。
「そりゃ私一人でも……」
玲奈の言葉が途切れる。
彼女の琥珀色の瞳が、少し揺れた。
「だよね」
私は頷く。ゆっくりと、確かめるように。
「きっと親父さんや、おやっさん。照井さんの手を振り切ってでも調べるでしょ?」
玲奈はしばらく黙ったあと、大きく息を吐いた。
「……はぁ」
深いため息が部屋に響く。
彼女は腕を組んだまま、肩を落とす。
その仕草に、刑事として止めないといけない。
妹のように思う私の心配が混じっているのがわかる。
そして指を突きつけてくる。
玲奈の指先が、私の鼻先に向けられる。
「その代わり、外は私達に任せなさい。何か分かったらすぐ連絡すること。いいわね」
声は厳しいが、優しさが滲んでいる。
玲奈の瞳が、私をまっすぐ捉える。
「ありがとう。玲奈お姉ちゃん」
私は小さく微笑んで、頷いた。
胸の奥が、少しだけ軽くなった気がした。
その瞬間。
「それじゃ玲奈も納得したことだし」
凛がニヤリと笑う。
彼女はデスクの端から立ち上がり、灰色がかった黒い瞳を輝かせて私を見る。
「綾、制服タイムな」
「凛。なんであんたらに見せないといけないの」
私は即座に切り返した。
声に苛立ちが混じってしまう。
「それとも今度そういうシチュでやる?」
彼女のニヤリとした笑みが、悪戯っぽく広がっている。
「やるかぁ、バカじゃんじゃいの!」
私は思わず声を上げた。
頬が熱くなり、赤い瞳を細めて凛を睨む。
みんなの視線が、私に集中しているのが肌で感じる。
凛と千景、舞にドナドナされるように隣の寝室へ連れ込まれた。
狭いドアを押し開けられた瞬間、
「ほら、早く脱いで!」と凛に背中を押され、
「サイズは合ってるはずだから大丈夫だよ~」と千景がのんきに笑い、
「綾さん、絶対かわいいですよ!」と舞が目を輝かせて飛びついてくる。
抵抗する間もなく、部屋の中は一気に女だらけのカオスになった。
なすがままに着替えさせられていくと、夏服のセーラー服が体に滑り込む感触が妙に生々しい。
生地が薄くて、肌に直接張りつく。
袖を通すだけで肩や腕に冷たい空気が触れて、ぞわっと鳥肌が立った。
……すごく恥ずかしい。
三人は、ここぞとばかりに触るわ揉むわでやりたい放題だ。
凛が「ここ、調整してあげる」と言いながら胸元を直すふりをして手を這わせ。
千景が「スカートの丈、短すぎない? でもかわいいね」と裾を引っ張っては離す。
さらに舞が「背中も見ますね!」と後ろから抱きついてきて、腰や背中に手を回してきた。
触られるたびに体がびくっと反応して、「やめろって!」と声を上げても。
三人は「可愛いからいいじゃん」「似合ってる。似合ってる」と容赦がなかった。
ようやく鏡の前に立たされたが、映る自分の姿が現実味を帯びていくのが怖かった。
肩まで流れる銀髪、そして赤い瞳が制服の白に映えて、意外なほど……似合ってしまっている。
大人の体型がセーラー服のラインを強調しているが、顔立ちが幼いせいか、これなら学生として通用しそうだ。
だが、問題はそこじゃない。
「……ブラの線、うっすら見えてるんだけど」
白いブラウスの薄い生地が透けて、下着の輪郭がぼんやり浮かんでいる。
こんなに透けやすいなんて聞いてない。鏡の中で胸元を指で軽く押さえてみるが、布地が薄すぎて意味がなかった。
「よし、早くみんなにお披露目しないとな!」
凛がそう宣言すると同時に、舞と一緒に背中を強く押してきた。
みんな「可愛い」と浮かれているが、こっちは仕事なのだ。
全く。
こうして私は、月曜日から白壁女学院へ転入することになった。
「紫微綾の事件簿 case2 白き子羊の檻」をお楽しみいただけましたか?
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