↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神授のアサシン ~ジョブが人生を決める世界で、誰も知らないジョブを授かった~  作者: 茜 南峰


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/35

第23話 「賢者の研究室」

 翌日の放課後、授業の終了を告げる鐘が鳴ると、第一級クラスの教室はたちまち賑やかになった。教本を鞄にしまう音に友人同士の話し声が重なり、廊下へ出ていく生徒たちの足音が開け放たれた扉の向こうへ続いている。


 アカメは昨夜ルカの部屋で試した《隠密》を思い返していた。気配を抑えても物音は消えない。父ロンドに教わった足運びを、もう一度練習する必要がありそうだった。


「……次は歩き方からだな」

「何の話だ?」


 隣の列から、授業中はきちんと答えていたセドリックが、眠そうな顔を上げた。


「ちょっとスキルの練習。セドリックはこれから何するんだ?」

「寝る」

「毎日寝てない?」

「毎日眠いからな」

「……おやすみ」

「ああ」


 迷いなく出ていく背中にアカメが笑うと、アリアが振り返った。


「寝てばっかりなのに、先生に当てられたら答えるんだもん。ずるいよね! あっ、ノア! 今日グラウのところに行くんでしょ?」


 アリアの後を、アカメとエアシルも追った。校舎脇にある魔獣用の管理区画では、《灰嵐狼(カイランウルフ)》のグラウが巨体を横たえていた。


 全長三・五メートルほどの狼は伏せていても迫力があり、陽光を浴びた毛並みが銀色に光っていた。


「うわあ、格好いい! ねえノア、少し撫でてもいい?」

「ごめん、アリア。今日はやめとこう? グラウ、ちょっと嫌そうなんだ」

「えっ、そうなの?」

「うん。ほら、耳が後ろにぺたってなってるでしょ? ああいう時は、そっとしておいてあげたいんだ」


 アリアが手を引くと、グラウは一度だけ彼女を見て、顔を背けた。


「そっか。ごめんね、グラウ。嫌がってるのに触ろうとしちゃった」

「大丈夫だよ、アリア。びっくりしただけだと思うから」


 ノアがしゃがむと、グラウは鼻先を彼の肩へ押しつけた。首元を撫でられ、気持ちよさそうに目を細める。


「すごいな、ノア。グラウの気持ちが分かるんだね」

「ううん、全部じゃないよ。僕も最初は分かんなくて、何度も怒られちゃったんだ」

「グラウに?」

「うん! 触ってほしくない時に撫でたり、遊びたいのに気づかなかったり。でも、少しずつ分かるようになってきたんだ。僕たち友達だから、グラウの気持ちもちゃんと聞きたいんだよね」


 グラウが返事をするように鼻を鳴らした。魔獣を従えるというより、互いを知ろうとする友達同士のようだった。


 ノアは「またあとでね」と声を掛け、グラウを異空間へ戻した。彼がアリアと訓練区画へ向かうのを見送り、アカメたちも歩き出した。


 ―✧―◇―✧―


「ノアってすごいよな。グラウ、あんなに懐いてるんだ」

「はい。ノアさんが大切にしていることも、伝わっているんでしょうね」


 エアシルの鞄には、先日マーレンが直してくれた新しい縫い目があった。幼い頃に縫ってもらったクマのワッペンも、以前と変わらず付いている。


「鞄、ちゃんと使えてるみたいでよかった」

「はい。マーレンが補強してくれたんです。このクマも、ずっと大切にしたくて」


 そのワッペンを見て、マーレンがエアシルのために駆けつけた時のことを思い出した。自分への恐怖も、幼馴染への優しさも、どちらも彼女の本当の姿なのだろう。


 その時、渡り廊下の向こうから声が掛かった。


「アカメ、探していたんです」


 本と記録用紙を抱えたリゼットが、長い濃紺の髪を揺らしながら歩いてきた。


「こんにちは、リゼット。俺を探してたの?」

「はい。今日は放課後に《毒適性》を調べるお約束でしたよね。ハロルド先生とミレイア先生にも立ち会っていただけることになりました」

「あっ、そうだった。予定は覚えてたけど、先生たちも一緒なんだね」

「もちろんです。身体への影響が分からないスキルですから、私たちだけで試すわけにはいきません」


 リゼットがアカメの顔を覗き込む。


「……緊張していますか?」

「うん、正直ちょっと。毒って聞くと、薬草採集の時を思い出すしさ」

「怖い時は遠慮せず言ってください。今日進めなくても構いませんから」

「いや、俺も調べたいんだ。ちゃんと行くよ」


 エアシルに別れを告げたところで、工房の申請書を手にしたヴァルとすれ違った。研究室へ行くと聞いた彼は「無茶だけはするなよ」と念を押し、アカメの返事を聞いてから工房へ向かった。


 ―✧―◇―✧―


 昨日の施設見学で通った上階の廊下には、《第三研究室》と書かれた扉があった。その下には「リゼット・クロイツ」の名前が添えられている。


「やっぱりここだったんだ。昨日ヴァルたちと通った時、名前を見つけたんだよ」

「そうだったんですか? 申請が通ったばかりで、まだ片づけも途中なんですけど……どうぞ」


 室内には作業台と書棚、薬品棚、見慣れない魔導器具が並び、新しい机には番号を振った資料が積み上がっていた。


「……すごいな。もうこんなに調べたの?」

「必要な資料を集めていたら、いつの間にか。まだまだ増えると思います」

「机が見えなくならない?」

「その時は棚を増やしますね」

「片づけないんだ……」


 真面目に答えるリゼットにアカメは笑った。昨日、新しい工房ではしゃいでいたヴァルを思い出す。


 奥の作業台では、担任のハロルドと治癒担当のミレイアが待っていた。挨拶を交わすと、ハロルドが椅子を指し示す。


「アカメ、まずは座りなさい。始める前に、今回の目的と条件を確認する」

「はい。よろしくお願いします」

「調べるのは《毒適性》の働きだ。君のジョブ全体を解明する実験ではないし、期待した結果が出るとも限らない。それでも構わないね?」

「はい。俺も知りたいので」

「結構。ただし、途中で嫌だと思ったら君の判断で中止できる。異常があれば我々の判断でも即座に止めるから、結果のために我慢する必要はない」


 リゼットは予定した手順を示した。普段の魔力を測り、毒の試料を調べる。本人の同意を得て少量の血液を採取し、身体の外で比較する準備もしておくという。


「最初から毒に触れるわけじゃないんだね」

「はい。接触が必要かどうかは、その前の結果を見て先生方と判断します。《毒適性》という名前だけでは、毒に耐える力なのか、別の働きがあるのかさえ分かりませんから」

「それなら俺にも分かるよ。父さんにも、知らない草にはむやみに触るなって言われてたし」

「では、今日はその教えを守ってくださいね」


 リゼットに念を押され、アカメは両手を上げた。緊張は消えなかったが、何度も意思を確認してもらえることが心強かった。


 ―✧―◇―✧―


 最初の測定は透明な板に手を置くだけだった。淡い光が走り、魔力の動きが記録紙へ写し取られていく。


「……意識してスキルを使っていなくても、いくつか反応が出ていますね」

「俺、今は何もしてないよ?」

「そうだな。ただし、これがスキルによるものか、普段からある魔力の動きなのかは、まだ区別できない。術式に似た反応があるからといって、その仕組みまで分かったことにはならないんだ」

「じゃあ、まず比べるための記録を取ってるんですね」

「そのとおり。基準がなければ変化も判断できない」


 《危険感知》は意思に関係なく働き、《体術》は動く時に助けてくれる。だが、仕組みは知らない。


「自分の身体なのに、知らないことが多いな……」

「だから、調べるんです。一つずつ確かめましょう」


 ミレイアが了承を得て少量の血液を採取し、比較用の容器に封をした。リゼットは容器と記録紙へ番号を付け、手際よく準備を進めた。


 次に薄紫色の液体が入った密閉容器が取り出された。性質を確認済みの研究用の毒だという。


「この段階では、毒の性質を測るだけです。アカメには触れてもらいません」

「……それを聞いて、ちょっと安心した」

「ふふっ。では、安心しているうちに説明しますね。この器具で分かるのは、試料が示す反応の大きさです。毒が身体の中でどう働くかまで、これ一つでは判断できません」

「数字が変わっても、それだけでスキルが働いたとは言えないんだね」

「はい! そのとおりです」

「リゼットの説明が分かりやすかったからだよ」


 リゼットは一瞬口を閉じ、少し赤くなった耳を隠すように記録用紙へ目を落とした。


 試料だけを測定したあと、教師二人が相談した。接触試験には量を制限した弱い毒を用いるが、異常があればすぐ中止し、安全を保証するものでもないという。


 《黒眠草》に触れた時に大きな症状が出なかったからといって、ほかの毒にも耐えられるとは限らない。


「……ここでやめても、研究が無駄になるわけじゃないですよね?」

「もちろんです。今ある記録から、次の方法を考えられますから」とミレイアが答えた。


 続きを知りたいはずのリゼットも、静かに返事を待っていた。


「……俺も知りたいんです。危なくなったらすぐ止めるので、少しだけ試したいです」

「分かった。無理をしないこと。それを最優先に進めよう」


 ハロルドがそう告げると、ミレイアは改めてアカメの体調を確認した。


 ―✧―◇―✧―


 器具の接触部へ指先を当てると、ひんやりとした感触があった。しばらく何も起こらず、このまま終わるのかと思いかけた。


「……今のところ、平気です」

「分かりました。少しでも変わったら、すぐ教えてくださいね」


 その時、指先にかすかなむず痒さが生じ、薄い痺れに変わった。


「……あれ。ちょっと指が変な感じです」

「どんな違和感ですか?」

「少し痺れてる、かな。痛いってほどじゃないんですけど」

「分かりました。ここで中止しましょう」


 ハロルドが器具を止め、ミレイアが手と全身の状態を確認した。


「指先だけです。ほかは何ともないと思います」

「では、座って様子を見ましょうね」


 アカメは頷いた。《毒適性》という名前で安心していたことの危うさが、今になって身に染みる。


「……やっぱり、毒が全然効かないわけじゃないんだな」

「はい。少なくとも、何の影響も受けないとは言えませんね」


 返事をしたリゼットの声は、普段より少し硬かった。記録用紙を置いてこちらを見つめる彼女に、アカメは思わず笑いかける。


「リゼット? そんなに心配しなくても、もう止めてもらったし……」

「心配しますよ」


 即答されてアカメが黙ると、リゼットは言葉を選ぶように視線を落とした。


「……研究をしたいと言ったのは私です。先生方がいても、アカメが辛い思いをするかもしれないと思ったら……平気ではいられません」

「……そっか。ごめん、少し軽く考えてた。ちゃんと気をつけるよ」

「謝ってほしいわけじゃないんです。アカメ自身のことも大切にしてほしくて」

「うん。分かった。ありがとう」


 その頃には痺れも弱まり、ミレイアが必要な処置をしてくれた。


 その後、同意のうえでもう一度ごく少量の血液が採取された。毒を身体に与える試験は一回限りで、以降は試料だけを扱う。


 ―✧―◇―✧―


 ハロルドが記録を並べると、リゼットは毒に触れた直後の反応が大きく変化し、時間とともに元へ戻ることに気づいた。


「……先生。この変化を見てください」


 目を輝かせながらリゼットは言った。 


「指先に痺れが出た時刻と、魔力の反応が変わった時刻がほぼ一致しています。それに、試験後の試料は毒性を示す反応がわずかに下がっているんです」

「じゃあ、毒が弱くなったってこと?」

「そうとも考えられます。ただ、皮膚に触れた影響や測定条件の違いでも説明できるので、これだけでは結論を出せません」


 リゼットは最初に採取した血液の容器へ目を向けた。


「先生、こちらを使って比較してもよろしいですか? アカメの身体の外で、毒への反応を確かめたいんです」


 ミレイアの許可を得ると、リゼットは採取した血液を専用の容器へ移した。容器の底には細かな術式が刻まれており、淡い光が血液を包み込んでいる。


「これは何?」

「《魔力維持術式》です。採取した血液に残る魔力を、できるだけ体内にあった時と同じ状態に保つためのものです」

「へえ……そんなこともできるんだ」

「ただ、身体の外では長く維持できません。血液に何か特殊な働きがあるなら、この間に反応が見られるかもしれません」


 リゼットは術式を施した血液と、施していない血液をそれぞれ用意した。さらに比較用の試料を並べ、毒を加えた後の反応を慎重に観察していく。


「俺の血で、何か分かるの?」

「もし血液に毒を変化させる働きがあれば、身体の中でも同じことが起きている可能性があります」

「……何だか、自分の血を調べるって不思議だな」


 しばらくすると、術式を施した血液に変化が現れた。毒の成分を示す光の線が、ゆっくりと弱まり始めている。


「……先生、毒の成分が減っています!」


 リゼットはもう一方の容器にも目を向けた。術式を施していない血液には、同じような変化がほとんど見られない。


「こちらは……反応がありませんね」

「魔力の維持が関係しているのかもしれないな」


 ハロルドの言葉に、リゼットは頷いた。


「はい。でも、それだけではありません。こちらを見てください!」


 リゼットが指し示した測定器には、最初の記録にはなかった細い光の線が現れていた。ハロルドも表示を覗き込み、その変化を確かめる。


「……毒が別の物質に変わった時の反応だな」

「はい。分解によって生じる物質の記録と一致しています!」

「……分解?」


 アカメが聞き返すと、リゼットは勢いよく頷いた。


「はい! アカメの血液が、毒を別の物質へ変化させているんです!」


 興奮した声にアカメまで身を乗り出すと、ハロルドが記録を確認して頷いた。


「今回の毒に対しては、アカメの血液に通常とは異なる分解の働きがある。ただし、スキルとの関係はさらに検証が必要だ」

「それでも、ただ毒に耐えているだけじゃないってことですよね?」

「少なくとも、この試料では毒そのものが分解されている。そこは今日の成果として記録できる」


 アカメは自分の指を見つめた。毒に耐えるだけでなく、毒そのものを変化させる力があるらしい。


「……すごいな。俺の身体、そんなことしてたんだ」

「はい! しかも分解が始まるまでには時間がかかっています。指先の痺れとも関係しているかもしれません」

「じゃあ、ほかの毒には気をつけないとね」

「ええ。今回分かったのは一種類だけですから」


 リゼットは記録を書き加え、ハロルドも毒を分解できることと、毒が効かないことは別だと念を押した。


「この結果を理由に、ほかの毒を試したりしないこと。命に関わる場合もあるからな」

「はい。分かりました」


 アカメが真剣に頷いた時、リゼットがもう一枚の記録紙を手に取った。机には接触試験の前後に採取した血液の容器が並んでいる。


「……あれ。こちらは、少し違いますね」

「今度は何?」


 リゼットは接触後に採取した血液にも《魔力維持術式》を施し、最初の血液と同じ条件で毒を加えた。それぞれの分解が始まるまでの時間を確かめながら、記録を比較していく。


「同じ毒なのに、接触後の血液の方が分解が早いんです」


「さっき毒に触れたから?」

「かもしれません。ただ、採取した時刻や体調も違うので、まだ分からないんです」


 リゼットは考え込んだまま、小さな字で疑問を書き足した。


「……どうして、二度目の方が早いんでしょう……」

「えっ、何か言った?」

「あっ、いえ! まだ仮説です。きちんと確かめられてからお話ししますね」


 ハロルドが今日の研究はここまでと告げると、リゼットは名残惜しそうに記録をまとめた。


「……分かりました。まずは今日の結果を整理します」

「結構。結論を急がず、順番に確かめることだ」


 毒を受けても平気ではないが、自分の血には毒を分解する特殊な働きがある。ようやくひとつ、確かな手掛かりが得られたのだ。


 ―✧―◇―✧―


 ミレイアが最後に体調を確かめ、教師たちは記録の写しを持って退出した。アカメは机を片づけ始めたリゼットを手伝うことにした。


「リゼット、この紙はどこに置けばいい?」

「ありがとうございます。番号の付いたものは右の棚へお願いします。……あっ、少し待ってください。そこはもういっぱいでしたね」

「やっぱり棚が足りてないじゃん」

「必要な資料ばかりなんです。捨てるわけにもいきませんし……」

「じゃあ今度、先に棚の整理をしようよ。俺でも手伝えるだろ?」


 リゼットは驚いたようにアカメを見て、それから声を立てて笑った。窓から差し込む夕日が記録紙の端を照らし、つい先ほどまでの緊張がゆっくりとほどけていく。


「……ねえ、リゼット。今日、ちゃんと分かることがあって嬉しかったよ。俺だけだったら、ずっと毒に強いだけだと思ってたかもしれないし」

「私一人でも分かりませんでした。アカメが協力してくれたから、見つけられたことです」


 リゼットが見つめる記録用紙に、一つだけアカメにも分かる言葉があった。


「……『毒の分解を確認』。これが今日の成果なんだね」

「はい!」

「ありがとう、リゼット」


 何気なく伝えると、彼女は少し照れたように微笑んだ。


「こちらこそ、ありがとうございます。アカメと一緒に調べられて、嬉しかったです」


 紙を棚へ戻しながら、アカメは昨日ここを通った時のことを思い出した。


「そういえば、昨日ここを通った時、研究室を見せてもらいたいと思ってたんだ。まさか今日もう入れるなんて」

「でしたら、今度は研究以外の日にもいらしてください。お茶くらいなら用意できますから」

「いいの? じゃあ俺、お菓子を持ってくるよ」

「……楽しみにしています」


 リゼットが少し頬を赤らめたので、アカメは何か変なことを言ったかと思ったが、彼女はすぐに次の資料を手に取った。


「明日も少しお時間をいただけますか?」

「今度は何を調べるの?」

「今日の記録を整理してから、《アサシン》と既存の《暗殺者》の記録を比べてみたいんです。名前が似ている理由の手掛かりがあるかもしれません」


 《アサシン》の名を恐れる人はいる。けれど、自分でも正体を知らなければ説明のしようがない。


「うん。資料を読むだけなら、今日みたいな実験より気が楽だな」

「ふふっ。では、ハロルド先生に記録の閲覧を相談してみましょう」

「うん。よろしく、リゼット」

「はい。こちらこそ、よろしくお願いします」


 ―✧―◇―✧―


 片づけを終えた二人が廊下へ出ると、夕暮れの訓練場が見えた。


「……短剣の練習も続けないとな」

「訓練の記録も残してみませんか? スキルの働きをあとから比べられます」

「それ、いいかも。でもリゼット、研究ばっかりにならない?」

「……そこは、気をつけます」


 困ったように笑うリゼットにつられ、アカメも笑った。自分にも分からないことは多いが、今日のように一つずつ確かめていけばいい。


「……リゼットって、本当に研究が好きなんだね」

「はい! 特に最後の血液の反応は、もう少し比較資料を集めたいと思っています。それから――」


 そこまで話したところで、リゼットははっと顔を上げた。


「……すみません。また研究の話ばかりしてしまいました」

「え? 別にいいよ。楽しそうに話してるリゼットを見るの、俺は好きだよ」

「……っ!」


 流暢に話していたリゼットが急に静かになり、アカメは不思議に思ったが、それ以上は尋ねなかった。


 やがて彼女は研究室に置きたい魔導器具の話を始めた。アカメが知らない名前を尋ねるたび、嬉しそうに説明してくれる。難しかったはずの研究も、二人で話していると面白く感じられた。


「……あれ、もうこんなところまで来たんだ」


 気づけば、寮へ続く道の分かれ目まで来ていた。リゼットも少し驚いたように周囲を見渡し、抱えていた記録用紙を持ち直す。


「本当ですね。話していたら、あっという間でした」

「うん。明日も楽しみにしてるよ」

「……はい。私もです」


 二人は手を振って別れた。まだ分からないことは山ほどあるが、アカメは次の研究が楽しみだった。


 何となく振り返ると、リゼットもちょうどこちらを振り向いていた。目が合い、彼女が照れくさそうに微笑む。


 アカメも笑って手を振り、再び寮へ向かって歩き始めた。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


今回は、リゼットとアカメが《毒適性》について研究するお話でした。


まだまだ謎の多い《アサシン》ですが、少しずつその能力に迫っていきます。


研究に夢中なリゼットと、そんな彼女に振り回されながらも楽しそうなアカメ。二人の距離も少しずつ縮まっているようですね。


次回もよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。