第22話 「それぞれの一歩」
翌日の放課後、アカメは机の上に広げた施設案内を眺めていた。全生徒が利用できる設備とは別に、特級生には工房や研究室、訓練施設が優先的に割り当てられるらしい。昨日ヴァルに見学へ誘われ、案内書を読んでいるうちに興味が湧いてきた。
「アカメさん、今日は施設を見に行かれるんですよね?」
隣から声を掛けてきたエアシルは、教本をしまった鞄を両手で持っていた。使い込まれた革の持ち手には新しい縫い目が増えているものの、昨日裂けていた部分はきちんとつながっている。鞄の端には、小さなクマのワッペンも以前と変わらず付いていた。
「うん。ヴァルとルカが案内してくれるんだ。エアシルはもう帰るの?」
「少し復習をしてから、魔法の練習をするつもりです。それと……昨日は、ありがとうございました」
「それなら昨日も聞いたよ。あ、鞄は直ったんだね」
「はい。マーレンが一緒に縫ってくれました。昔から直すのを手伝ってもらっているので、私より傷んでいる場所に詳しいくらいなんです」
クマのワッペンも、幼い頃にマーレンが破れた箇所を隠そうとして付けてくれたものだそうだ。不器用な縫い目まで、エアシルには大切な思い出らしい。
「それから、今朝、先生にもお話ししてきました。マーレンが付き添ってくれたので、最後までちゃんと説明できたんです」
「そっか。先生は何て?」
「相手の方たちにも事情を確認してくださるそうです。少し怖かったですけど……黙っていたら、また同じことになるかもしれませんから」
まだ不安そうではあったが、エアシルは昨日のように俯いてはいなかった。自分で先生に相談すると決められたことを、アカメも嬉しく思った。
「うん。ちゃんと話せてよかったな。何かあったら、また言ってよ」
「ありがとうございます。……アカメさんが、急がなくていいと言ってくださったおかげです」
「俺は待ってただけだよ。先生に話すって決めたのはエアシルだろ?」
そう返すと、エアシルは少し驚いてから嬉しそうに微笑んだ。今度一緒に学園を見て回ろうと約束して別れ、アカメも鞄を肩へ掛けて東棟へ向かった。
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東棟の二階から特級クラスのある上階へ向かうと、階段を上るほど人影が減っていった。
受付の前ではルカが大きく手を振り、隣のヴァルは折り目の付いた案内書を手にしていた。
「アカメ、遅いぞ! 俺、早く訓練場を見たいんだけど!」
「まだ待ち合わせの時間前だろ? ヴァルは工房のことで頭がいっぱいみたいだな」
「お前らよりは案内を読んでるだけだ。まず受付で手続きするぞ」
「おお、さすがヴァル!」
「持ち上げても順番は変えん。工房からだ」
「何でだよ!」
ルカが抗議する横で、受付の職員はアカメの学生証とヴァルたちの利用証を確認した。特級生の同行者であれば一部施設の見学は認められるが、装置に触れたり訓練設備を使ったりするには別の許可が必要だという。
アカメが頷くと、職員は注意事項を説明してから三人を通してくれた。
区画内には研究室や魔導具の保管室が並び、施錠された扉には担当分野や使用者の札が付いている。その一つに、見覚えのある名字があった。
「……あれ、クロイツって書いてある。リゼットの研究室かな?」
「《賢者》向けの第三研究室だな。もう申請が通ってるらしい」とヴァルが案内書を覗き込む。
「すごいな。昨日も図書館で一緒に調べてたんだけど、途中から質問が十二個に増えてさ」
「十二個!? 何をそんなに聞かれたんだよ」とルカが笑った。
「《アサシン》のこと。俺より熱心なんじゃないかってくらいだった」
「それ、十二個で足りるのか?」
「ヴァルまで言うのかよ!」
笑いながらも、アカメは閉ざされた研究室の扉をもう一度眺めた。リゼットがここで資料を広げ、あれこれ考えている姿は簡単に想像できる。次に会ったら研究室を見せてもらえるか聞いてみようと思いながら、二人の後を追った。
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渡り廊下の先にある工房棟へ移ると、空気にわずかな金属と油の匂いが混じり始めた。ヴァルが鍵を差し込んだのは、《特級生専用工房・第七室》と記された扉だった。
扉が開くと、正面には広い作業台があり、壁には大小さまざまな工具が使いやすい順番に掛けられていた。素材の保管棚や金属の状態を調べる測定器、奥には魔石で熱を調節する炉まである。
アカメはリュネ村で何度も見たヴァルの父親の鍛冶場を思い出したが、こちらは扱える作業の種類からして違うようだった。
「うわ、すっごいな! これ、全部ヴァルが使えるの?」
「許可された範囲ならな。炉や測定器の一部は指導員がいる時だけだってさ。壊したら洒落にならん」
「ヴァル、さっきから顔が緩んでるぞ」とルカが横から覗き込む。
「……そんなことない」
「いや、めちゃくちゃ嬉しそうだって。道具見るたびに立ち止まってるし」
そう指摘されても、ヴァルは否定する代わりに棚の前へ移動した。握りの形が違う金槌を見比べたり、作業台の高さを確かめたりしているうちに、普段より口数まで増えていく。
「この台なら細かい加工もしやすそうだな。炉も温度を一定に保てるなら、素材ごとの違いを確かめられる。村だと父さんと炉を使う時間を調整してたけど、ここなら自分の課題に合わせて作業できるんだ」
「へえ……。そんなに違うんだな」とアカメが感心すると、ヴァルは一瞬だけこちらを見た。
「違う。まだ俺に使いこなせるかは分からんけどな」
作業台に手を置いたヴァルの表情が、少し真剣になる。
「正直、ここまで用意してもらえるとは思ってなかった。俺はまだ父さんの手伝いで覚えたことが多いし、一人で仕上げられるものだって限られてる。それなのに《戦闘鍛治師》ってだけで、最初からこんな工房が使えるんだぞ」
「期待されてるってことだろ? だったら作ればいいじゃん!」とルカが即答する。
「簡単に言うな。設備を使えるのと、ちゃんとした武器を作れるのは別だ」
アカメは二人の顔を見比べた。S級と分かった時からヴァルは周囲に期待されていたが、本人にとって鍛冶は神授で突然手に入れた才能ではない。幼い頃から父の作業を見て、少しずつ手を動かしてきた仕事なのだ。
「でもさ、ヴァルは元々鍛冶が好きなんだろ? これからもっと練習できるなら、それだけでも嬉しいんじゃない?」
「……まあ、それはそうだな」
「だったら、まず触れるようになるところからでいいと思うよ。俺だって自分のスキル、まだ分からないことだらけだし」
「お前、薬草採集の時も毒草に触って怒られてただろ」
「それはもう反省したって!」
ルカは棚に置かれた見本用の柄を見つけた。
「なあ、ここで俺の剣も作れる? どうせならすっごく強いやつ!」
「作れるようにはなりたいけど、今すぐは無理だ。素材も必要だし、お前に合う長さや重さも測ってない」
「じゃあ、何でも斬れる剣!」
「注文が増えただけだろ。そもそも何でも斬れるって何を斬る気なんだよ」
「……魔物?」
「疑問形にするな」
呆れた顔のヴァルに、アカメも声を上げて笑った。ヴァルは棚から見本用の柄を一つ取り上げると、持ち手の太さと重心が使い手に与える影響を説明し始めた。鍛冶のこととなると、ヴァルは途端に饒舌になる。
「俺の短剣も、いつか見てもらおうかな。父さんからもらった大事なものだから、無茶な加工はしたくないけど」
「それなら手入れだけでも相談に乗る。勝手に変えたりはしねえよ」
「頼りにしてる!」
ヴァルは照れたように顔を背けたが、すぐに設備の案内書へ書き込みを始めた。《素材理解》で分かる性質も、名前や最適な加工方法まで教えてくれるわけではない。これから学ぶことがいくらでもあるのだと、本人が一番よく分かっているようだった。
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工房を出ると、今度はルカに引っ張られるように特級生向け訓練施設へ向かった。建物の外れには複数の演習区画が並び、広い床の周囲に防護障壁の発生装置や練習用の標的が設置されている。見学は観覧席からだけだったが、一般の訓練場との違いはよく分かった。
「見ろよ、アカメ! あっちなんて障害物まで動かせるらしいぞ! ここなら色んな練習ができそうだな!」
「ルカ、柵の向こうはまだ入っちゃ駄目だって。さっき説明されたばっかりだろ」
「分かってるって! ちょっと近くで見たかっただけ!」
「ちょっとのつもりで飛び越えそうだったぞ」とヴァルが突っ込んだ。
ルカは不満そうだったが、標的が動く実演を見るとすぐ目を輝かせた。
見学のあと、三人は共用訓練場へ移動した。職員に空きを確認して防具と練習用の武器を借り、アカメは木製の短剣を、ルカは木剣を手に取った。
二人が向かい合うと、ヴァルは境界線の外へ下がった。
「せっかくだし、一回だけ手合わせしようぜ。今度はアカメの動きもちゃんと見たいんだ」とルカが木剣を構える。
「いいよ。でも、お前の方が長い武器なんだから、手加減はしてくれよ?」
「手加減したら練習にならないだろ? もちろん、危ないところでは止めるって!」
「二人とも、当てる前に止めろよ。初日から怪我するな」とヴァルが念を押した。
ルカが踏み込んで木剣を振り下ろす。アカメは半歩横へ避けて脇を狙ったが、ルカはすぐに剣を引き戻し、長い剣先で進路を塞いだ。
「うわっ、速いな!」
「アカメだって避けるの上手いじゃん! もう一回いくぞ!」
アカメは《体術》の補助を意識して足運びを変える。《危険感知》も攻撃の方向までは教えてくれないため、ルカの肩や視線を観察して判断する必要があった。
数度打ち合ったところで、ルカの木剣がアカメの持ち手を捉え、武器を弾いた。アカメが後ろへ下がると、ルカはそれ以上踏み込まずに剣を止める。
「よし、一本!」
「参った! やっぱり剣ならルカが上だな」
「俺、もっと練習したいんだよな。今日の授業でも先生には全然当てられなかったし、強くなれる余地があるってことだろ?」
「前向きだなあ」
ヴァルが二人の武器を見比べて首を振った。
「ルカ、お前は最初から間合いで有利だっただろ。それで勝っただけじゃ、アカメの動きを見る練習にはならん」
「……あ、そっか。確かに、ほとんど近づかせなかったな」
「剣の勝負ならそれも強さだよ。でも俺、短い武器でどう間合いを詰めるかも練習したいんだ」とアカメが笑う。
「よし! 次はそこを意識してやろうぜ。俺も、アカメがどこから入ってくるか見てみたい!」
ルカは嬉しそうに構え直しかけたが、職員から区画の利用終了を告げられ、残念そうに木剣を戻した。ヴァルに「続きはまた今度だ」と言われても、まだ少し名残惜しそうだった。
帰り際、ルカは広い訓練場を振り返った。
「……すげえな。農荘にいた頃は、明日何をするかさえ自分じゃ決められなかったのに。今は剣の練習をするかどうかも、自分で決められるんだもんな」
「この間も言ってたな。まだ慣れない?」とアカメが尋ねる。
「慣れないよ。でも、嬉しいんだ。家族も自由になれたし、俺がここで学べることも。だから、せっかくなら好きなことをちゃんと頑張りたい」
ルカは照れ隠しのように笑い、先に歩き出した。アカメも、まだ《アサシン》の正体は分からないが、やってみたいことは少しずつ増えていた。
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共用訓練場から寮へ戻る道の途中、小さな屋外演習庭で見覚えのある銀白色の髪を見つけた。立ち入り自由の練習区画で、エアシルが一人、地面に並べた葉と布片を見つめている。
「エアシル、こんなところにいたんだ!」
呼び掛けると、彼女は振り返って微笑んだ。
「アカメさん。皆さんも一緒だったんですね。施設の見学はどうでしたか?」
「すごかったよ! ヴァルの工房も、ルカが使える訓練場もさ。エアシルは魔法の練習?」
「はい。今日は風の制御を練習していました。決めた場所まで運ぶつもりでも、少しずれることがあるので……」
足元には葉を入れる木箱がある。風の扱いにも慣れたいらしく、見せてほしいと頼むとエアシルは指先を組んだ。
「まだ上手とは言えませんけど……少しだけなら」
「俺も見たい! 風で物を動かすのって、どうやるんだ?」とルカが身を乗り出す。
「えっと、強く押すというより、包んで運ぶように意識するんです。途中で力を入れすぎると、全部飛んでいってしまうので」
エアシルが両手を前へ出すと、風に乗った葉が木箱へ向かった。途中で一枚が横へ流れ、ほかの葉も散りかけたが、彼女は風向きを整え直し、最後にはすべて木箱へ収めた。
「……できました」
「すごいじゃん! 途中で崩れそうだったのに、ちゃんと戻したな!」とアカメが声を上げる。
「ええと……ありがとうございます。でも、最初から上手くできたわけではないので」
「だからすごいんだろ? 俺だったら飛んでった時点で諦めそうだよ」とルカが笑った。
エアシルは照れくさそうに頷いた。その時、最後に残った風がふわりと前髪を持ち上げ、いつも髪に隠れがちな目元が夕日に照らされた。驚いて顔を上げた彼女の表情は、普段より明るく、生き生きとして見える。
「エアシル、さっきすごく楽しそうだったな。前髪が上がってるのも似合ってるよ」
「……えっ!?」
エアシルは慌てて髪を押さえ、赤くなった顔を俯けた。
「ありがとうございます……。でも、私はこの髪型の方が落ち着くんです」
「そっか。じゃあ、そのままでいいと思うよ」
隣でルカが妙に黙ったのが気になり、アカメが振り向くと、今度はヴァルの方をじっと見ている。
「……ヴァル、お前どうした?」
「何がだ」
「いや、さっきから全然喋らないし。もしかして顔赤い?」
「赤くない。余計なこと言うな」
ヴァルはいつも通りぶっきらぼうに返したが、その視線は一度だけエアシルの方へ動いていた。ルカが口を開きかけると、ヴァルが睨んだ。
「ルカ。黙ってろ」
「まだ何も言ってないだろ!」
「言う顔してる」
アカメには何の話か分からなかったが、エアシルが木箱を片づけて戻ってきたので、話題は自然と途切れた。
「皆さん、お待たせしました。あの、ヴァルさんも見てくださって、ありがとうございました」
「……ああ。上手かったと思う」
「本当ですか?」
「途中で風が乱れたのに、ちゃんと立て直しただろ。あれは簡単じゃないと思うぞ」
普段より少し丁寧に言葉を選んでいるヴァルに、エアシルは嬉しそうな笑みを浮かべた。
「ありがとうございます。まだ上手くできないことも多いですけど、頑張りますね」
「……おう」
ルカが横を向いて笑いを堪えていたが、アカメにはその理由が分からなかった。エアシルと別れたあとも、ヴァルはしばらく口数が少ないままだった。
―✧―◇―✧―
夕食を終え、自室へ戻ったアカメは、机の上で今日の出来事を手帳に書き留めていた。ヴァルの工房にあった工具、ルカの剣の速さ、エアシルが風で運んだ葉。どれも気になることばかりだったが、模擬戦で何度も間合いを詰められなかったことが、一番頭に残っていた。
正面から剣を合わせれば、《ソードマスター》のルカが強い。それなら自分は、短い武器の利点を生かすために何を練習すればいいのだろう。考えているうちに、《隠密》を使った時の感覚を思い出した。
「……近づき方を変えてみるか」
アカメは手帳を持って廊下へ出ると、同じ男子寮のルカの部屋を訪ねた。扉を叩くとすぐ返事があった。
「おっ、アカメ! どうした、今からもう一戦やる?」
「さっきので十分だって。ちょっと《隠密》の練習に付き合ってほしいんだ」
「面白そう! 何すればいい?」
ルカの机には文字の練習帳が広げられていた。簡単な単語を何度も書き直した跡があり、授業で習ったことを復習していたらしい。アカメはその努力を邪魔しないよう、短い時間だけ実験させてほしいと頼んだ。
「ルカはそのまま字の練習をしてて。俺が《隠密》を使って部屋へ近づくから、気づいたら教えてほしい」
「分かった。扉を少し開けとけばいいんだな?」
「最初はいつも通りでいいよ。何で気づくのかも確かめたいから」
ルカが頷き、机へ戻ったのを確認してから、アカメは廊下の少し離れた場所で呼吸を整えた。《隠密》を意識すると、自分の存在感が周囲から薄れていくような感覚がある。
だが、姿が消えるわけでも、服や扉の音まで消えるわけでもない。その違いを確かめるため、あえて普段と同じように扉へ近づいた。
取っ手へ手を掛け、ゆっくり押した途端、蝶番が小さく鳴った。
「……アカメ?」
「えっ、もう分かった?」
「だって扉が鳴ったぞ。誰か来たんだろうなって思うだろ!」
「それはそうか……。じゃあ、気配は?」
「近づいてきた感じはしなかった。でも、扉が動いたのは普通に分かったよ」
アカメは手帳を開き、気づかれた理由を書き留めた。音が出た時点で失敗とするなら、立ち位置や周囲の物まで考える必要がありそうだ。
「もう一回やらせて。今度は扉を最初から開けておいてほしい」
「いいぞ! 次はもっと奥まで来られるか試してみようぜ」
二度目は開け放した扉から壁沿いに近づいた。ルカは練習帳を見たまま振り向かず、部屋へ入ることにも成功したが、次の一歩で床板が軋んだ。
「そこだ!」
「うわっ、見つかった!」
ルカが振り返り、指さした先にはアカメが立っていた。
「今のは床の音だな。でも、音がするまでは分かんなかったぞ」
「じゃあ、歩き方を直せばもう少し近づけるかも」
「だな。だけど、目の前に来たら普通に見えるからな? その辺も考えないと」
「分かってるって。《隠密》は透明になるスキルじゃないからね」
二人で失敗の理由を整理していると、机の上に文字の練習帳と自分の手帳が並んでいることに気づいた。覚えることは違っても、二人ともできることを増やそうとしているのだと思うと、少し可笑しくなった。
「ルカ、練習に付き合ってくれてありがとな。文字の勉強、邪魔しちゃっただろ」
「いいって! 俺も相手の動きを読む練習になるし、楽しかったぞ。今度はヴァルも呼ぼうぜ」
「それいいな。でも、ヴァルなら足音どころか床の傷まで見つけそう」
「ありそう! あいつ、細かいところよく見てるもんな」
消灯が近づいた頃、アカメはルカに礼を言って部屋を出た。廊下を歩きながら手帳を見返すと、今日増えたのは分からないことより、次に試したいことの方だった。
ヴァルには使いこなしたい工房があり、ルカには自由に剣を振れる場所がある。自分の《アサシン》はまだ謎だらけだが、今ある力をどう使うかなら、少しずつ試していけるはずだ。
「……次は、床が鳴らない歩き方からだな」
そう呟くと、アカメは故郷の森で父に足の置き方を教わった日のことを思い出した。何度も枝を踏んで獲物を逃がし、そのたびにやり直したのだから、今回も最初から上手くいかなくて当然だろう。
夜の学園に点々と灯る明かりを眺め、アカメは次に試すことを考えながら自室へ戻った。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
今回は、アカメたちがそれぞれの目標に向かって一歩を踏み出すお話でした。
神授で得た才能も、努力を重ねてこそ輝くもの。これからの彼らの成長を温かく見守っていただければ嬉しいです!
次回もよろしくお願いします!




