04 - 夕暮れの邂逅
初日のみ5話投稿
突然の誘いに悩んでいた彼女だったが、周りの子供たちのお願いに負け、最後には頷いた。
その後少し院で遊び、今は私の前をたくさんの子供たちに囲まれ楽しそうに話をしながら歩いている。隣は当然のようにラナが確保していた。
「何があったか知らないけれど、これで少しは気がまぎれるかしら?」
母もやはり気になっていたようだ。
「あなたは相変わらず、小さい子と可愛い子には弱いわね」
自分でも思っていたことを言われ、母から目を逸らすと賑やかな声のする方へと視線を向ける。
やっと見られた彼女の本当の笑顔に、何故か安心した。
◇◆◇
神殿へ着くと子供たちはまず、お祈りをしに奥へと入って行く。
私はいつもそこには参加せずにその隣の建物の二階、空き部屋へと先に移動する。
ここは神殿の職員の宿舎なのだが、パレードを上から見ることが出来るので、毎回お邪魔させて貰っている。
お祈りの終わった子たちがこちらへと来ると、みんな慣れた様子で窓の方に群がり、ワクワクとした表情で外を見つめていた。
しばらくして歓声が近づいてくる。そして少し先の大通りを、大勢の騎士たちに守られた豪奢な馬車が通って行くと、子供たちの興奮は最高潮だった。
おませな女の子たちは王子について話していたが、私には綺麗な金色の輝きしか見えなかった。
「きし様すっごいカッコよかったー!」
「うんうん! すごかった!」
「私おーじさま初めて見た! なんだかキラキラしてた」
「もう少し近くで見てみたいなあ〜」
帰り道、興奮しながらそれぞれ話す子供たちの中に、何故かまた暗い表情をした彼女を見つけた。
もう院の近くまで戻って来ていたこともあり、母に合図をして子供たちに簡単に別れを告げると、私はまた彼女を連れ出した。
なんだか今日は彼女を引っ張ってばかりな気がする。そろそろ怒られてしまうだろうか。
近くにある水路の側のベンチに彼女を促し、私も少し間を空けて座る。
二人で少しの間、水の流れる音を聞きながらぼーっとしていた。
そして太陽が座った目線の高さにまで落ちてきた頃、彼女が話し出した。
「子供って、あんなに元気なものなのね。もう一度あの頃に戻れたら……なんて、ふふっ。今日は凄く楽しかったです、ありがとう」
まだ無理して笑っているような彼女の頬を両手で挟み、首を振る。
「……なんか、不思議。出会ったばかりなのに、あなたには私の心が見えているみたい。それに何故か安心する。……あの、私の話、聞いてくれますか?」
その言葉に頷くと、彼女の固く握りしめられていた手を上からそっと包み込む。
そうして聞いた彼女の話を纏めるとこんな感じになる。
彼女には幼い頃からずっと好きな人がおり、その彼と婚約することになったと昨日突然知らされたらしい。
勿論嬉しかったけれど、人気のある彼と彼女の婚約を良く思わない人は少なくなかった。
そんな中で『釣り合わない』という言葉が耳に届き、自分でも薄々思っていたことだったので、その言葉はふかく胸に刺さったらしい。
一晩たった後も頭からその言葉が離れず、本来なら今日はその婚約者と一緒にいる予定だったのだが、色々と考えているうちに思わず家を飛び出してしまった。
そして行く宛てもなく途方に暮れていた所を、私が見つけたようだ。
なかなか繊細で難しい上に、自分とは違う世界の話にどう励ましたらいいものかと悩んでいると、彼女は少しすっきりした様子でお礼を言ってきた。
どうやら話を聞いて貰うだけでよかったらしい。
「私、今までこんなこと話したり出来る相手って一人しか居なかったんです。私の侍女だったのだけれど、少し前に結婚して遠くに行ってしまって……。それからの相談相手はフィリップと家族だけ。でも、さすがにこんな話は出来なくて。だから今日、あなたに会えて本当に良かったと思う」
特に何もしていないが、役に立てたのなら良かった。
「彼との婚約は断るつもりです。きっと彼のためにもそれがいい。昨日から分かってはいたんですけど……。でも、やっと決心出来ました」
少し寂しそうに笑った彼女は、その後気持ちを整理するためなのか、彼との昔話をしてくれた。
幼い頃に何度か遊んだ時のこと。成長するにつれ疎遠にはなったが、手紙のやり取りは続けており貰って嬉しかった手紙の話。
彼が学校を卒業後に留学で他国へ行ってしまい、それ以降は会えていなかったけれど、彼女の気持ちは変わらず、帰ってきた彼が婚約したと聞いて落ち込んだこと。
「結局その婚約相手は私だったんですけれどね」
そう言うと彼女は大きなため息をついた後、どこかこちらを伺うように見てきた。上目遣いが可愛い。
「あの、もし良ければ、またこうして会って、私の話を聞いて貰えないかしら? あなたといると何故か落ち着くし、次はあなたのことを教えて欲しい。あ、嫌だったらはっきり断って貰って構わないです! 今日この時だけでも充分ありがたかったもの……」
そう言う彼女は笑ってはいるが、またどこか寂しそう。
貴族と関わるのは良くないし、母にも言われているけれど……彼女を放っておけない。可愛い、いや、可哀想だから。
それに話を聞くだけ。話をするだけで彼女が喜ぶならば、また会いたい。
私は彼女の瞳を見つめると頷いた。
「え、それはまた会ってくれるということ? 本当に? 嬉しい! ありがとう! カミール、と呼んでもいい? 私のことはレティと!」
途端に元気になり、距離をつめてくる彼女の勢いに吃驚する。
表情がコロコロと変わり、とても純粋なのだろうと思わせる。可愛らしい人だ。
「じゃあ、私たちもうお友達よね? あ、カミールは歳上のようだしお姉様の方がいいかしら?」
私が友達なんてそれこそ烏滸がましいと思っていたが、冗談めかしたその言葉にすぐに友達にして貰った。
意外と強引なところもあるらしい。そしてとても人見知りには見えない。
さっきまでの儚げなお嬢様はどこへ……?
「何も考えず家を出て来てしまったけれど、正解だったわ。また絶対に会いましょうね、約束よ!」
彼女、レティが私の手を両手で握り微笑みながらそう言った、瞬間——
パチッと小さな静電気が起こる。
途端に目の前が急に暗くなり、意識が遠のいていく感じがした。
——————
「カミール!?」
突然気を失って倒れ掛かってきたカミールを支えるヴィオレット。
そこに何処からか現れる人影。
「何があった?」
「フィリップ! 分からないのっ、ただ話をしていただけなのに、急にカミールがっ!」
「分かったからまず落ち着け。理由はよく分からないが、ただ眠ってるだけだ」
「本当に?」
「ああ、だから——っ!? おい、そこを離れろ! くそっ、こっちだっ!」
「え、なに? きゃぁあっ!?」
魔力の揺れを感じたフィリップがヴィオレットを引き寄せる。その為支えを失ったカミールが地面へと倒れかかると、その足元の影から突如、大きな獣の形をした黒いものが飛び出した。
それはそのまま下からカミールを持ち上げるように自身の背中へとそっと乗せ、呆然とするヴィオレットと警戒するフィリップを横目に、街の陰に紛れるように北の方へと走り去っていった。
そして後には、夕暮れに残された二人の影が長く長く伸びていた。
歯車は動き出した
ゆっくりと、しかし確実に
最後のピースがはまり
漸く、時が流れだす




