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神授のアサシン ~ジョブが人生を決める世界で、誰も知らないジョブを授かった~  作者: 茜 南峰


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第24話「アサシンと暗殺者」

 翌日の放課後、アカメは特級校舎へ向かっていた。昨日、リゼットたちと行った実験では、《毒適性》に毒を分解する働きがあると分かった。能力の正体に、初めて手掛かりが得られた。


 今日調べるのは、それよりも大きな疑問だった。神授祭で授かった《アサシン》と、以前から存在が知られている《暗殺者》。似た名前を持つ二つのジョブに、どんな関係があるのかを確かめる約束をしている。


 アカメは歩きながら手帳を開いた。神授祭の日に書き留めた七つのスキルが、少し不揃いな文字で並んでいる。


 《隠密》《気配感知》《危険感知》《急所看破》《暗視》《体術》《毒適性》。


 一昨日の夜、ルカの部屋で試した《隠密》は、扉の軋む音であっさり見破られた。気配を抑えても物音は消えないのだ。


「……同じジョブだったら、どうなんだろうな」


 呟いて手帳を閉じた。《暗殺者》という言葉には、人を殺す仕事の印象がつきまとう。《アサシン》という名前を知られただけで、人の態度が変わることはすでに経験していた。


 特級校舎の上階へ着くと、《第三研究室》の前でリゼットが資料を抱えて待っていた。アカメの姿を見つけた彼女は、金色の瞳を和らげて手を振る。


「こんにちは、アカメ。ちょうど資料を確認していたところです」

「こんにちは、リゼット。今日も結構な量だね」

「これは昨日の記録です。新しく分かったことを、比較に使えるよう整理しておきたくて」

「もうまとめたの? 昨日あんなに調べたのに」

「気になってしまって。……でも、今日は別の調査を優先しますよ」


 少し名残惜しそうに紙を揃える様子がおかしくて、アカメは笑った。昨夜の帰り道も、彼女は研究の話を楽しそうにしていた。


「今日はここじゃないんだよね?」

「はい。古いジョブの記録はハロルド先生が管理されています。研究棟までご案内しますね」


 二人は研究棟へ向かった。講義を終えた生徒の声が遠のく中、リゼットは歩きながら調査の手順を説明してくれた。


「まず《暗殺者》の記録を見て、それからアカメのスキルと比べます。一致するものがあっても、すぐに同じジョブだとは判断できませんけど」

「うん。でも、違うところが分かれば、それも手掛かりになるよね」

「そのとおりです。……アカメ、昨日から随分研究に慣れましたね」

「リゼットの説明を聞いてたからかな。まだ難しいことは分かんないけど」


 そう答えると、彼女は嬉しそうに微笑んだ。その表情を見ながら歩いているうちに、二人は研究棟の奥まった一室へたどり着いた。


 扉の金属板には、《ジョブ史・記録研究室》と刻まれていた。


 ―✧―◇―✧―


「ハロルド先生、リゼットです。アカメを連れてきました」

「入っていいよ。今、机を空けているところだから」


 返事を聞いて扉を開けたアカメは、思わず足を止めた。壁一面の棚には本が隙間なく並び、机の上にも床にも、書類や巻物がいくつもの山を作っている。部屋の奥へ続く通路は、人が一人横向きになってようやく通れるほどだった。


「……うわ、すごいな」

「すまないね。少し散らかっていて」

「先生、これは少しではないと思います」

「必要な資料がどこにあるかは分かっているから、大丈夫だよ」

「先週、探し物をしていませんでしたか?」

「……あれは置き場所を勘違いしていただけだ」


 リゼットが笑うと、ハロルドは咳払いをして、机の端にあった本を別の山へ移した。アカメは昨日のリゼットの研究室を思い出しながら、椅子へ腰を下ろした。


「今日は《アサシン》と《暗殺者》の比較だったね。閲覧できる記録をいくつか用意しておいた。まずはこちらから確認しよう」


 目の前に置かれた本の表紙には、《戦闘系ジョブ分類記録・第二巻》と書かれていた。ハロルドが慎重にページを開くと、古い発現例とともにジョブの特徴が整理されている。


「《暗殺者》はB級に分類される戦闘系ジョブだ。発現は少ないけれど、数百年前から記録がある。正面から力で押し切るより、相手に気づかれず接近して攻撃することに適していると考えられている」

「……やっぱり、そういうジョブなんですね」

「名前だけ聞けば、そう思うだろうね。ただ、実際にどんな使い方をするかは本人次第だ。先に、確認できているスキルを見よう」


 ページには《隠密》《足音軽減》《奇襲》《毒物知識》の名が並び、発現例の少ないものとして《急所攻撃》も載っていた。過去の発現例をまとめたもので、全員が同じスキルを持つわけではないらしい。


「……《隠密》は俺と同じだ。《急所攻撃》っていうのも、ちょっと似てるね」

「まず、その二つを比べてみようか。アカメ、《隠密》を使うと何が変わる?」

「気配が薄くなるんです。近くにいても気づかれにくくなるけど、姿が消えるわけじゃありません。足音も扉の音も、そのまま聞こえます」


 アカメはルカの部屋で床板を鳴らして見つかった話をした。


「だから今度は、父に教わった足運びを練習しようと思ってます」

「それはいいね。《暗殺者》に多く見られる《足音軽減》とは、少なくとも別の働きだろう。気配を抑えることと、音を小さくすることは同じではないからね」

「じゃあ、《隠密》が同じでも、俺には《足音軽減》がないんだ」

「今の七つには含まれていないね。ただ、訓練で音を立てにくく歩くことはできるはずだよ」


 ハロルドは記録の端へ短く書き込み、次の項目を指差した。


「《急所攻撃》は、急所に命中させた際に攻撃の効果を高めるものとして記録されている。君の《急所看破》はどうだい?」

「相手の弱いところが、何となく浮かんで見えるんです。でも、そこへ当てられるかは別の話で。この前もルカに負けたし、短剣の練習はもっと必要ですね」

「見る力と、当てた後に働く力。名前は似ていても、そこには大きな違いがありますね」


 リゼットが二つの名前を別々の欄に書き入れる。アカメはこの前、ルカの木剣を避けきれなかったことを思い出した。


「《気配感知》はどうですか?」

「周りに生き物がいると、いる場所や数を感じ取れるんだ。ただ、誰なのかまでは分からないし、広く探ろうとすると結構疲れる。森で試した時も、ずっと使い続けるのは難しかったよ」

「《危険感知》は?」

「危ないってことだけ、急に分かる感じ。どこから何が来るかまでは教えてくれないし、気づいても避けられるとは限らないんだ」


 リゼットが記録を埋めていく。どちらも便利だが、感知した相手が敵か味方かまでは分からない。


「《暗視》は暗い場所で周りを見る助けになり、《体術》も身体を動かす時に働くんですよね」

「うん。だけど、勝手に身体が動いてくれるわけじゃない。結局、自分で練習しないと上手くはならないんだ」

「なるほどね。名前が暗殺向きだからといって、すべてが攻撃を強める力ではないわけだ」


 ハロルドは《暗殺者》の資料集と、リゼットがまとめたアカメの記録用紙を並べた。片方は過去の《暗殺者》の発現例、もう片方はリゼットがまとめたアカメの七つのスキルだ。


「《暗殺者》が相手に気づかれず攻撃することを得意とするなら、君の《アサシン》は、まず相手を知ることに長けているのかもしれないね」


 ハロルドが続ける。


「共通する《隠密》はある。一方で、通常の《暗殺者》には《奇襲》や《足音軽減》といった、攻撃の機会を作るためのスキルが目立つ。アカメの場合は、周囲を探り、危険を察し、弱い場所を見抜く働きが揃っているね」

「……相手に近づくためだけじゃなく、自分を守るためにも使えるってことですか?」

「そうだね。もちろん、記録にない《暗殺者》の発現例もあるだろう。ただ、これだけ構成が違うなら、同一のジョブだと決めつけることはできない」


 最後にリゼットが、昨日の研究記録を開いた。


「《毒物知識》は、毒の種類や扱い方について知識を得る能力として記録されています。一方、アカメの《毒適性》では、試料の毒が分解される現象を確認できました」

「知識を得るのと、毒そのものが変わるのとじゃ、だいぶ違うね」

「はい。分解に魔力が関わっている可能性もありますが、仕組みはまだ調査中です。それでも、今回確認できた働きが《毒物知識》と異なることは重要だと思います」


 ハロルドはそこへ、さらに一つ書き加えた。神授祭で《アサシン》の等級を判定できず、アカメが第一級クラスに暫定的に受け入れられたことだ。


「《暗殺者》はB級として分類されている。君の《アサシン》は、その分類に当てはまるかどうかさえ分かっていない。名前だけで同じジョブと扱う理由は、今のところ見つからないね」

「……じゃあ、別のジョブなんですか?」

「少なくとも、別のものとして調べるべきだろう。上位のジョブなのか、まったく異なる系統なのかは、まだ分からないよ」


 アカメは手帳へ目を落とした。正体までは分からなくても、二つを同じものとして扱えない理由は見つかった。


「……そっか。似てるところと、違うところがちゃんと分かったんだね」

「はい。ここから先に何を調べるべきか、少し絞れました」


 リゼットが微笑んで、記録用紙へ《比較結果》と見出しを書いた。昨日に続いて今日も、一つだけ前へ進めたのだと思うと、アカメの胸も少し軽くなった。


 ―✧―◇―✧―


 ハロルドが別の資料を探している間、アカメは《暗殺者》を授かった人物たちの経歴を眺めていた。戦場で敵将を討った者もいれば、犯罪組織に雇われた者もいる。同じジョブでも生き方は違う。


 王国の密偵は、隣国で侵攻の兆しを察知して王都へ知らせ、戦争を避ける交渉に貢献したという。剣を抜かずに役目を果たした《暗殺者》もいたのだ。


「……先生、《暗殺者》って、やっぱり嫌われるジョブなんですか?」


 尋ねると、ハロルドは手にしていた資料を置き、アカメへ向き直った。


「名前から警戒されることはあるだろうね。過去に暗殺を仕事にした人もいるから、怖いと感じる理由がないわけではない」

「じゃあ、やっぱり悪いジョブなんでしょうか」

「私は、ジョブそのものに善悪はないと思っているよ。《剣士》を授かった人が誰かを傷つけても、それだけで剣士全員を悪人とは呼ばないだろう?」


 ハロルドは開いた記録の一つを指差した。そこには、争いを防ぐために情報を集め続けた密偵の名が残されている。


「この人も《暗殺者》だった。何を授かったかと、その力を何に使うかは別の話だ。ただ、世の中の誰もがそう考えてくれるとは限らない。それも覚えておいてほしい」


 アカメの脳裏に、マーレンの顔が浮かんだ。かつて魔物から助けた時には、あんなにも親しく話してくれた。けれど、学園で《アサシン》の名を知った彼女は、アカメから距離を置くようになった。


 エアシルを助けた時には感謝してくれたが、その恐怖はまだ消えていないようだった。


「……俺も、名前だけで怖がられるんです」

「そうか。つらい思いをしたんだね」


 ハロルドはそれ以上の事情を無理に尋ねなかった。代わりに、閉じた本の上へ手を置いて言葉を続ける。


「相手の怖さを、君がすぐに消せるとは限らない。でも、君自身がどう生きるかは選べる。少なくとも私は、ジョブの名前だけで君が危険な人間だと決めつけるつもりはないよ」

「……ありがとうございます」


 アカメが頭を下げると、隣でリゼットも静かに頷いた。昨日も、彼女は無理をさせまいと気遣ってくれた。


 ―✧―◇―✧―


「さて、もう一つ調べておこう」


 ハロルドは棚から数冊の分類記録を取り出し、今度は《アサシン》という名前そのものを探し始めた。王国の発現記録や古い名称の索引を、リゼットと一緒に調べていく。


 しかし、どの資料にも《アサシン》という名はなかった。


「……本当に載ってないんですね」

「学園で閲覧できる現代の記録には見当たらないね。でも、過去に存在しなかったとまでは言えない。記録が失われた可能性もあるから」

「もっと昔の資料なら、何か残ってるかもしれないんですね」

「その可能性はある。少し待っていてくれ。古い写本を持ってこよう」


 ハロルドはアカメの手伝いを断り、奥の書庫へ入っていった。


「……この部屋で、置き場所が分からなくなることってあるのかな」

「ありますよ。先日も積んだ本が崩れて、奥の扉が開かなくなったそうです」

「それ、結構危なくない?」

「私も片づけた方がいいとお伝えしたんですけど……」


 リゼットは困ったように笑った。自分の研究室で棚が足りなくなったら増やすと言っていたことを思い出し、アカメは言いかけた言葉を飲み込む。二人は少し似ている。


 戻ってきたハロルドは布を敷き、木箱から古びた写本を取り出した。表紙の角は擦り切れている。数百年前に書き写されたもので、内容は王国成立以前に遡るという。


「今とは文字の形や呼び方が違うところもある。無理に読もうとせず、分からない箇所は私に聞いてほしい」

「はい。……何だか、触るのも緊張するな」

「アカメは名前の欄を見ていてください。細かい記述はこちらで読みますから」


 三人は慎重にページをめくった。ハロルドが古い文字を読み、リゼットが現代の記録と比べる。アカメも名前を探したが、目当ての文字は見つからない。


「……ないですね」

「少なくとも、今読める分類一覧には見当たらないね」


 そこでリゼットが、不意に手を止めた。開かれた一枚はほかより傷みが激しく、変色した紙の中央を、消えかかった文字が横切っている。


「先生、ここに何か残っています」


 彼女の指が示した場所には、わずかに読める文字があった。


『……女神……授……』


「……女神?」


 アカメは思わず声に出した。ハロルドは眼鏡を直し、紙を傷めないよう顔を近づけて確認する。


「確かに、そう読めるね。ただ、前後の文章が失われている。何について書かれているのかは、これだけでは分からないよ」

「『授』という字もあります。神授のことかもしれませんね」

「その可能性はある。でも、読み取れない部分を想像で埋めるわけにはいかないからね」


 アカメは再び、その二つの文字を見つめた。女神という言葉は、教会でも神授祭でも耳にする。それなのに、胸の奥がざわついた。


 かつて、自分たちが命を落としたあとに出会った女神の姿が、頭をよぎったからだ。


『世界を救ってください』


 あの言葉とともに、アカメはルカやヴァルとこの世界へ転生した。なぜ自分たちだったのか、何を救えばいいのか。その答えはまだない。


 目の前の写本と、あの女神に繋がりがあるとは限らない。そう考えても、わずかに残る文字から目を離せなかった。


「アカメ? どうしましたか?」

「あっ、ううん。女神って書いてあるから、少し気になって」

「私もです。もし神授に関する記録なら、ほかの写本に続きが残っているかもしれませんね」


 リゼットはそう言って紙の傷んだ箇所を書き写した。ハロルドも他の資料と照合する必要があると判断し、慎重に本を閉じる。


「今日調べられるのは、ここまでかな。現代の記録にも、この写本にも《アサシン》の名は見つからなかった。ただ、調べる先がなくなったわけじゃない」

「……ほかにも、古い本があるんですか?」

「学園の《禁書庫》に、さらに古い記録が保管されている。王家や教会に関する原本もあって、誰でも自由に閲覧できる場所ではないんだ」


 禁書庫という名前に、アカメは少し身構えた。だが、ハロルドによれば、危険な魔術書だけを閉じ込めた場所ではなく、傷みやすい資料を守る役割も大きいらしい。


「先生なら入れるんですか?」

「私自身は許可を得ているよ。でも、学生を同伴するには別の手続きが必要だね。オルディス学園長の判断を仰ぐことになる」

「学園長にお願いすれば、調べられるかもしれないんですね」

「許可が下りれば、だけどね。私から調査の目的を説明してみよう。等級すら判定できなかったジョブだから、確認する理由は十分にあると思う」


 リゼットは希望する資料を整理し、ハロルドと申請内容を相談し始めた。


「それにしても、二人ともすごいですね。こんな古い資料まで読めるなんて」

「私もまだ勉強中です。ハロルド先生に教えていただくことばかりですよ」

「リゼットも十分よく調べているよ。少し熱中しすぎるところはあるけれど」

「……先生にだけは言われたくありません」


 即座に返したリゼットの言葉に、ハロルドが黙る。アカメは机の上の本の山と、昨日見た第三研究室の棚を思い浮かべ、思わず笑ってしまった。


「……アカメ、何がおかしいんですか?」

「いや、二人とも研究が大好きなんだなって思って」

「それは否定できませんね」

「……うん。私も否定はしないよ」


 ハロルドが苦笑し、リゼットもつられて笑った。


 ―✧―◇―✧―


 研究棟を出る頃には、窓の外が夕暮れの色に染まっていた。学園長への申請はハロルドが引き受けた。アカメは手帳を鞄にしまい、リゼットと廊下を歩いた。


「今日はありがとう、リゼット。昨日に続いて、色々分かったよ」

「こちらこそ。私も、とても勉強になりました」

「《アサシン》の正体までは分からなかったけどね」

「でも、《暗殺者》と同じものとして扱えない理由は見つかりました。それに、もっと古い資料も調べられるかもしれません」


 何日調べても答えが出ないことはある。それでも一つ分かれば、次の手掛かりになるのだとリゼットは話した。


「最初は、こういうの苦手だと思ってたんだ。でも、リゼットと一緒に調べてると、結構面白いね」

「ふふっ。それなら嬉しいです。これからも、分からないことは一緒に考えましょう」

「うん。よろしくね」


 研究棟の出口が近づいたところで、リゼットが何かを思い出したように足を止めた。


「そういえば、いつかヴァルさんの《戦闘鍛治師》についても詳しく調べてみたいんです。S級の生産系ジョブというだけでも珍しいですし」

「ヴァルの? それ、あいつも喜ぶかも。工房で自分に何ができるか、もっと知りたいって言ってたし」

「本当ですか? でしたら、ご本人がよければぜひ」

「聞いてみるよ。でも、研究の話を始めたら止まらなくなりそうだね」

「……それは、少し自覚があります」


 珍しく素直に認めるので、アカメは声を上げて笑った。外へ出ると涼しい風が頬を撫で、遠くの訓練場からは木剣を打ち合わせる音が聞こえてくる。


 《暗殺者》には隠れて接近し奇襲する力が多い。一方、《アサシン》には危険を察知する力や、毒を分解する働きが見つかっている。


 似ているところはあっても、同じだとは言えない。それが今日の答えだった。


「……調べたいこと、増えちゃったな」

「何か言いましたか?」

「ううん。分からないことって、次から次に出てくるんだなって」

「そうですね。でも、全部一度に解決しなくてもいいと思いますよ」


 リゼットの言葉に頷きながら、アカメは一昨日の夜の失敗を思い出した。《隠密》を使いこなすには、きっとまだ練習が必要だ。今日分かったことも、いつか戦い方を考える時に役立つだろう。


 寮へ続く道の分かれ目まで来ると、二人は足を止めた。


「それでは、アカメ。また明日」

「うん。また明日ね、リゼット」


 彼女が小さく手を振り、アカメも手を振り返した。歩き出してからもう一度手帳の入った鞄に触れると、朝より少しだけ中身が重くなったような気がする。


 自室へ戻ったアカメは、手帳へ結論を書き足した。《暗殺者》との違い、写本の『女神』の文字、そして禁書庫の申請。


 最後にペンを置いた時、机の端にある短剣が目に入った。父ロンドからもらった大切な短剣は、いつもと変わらずそこにある。


 アカメは鞘へ手を伸ばし、軽く握ってみた。《アサシン》というジョブの正体は、まだ分からないことだらけだ。それでも、この短剣をどう使うかまで、誰かに決められたわけではない。


 明日は少し早く訓練場へ行って、足運びからやり直そう。そう決めると、研究室で増えた疑問も、今は不思議と嫌なものには思えなかった。


 窓の向こうでは、王都に夜を告げる鐘が鳴り始めていた。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


今回は《アサシン》と《暗殺者》の違いについてのお話でした。


似ているようで異なる二つのジョブ。アカメの能力について少しずつ分かってきましたが、その正体はまだ謎に包まれています。


そして、古い写本に残されていた「女神」の文字。果たして、アカメたちを転生させた女神と何か関係があるのでしょうか。


ジョブは選べなくても、その力をどう使うかは自分で決められる。そんなアカメのこれからも見守っていただけたら嬉しいです。


次回もよろしくお願いします!

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