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神授のアサシン ~ジョブが人生を決める世界で、誰も知らないジョブを授かった~  作者: 茜 南峰


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第16話 「三人、再び」

 翌朝、アルセリア王立学園の正門前には、大勢の受験者が集まっていた。


 門の脇に設けられた掲示板には、入学試験の合格者の受験番号と名前が一覧で掲示されている。歓声を上げる者や友人と抱き合う者がいる一方、肩を落として立ち去る者の姿もあった。


 アカメも人混みに紛れ込み、受験票と掲示板を交互に見比べていた。


「……あれ、何番だっけ」


 覚えていたはずの番号が、緊張のせいか頭から抜けてしまう。受験票を確認し、並んだ数字を順番に追っていくと、中央より少し下に見覚えのある番号を発見した。


 その横には、確かに自分の名前が書かれている。


 アカメ・オルディン。


「……あった! よっしゃ、合格だ!」


 思わず声を上げ、近くの受験者が振り返った。少し照れくさかったが、口元が緩むのは止められなかった。


 昨日の実技試験ではA級《剣騎士》のグレイグ教官に完敗した。筆記試験もそれなりに手応えはあったものの、結果が出るまでは不安だったのだ。


 王都まで六日もかけて来て、不合格になって村へ帰ることになれば、父ロンドや母アレシャに何と伝えればいいのか分からない。


「……よかったぁ」


 アカメが胸を撫で下ろした時、背後から聞き慣れた声がした。


「受かってたか」


 振り返ると、人混みの外にヴァルが立っていた。すでに学園の制服を着ており、胸元には仮の学生証まで下がっている。


「ヴァル! 受かってたぞ!」

「そうか。ならよかったな」

「っていうか、何しに来たんだよ。合格発表なんか関係ないだろ?」

「お前が落ちてないか見に来た」

「自分は試験すら受けてないくせに!」

「S級だからな」

「……それ、言ってみたかっただけだろ」

「少しな」


 悪びれる様子もないヴァルに、アカメは呆れたように笑った。


 S級《戦闘鍛治師》のヴァルは、推薦の時点で入学が決まっている。学生寮や制服の手配も済ませており、同じ村から来たというのに待遇は随分違っていた。


「S級って便利だなあ」

「俺に言われても知らん」

「今日も何か特別扱いされるんじゃないか?」

「使えるものが増えるなら助かる」

「相変わらずだな、お前」


 ヴァルにとっては、特別待遇そのものより、それを使って何ができるかの方が大切なのだろう。


 その後、アカメも受付で制服と必要書類を受け取り、更衣室へ向かった。


 黒を基調とした上着には銀色の刺繍が施され、左胸には学園の紋章が縫い込まれている。鏡の前に立つと、昨日までの自分が少しだけ大人になったように見えた。


「おお……なんか、学園の生徒って感じがする!」


 襟元を整え、待っていたヴァルへ見せてみる。


「どう? 似合ってる?」

「普通だな」

「普通って何だよ! もっと何かあるだろ!」

「似合ってなくはない」

「それ最初から言えよ!」


 二人はそんなやり取りを交わしながら、入学式が行われる大講堂へ向かった。


 ―✧―◇―✧―


 大講堂は、リュネ村の教会とは比べものにならないほど広かった。


 半円状に並ぶ座席は後方へ行くほど高くなり、正面には巨大な学園章と王国旗が掲げられている。天井には青白い魔力灯が浮かび、高い窓から朝日が差し込んでいた。


「うわ、でかっ! ここ全部、新入生で埋まるのか?」

「もう結構埋まってるぞ」

「村の人全員入っても余りそうだな……」


 二人が席へ着くと、アカメは昨日の試験会場で見かけたノアやセドリック、アリアの姿を見つけた。彼らも無事に合格したらしい。


 やがて講堂のざわめきが静まり、白髪を後ろへ流した老人が演壇へ上がった。


 オルディス学園長。S級《大賢者》のジョブを持ち、王国でも有数の魔術師として知られる人物だ。


「皆さん、入学おめでとうございます。本日より、皆さんはアルセリア王立学園の学生です」


 穏やかな声が、不思議とはっきり講堂全体へ響いた。


「ここへ来るまでの道は、それぞれ違ったことでしょう。授かったジョブも、得意なことも、目指すものも同じではありません。しかし、ジョブの階級や所属するクラスが、その人間の価値を決めるわけではありません」


 アカメは思わず背筋を伸ばした。


 《アサシン》というジョブを授かってから、周囲の反応は大きく変わった。昨日の試験でも警戒する者はいたが、自分自身もまだこの力を理解できていない。


 だからこそ、ここで学びたいのだ。


「三年後、皆さんがどのような人間になっているか。それを決めるのは、授かったジョブだけではありません。学び、試し、失敗しながら、自分の進む道を選んでください」


 挨拶が終わると、講堂に大きな拍手が響いた。


 続いて演壇へ上がった教師が、学園の制度について説明を始める。


「本学園の学級は、大きく《特殊クラス》と《一般クラス》に分かれています」


 教師が手をかざすと、背後の術式板にクラス名が浮かび上がった。


「特殊クラスの《特級クラス》はS級ジョブ保有者のみ、《第一級クラス》にはA級、および同等の能力を認められた学生が所属します。一般クラスは、ジョブの階級や適性に応じて《第二級クラス》と《普通クラス》へ分かれます」


 S級のヴァルは特級クラス。暫定A級相当の自分は、おそらく第一級クラスになるのだろう。


「なお、S級ジョブ保有者には、個別指導や特別研究設備の利用など、いくつかの権限が認められています」


 アカメは思わずヴァルを見る。


「見るな」

「まだ何も言ってないだろ!」


「上級演習場の優先利用や、希少素材を含む一部学園備品の利用も可能です。ただし、それに伴う責任や報告義務も生じます」


 希少素材という言葉が出た瞬間、ヴァルの目が僅かに変わった。


「……今の聞いた?」

「聞いた」

「絶対そこが一番気になっただろ」

「悪いか?」

「いや、別に!」


 アカメは笑いながら前へ向き直った。


 村ではヴァルの《戦闘鍛治師》について詳しく教えられる者がいなかった。ここなら専門の教師も設備も揃っている。幼馴染がどんなものを作れるようになるのか、今から楽しみだった。


 ―✧―◇―✧―


 入学式が終わると、続いて所属クラスの発表が行われた。


 講堂正面の術式板へ新入生たちの名前が映し出され、教師が名簿を読み上げていく。


「まず、《特級クラス》」


 S級ジョブ保有者だけが所属するクラスとあって、講堂中の視線が演壇へ集まった。


「ヴァル・グランツ。S級《戦闘鍛治師》」

「はい」


 隣にいたヴァルが立ち上がる。すでに分かっていたこととはいえ、大勢の前で名前を呼ばれる幼馴染を見ると、改めてその凄さを実感した。


「リゼット・クロイツ。S級《賢者》」

「はい」


 次に立ち上がったのは、長い藍色の髪を持つ少女だった。周囲の視線を気にする様子もなく、落ち着いた所作で返事をすると、静かに座り直した。


「マーレン・エルヴァレイン。S級《炎帝魔術師》」

「はい」


 深い赤色の髪をした少女が、背筋を伸ばして立ち上がる。堂々とした姿にはどこか品があり、アカメはその名前に聞き覚えがあるような気がした。


「レオン・アルヴェルト。S級《聖騎士》」

「はい!」


 白金色の髪を持つ背の高い少年が、はっきりと返事をした。制服の着こなしまできっちりとしており、いかにも真面目そうな人物だ。


「ガレス・ヴァルガン。S級《狂戦士》」

「……はい」


 続いて立ち上がったのは、周囲の生徒たちが思わず見上げるほどの巨体をした少年だった。


「うわ、あいつも一年生なのか……?」

「お前、さっきから驚きすぎだろ」

「いや、だってあんなにでかいんだぞ!」

「見れば分かる」


 ヴァルに呆れられながらも、アカメは次々と紹介されるS級の神授者たちに目を奪われていた。


 そして、ある名前が呼ばれた時だった。


「ルカ・ハルデン。S級《ソードマスター》」

「はい!」


 明るい声に顔を上げると、少し癖のある髪をした活発そうな少年が立ち上がっていた。


 ルカ・ハルデン。


 名前にも顔にも覚えはない。けれど、近くの生徒へ顔を向けて笑った瞬間、アカメの記憶に何かが引っかかった。


 片方の口角が先に上がり、少し遅れて目元が細くなる。その笑い方が、妙に懐かしかったのだ。


「どうした?」


 ヴァルに声を掛けられ、アカメはようやく視線を外した。


「いや……あいつ、ちょっと気になってさ」

「ルカって奴か?」

「うん。何か、見たことあるような気がするんだよな」

「知り合いか?」

「いや、初めて見る顔なんだけど……」

「なら、気のせいじゃねえか?」

「そうかなあ……」


 アカメは首を傾げながら前へ向き直ったが、不思議な感覚は消えなかった。


「続いて、《第一級クラス》」


 今度はアカメが所属するクラスだった。


「アカメ・オルディン。《アサシン》、特別招致、暫定A級相当」

「はい!」


 立ち上がると、講堂のあちこちから視線が集まった。以前なら居心地の悪さを感じていたが、何度も同じ反応を向けられているうちに、多少は慣れてきた。


「エアシル・リーフェン。A級《風癒術師》」

「は、はいっ!」


 銀髪の小柄な少女が勢いよく立ち上がり、自分の声の大きさに驚いたように顔を赤くして座り直した。


「アリア・フェルネット。A級《魔糸操士》」

「はーい!」


 昨日の実技試験で見た少女が、相変わらず元気よく返事をする。


「ノア・ベルン。A級《魔獣使い》」

「はい!」

「セドリック・ローヴェン。A級《魔剣士》」

「……はい」


 知っている名前が続き、アカメは少し安心した。まだ話したことはないが、昨日の試験で見た彼らと同じクラスになるのは楽しみだった。


 その後も発表は続き、すべての新入生の所属が決まると、各教室への移動が指示された。


 《特級クラス》は東棟の最上階、《第一級クラス》は同じ建物の二階に設けられているらしい。一部の授業では合同になることもあるという。


「同じ建物なんだな」


 講堂を出ながらアカメが呟くと、ヴァルが頷いた。


「なら、そこまで変わらねえだろ」

「でもお前ら最上階だろ? 俺、二階だぞ」

「階段を上がれば来られる」

「そういう話じゃないって!」


 アカメは苦笑した。村にいた頃とは違って別々の教室になるが、同じ学園にいるのだから、授業が終わればいつでも会える。


「まあ、昼になったら食堂で会えばいいか」

「そうだな。俺は工房の場所も確認しておきたい」

「初日から鍛冶のことかよ!」

「当たり前だろ。何のためにここまで来たと思ってんだ」

「それはそうだけどさ!」


 二人がそんな話をしながら東棟へ続く廊下を歩いていると、背後から慌ただしい足音が聞こえてきた。


「なあ! そこの二人、ちょっと待って!」


 呼び止められて振り返ると、こちらへ駆け寄ってくる少年がいた。

 先ほど《特級クラス》で名前を呼ばれていた、ルカ・ハルデンだった。


 ルカは二人の前で足を止めると、アカメの顔をじっと見つめ、次にヴァルへ視線を移した。講堂では明るく笑っていたはずなのに、今は何か信じられないものでも見つけたような顔をしている。


「……えっと、何か用?」


 アカメが尋ねても、ルカはすぐには答えなかった。


「お前……」

「俺?」

「いや……そんなわけないよな。でも……」


 ルカは困ったように眉を寄せると、片手で髪をぐしゃぐしゃと掻いた。

 その仕草を見た瞬間、アカメの胸の奥に強い違和感が走った。


 昔、考え事をする時に同じようなことをする奴がいた。何かを思い出そうとしている時や、言葉が見つからない時、そいつは決まって髪を乱すように頭を掻いていた。


 ――いや、まさか。


 そう思いながらも、心臓が妙に速くなる。


 横を見ると、ヴァルもいつもとは違う表情でルカを見つめていた。


「お前、ルカ・ハルデンだったな」

「そうだけど……」

「俺たちと、どこかで会ったことがあるのか?」

「……分かんねえ。でも、なんか知ってる気がするんだよ」


 ルカは二人の顔を交互に見つめた。


「顔も名前も知らないはずなのに、さっき講堂でお前らが喋ってるの見てたら、どうしても気になってさ」

「俺たちが?」

「ああ。なんか昔から知ってる奴らみたいで……っていうか、ちょっと腹立ったんだよ!」

「なんでだよ!」

「分かんねえって! お前ら二人だけで楽しそうにしてるの見てたら、俺もそこにいたはずなのにって……」


 そこでルカは言葉を止めた。


 意味の分からないことを言っているはずなのに、その話し方まで妙に懐かしかった。


 前の世界で、三人はよく一緒に遊んでいた。誰かが突然誘い、何をするかも決めずに集まって、結局その場で相談する。映画を観に行くつもりがゲームセンターへ行ったり、何も決まらないまま近所を歩き回ったりすることもあった。


 そんな時、いつも使っていた言葉がある。

 ルカも同じことを思い出したのか、何かを確かめるように口を開いた。


「……なあ、一つだけ聞いていいか?」

「……何?」


 ルカは小さく息を吸った。


「……三人揃ったら?」


 その一言を聞いた瞬間、アカメの中で散らばっていた記憶が一つにつながった。

 考えるよりも先に、口が動いていた。


「とりあえず飯」

「そのあと考える」


 隣にいたヴァルも、ほとんど間を置かずに続けた。


 たったそれだけの言葉だったが、三人にとっては何より確かな答えだった。

 ルカの目が大きく見開かれる。


「……お前ら……!」


 次の瞬間、ルカが勢いよく二人へ飛びついてきた。


「うわっ!」

「おい、重いぞ!」

「凛! 健太! マジかよ! 本当にお前らなのか!?」


 肩に回された腕の力も、耳元で騒ぐ声も、昔とは違う。それでも、アカメには不思議なくらい違和感がなかった。


 顔も名前も変わっているのに、もう間違えるはずがなかった。


「……奏馬?」


 その名前を口にすると、ルカの身体が一瞬だけ止まった。


 ゆっくり顔を上げた少年は、笑っているのに今にも泣きそうな表情をしていた。


「……ああ。俺だよ」


 十六年間、ずっと探していた。


 行商人や旅人が村を訪れるたびに話を聞き、王国各地について書かれた本も読み漁った。それでも、奏馬の手掛かりは一度として見つからなかった。


 同じ世界に生まれ変わったのかさえ分からなかった親友が、今、目の前にいる。


「……遅えんだよ!」


 気づけばアカメは、ルカの肩を強く掴んでいた。


「十六年だぞ! どこにいたんだよ!」

「俺だって探してたわ! ていうか、お前ら二人だけ先に会ってんのズルくねえか!?」

「仕方ないだろ! 同じ村に生まれたんだから!」

「何だよそれ! 俺だけ仲間外れじゃねえか!」

「知らねえよ! 俺だって会いたかったんだよ!」


 思わず大声で言い返すと、周囲の新入生たちが何事かと振り返った。しかし、今のアカメにはそんなことを気にしている余裕などなかった。


 嬉しいのか、安心したのか、それとも十六年間見つからなかったことに腹が立っているのか。色々な感情が溢れて、何から話せばいいのか分からない。


「……お前、本当に凛なんだよな?」

「そうだって! 今はアカメだけどな!」

「いや、分かってるけどさ……まだ信じらんねえ」

「それは俺もだよ!」


 ルカは何度も頷くと、今度はヴァルへ顔を向けた。


「健太も……本当に健太なんだよな?」

「今はヴァルだ」

「分かってるって! そういうこと聞いてんじゃねえよ!」


 ルカが思わず笑った。


 その横で、ヴァルはしばらく黙って二人を見ていた。いつもより僅かに目元が緩んでいるものの、アカメのように大騒ぎすることはない。


「奏馬」

「……ん?」


 ルカが振り向くと、ヴァルは少しだけ間を置いて口を開いた。


「……生きてたなら、それでいい」


 その言葉に、ルカはしばらく目を瞬いていた。


「……お前さあ。十六年ぶりに会った親友に、もうちょっと何かないの?」

「あるぞ」

「じゃあ言えよ!」

「あとでいいだろ」

「相変わらずだな、お前!」


 ルカが堪えきれずに笑い出し、アカメもつられて声を上げた。ヴァルもほんの少しだけ口元を緩めている。


 名前も姿も変わり、十六年もの時間が過ぎた。それなのに、こうして話していると、昔の三人に戻ったような気がした。


 聞きたいことは山ほどある。奏馬がどこで育ち、何をして過ごしてきたのか。どうして王立学園へ入ろうと思ったのか。S級《ソードマスター》についても気になるが、次々と疑問が浮かぶせいで、何から聞けばいいのか分からなかった。


「おい、ルカ・ハルデン!」


 その時、廊下の先から教師の声が飛んできた。


「特級クラスは最上階へ移動だ! 初日から遅れるな!」

「あっ、すみません! 今行きます!」


 ルカは慌てて返事をしたものの、すぐには動こうとしなかった。


「……っていうか、俺たち同じ学園なんだよな」

「そうだぞ。しかもお前、ヴァルと同じ特級クラスだろ?」

「えっ、マジ!? お前もS級なのか!?」


 ルカが驚いてヴァルを見る。


「さっき名前呼ばれてただろ」

「いや、それどころじゃなかったんだって! お前らのことが気になってさ!」

「俺は《戦闘鍛治師》だ」

「何それ、めちゃくちゃ面白そうじゃん! あとで詳しく教えてくれよ!」

「ああ、あとでな」


 ルカは今度はアカメへ顔を向けた。


「アカメは第一級だよな?」

「うん。俺だけ二階だって」

「じゃあ昼! 食堂で集合な! 話したいこと、マジで山ほどあるからさ!」

「おう! 絶対来いよ!」


 アカメが笑顔で答えると、ルカも嬉しそうに頷いた。


「そうだ! 今度三人でどっか出掛けようぜ! せっかくまた会えたんだしさ!」

「それ、めっちゃいいじゃん!」

「お前ら、まず学園に慣れてからにしろよ」


 ヴァルが呆れたように口を挟む。


「えー、いいだろ別に!」

「まだ授業も始まってねえんだぞ」

「じゃあ、いつ空いてるかあとで相談しようぜ!」

「結局同じじゃねえか」


 そんなやり取りをしていると、教師から再び名前を呼ばれた。


「ルカ・ハルデン! 早く来い!」

「はい! 今行きます!」


 ルカは慌てて階段へ向かったが、途中で急に立ち止まり、もう一度だけ振り返った。


「アカメ! ヴァル!」


 二人がそちらを見ると、ルカは嬉しそうに笑った。


「三人揃ったら?」

「とりあえず飯!」

「そのあと考える!」

「よっしゃ! じゃあ昼な!」


 満足したように手を振り、ルカは今度こそ階段を駆け上がっていった。

 その姿が見えなくなってからも、アカメはしばらく同じ場所に立ったままだった。


「……いたな」

「ああ」

「本当に、いたんだな」

「……ああ」


 ヴァルの返事を聞いても、まだどこか現実味がなかった。


 十六年間探し続けていた奏馬が、同じ学園にいる。昨日までは王国中の神授記録を調べようと考えていたのに、もうその必要はなくなった。


 昼になれば、また会える。明日も、明後日も、同じ学園で顔を合わせられるのだ。


「……何か、変な感じだな」


 アカメが呟くと、ヴァルは小さく頷いた。


 ずっと探していた親友と、ようやく再会できた。もう二度と戻らないかもしれないと思っていた三人の時間が、これからまた始まるのだ。


「アカメ」

「ん?」

「お前も行かねえと遅れるぞ」


 ヴァルに言われて周囲を見回すと、さっきまで廊下を埋めていた新入生たちはほとんどいなくなっていた。


「……あっ、やばっ!」


 アカメは慌てて階段を駆け上がり、ヴァルもそのあとをついてくる。二階の踊り場へ到着すると、二人はそこで足を止めた。


「じゃあ、俺はこっちだな」

「ああ。遅れるなよ」

「分かってるって! ヴァルも昼、忘れるなよ!」

「忘れねえよ」


 短く答えたヴァルは、そのまま上階へ向かって歩き出した。

 アカメも二階の廊下へ足を踏み出し、第一級クラスの教室を目指す。


 上にはヴァルがいて、その先にはルカもいる。そして、これから向かう教室には、昨日の試験で見かけたノアやアリア、セドリックたちがいるはずだ。


 《アサシン》についても、この学園で何を学ぶことになるのかも、まだ分からないことばかりだ。それでも、十六年間探し続けていた親友が、今は同じ学園にいる。


 昼休みになれば、また三人で集まれる。そう考えるだけで、アカメの足取りは自然と軽くなった。


 離れ離れになってから、十六年。

 と健太と奏馬は、ようやくもう一度、同じ場所へ辿り着いた。

第16話をお読みいただき、ありがとうございます!


今回はいよいよ王立学園への入学、そして16年ぶりの三人の再会でした!


姿も名前も変わってしまいましたが、昔の絆は変わらなかったようです。


次回からは本格的な学園生活が始まります!


これからのアカメたちの活躍も、楽しみにしていただけたら嬉しいです!

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