03 - 二度目は偶然か必然か
初日のみ5話投稿
路地裏での出来事の後、全員がどこかふわふわとした様子で、これ以上何か起こる前に帰ることにした。
院に戻ると早速それぞれが今日あったことをみんなに話したりして盛り上がっている。
それを横目に私も路地裏でのことを母に報告していた。
「ラナがねぇ。最近は冒険譚に夢中になっていたから、お姫様のピンチに思わず駆けつけてしまったってところかしら? ラナもやるわね」
そんな母の軽い返事に思わずため息を吐いてしまった。
「ふふ、冗談よ。他の子たちにもまたしっかり話をしておくわ。それにしても、昔は私もカミールにたくさん冷や冷やさせられたものだけど、そんなあなたが今じゃ、心配する側なのね」
自分でも似たようなことを考えていたのと、昔は確かにたくさん迷惑をかけた覚えはあるため、気恥ずかしさから視線を逸らした。
「そうだわ! 帰ってきたらあなたに渡そうと思っていた物があるのよ。こっちへ来て」
優しく微笑んだ母についていくと、そこは母の部屋だった。
「はい、これよ」
椅子を勧められて座ると、目の前の机の上にそっと木箱が置かれた。
それは私の両手より少し大きいくらいで、見た目は少しの装飾がついたシンプルな綺麗な小箱。鍵穴が付いている事から、貴重品などを入れるのに使えそうなものだった。
中は空だったので、この小箱が渡したい物なのだろう。
「これはね、私が昔おばあ様に頂いたものなのだけれど、とても不思議な箱なのよ」
それを聞いてペタペタと触っていた手を引っ込め、母の方へと箱を押しやるが、すぐに戻された。
「最後まで聞いてちょうだい。きっとあなたには必要なものだから。カミール、カザルムさんに売ったクツァールの羽だけれど、あなたまだ持っているのではない?」
その言葉に戸惑いながらも頷きを返すと、鞄の奥に隠した先程と同じ羽と、さらに飾り羽も一つ取り出す。
「まさか飾り羽まであっただなんて……。これはね、さらに貴重な物で、普通の羽の三倍程の値がつくのよ」
ため息をついた母からの言葉に、机の上の羽を見つめる。
見た目からしても、なんとなくこちらの方が高いだろうとは思っていたが、やはり。
なんだか綺麗な羽が少し恐ろしく見えてきた。
「あなたは私欲の為に無闇に売りさばいたりはしないだろうけれど、それならば尚更、保管はしっかりしなくてはいけないわ。何かの拍子に、それこそ先程のようにこの羽があなたのところから出てきたら、間違いなく面倒な事になる。カザルムさんだからあれで済んだのよ? それで、家の方にもまだあるの?」
その言葉には首を横に振る。
今までも何度か見かけたが、特に持ち帰ったりはしていなかった。
今日は目の前で落ちてきたため、拾ったにすぎない。さすがにいつから地面にあるか分からないものは、いくら綺麗でも拾うのをためらう。
この羽は適当に家に置いておこうと思っていたけれど、もう少し真剣に考えた方が良かったのかもしれない。
(それともまた森へ置いてくるべきかしら)
「そう。なら取り敢えず、これは折角見つけたのだからこの箱に保管しておきなさい。貴重な物だからいざと言う時のために持っておくといいわ」
どうしようかと悩んだけれど、母の中では決まっているらしく次へと話が進んでしまった。
「それじゃあ箱の説明をするわね。羽を箱の中に入れて蓋を閉めたら、この鍵を差して一回右に回して。蓋を開けてご覧なさい」
言われた通りにすると、カチャンという鍵の掛かったような音がした。母を見ると手を伸ばし、閉まったはずの蓋を持ち上げる。何故か普通に開いた。
「!?」
しかしその中は空だった。
「ふふ。驚いたでしょう? この箱は空間魔法が込められた珍しいもので、箱の蓋を閉めて鍵を右に回すと中身をどこか別のところへ隠してしまうのよ。左に回すと元に戻るわ」
蓋を閉めて左に回すと、言われた通り蓋を開けたところに綺麗な羽が戻っていた。
その後注意事項として、この箱と鍵は対になっており予備はないこと。そしてもし鍵を無くしてしまったら、使えないどころか中身も二度と戻ってこないらしく、その場合、これはただの綺麗な箱となってしまうことを聞かされた。
「そもそもこれは古い物だから、今はもっと使いやすい形のものが主流のはずよ。まあ、珍しいことに変わりはないけれど。だから鍵だけはくれぐれも、無くさないように気をつけるのよ。あなたはしっかりしているから、その辺りは大丈夫だと思うけれど」
それでも貴重なものを貰うのを躊躇っていると、自分は使うことがないからと押し切られてしまった。
◇◆◇
今日はお祭りの三日目、最終日。
一昨日は私もいろいろと疲れたので、母に小箱を貰うとそのまま帰宅した。
家に帰った後食事と湯浴みを済ませ、小箱の中に羽とお金も入れ鍵を回し、鍵は太めの紐を通して首からぶら下げることにした。近いうちに丈夫な細い鎖でも買った方がいいかもしれない。
そしてそのまま寝た。
次の日は、少し遅めに起きてから家の片付けをした。何かあれば箱に入れようと思ったのだが、これといって大切なものも貴重なものもなかったのが残念だ。
仕事も休みなのでそのままのんびりと過ごし、前日の疲れと翌日の体力温存の為、やはり少し早く寝た。
そして今はお昼を少し過ぎた頃。
真上にある太陽を遮るものはなく、とても気持ちのいい天気だ。
そんなことを考えながら孤児院へと向かっていると、少し前を記憶に新しい珍しい人物が歩いていた。
(お姫様……)
何かあったのか、体調でも悪いのか、その足取りは重く雰囲気も暗く見える。
先日のこともあり、なんとなくそのまま無視するのもどうかと思ったものの、ならどうするかと考え、取り敢えず隣に並んでみた。
人の気配に気づいた彼女がこちらを向き、私を見て驚いたのだろう、元々大きかった目はさらにまんまるになった。
その表情はまるで院にいる子たちの様に幼く感じ、見た目も相まって可愛らしい。
歩みを止めてしまった彼女から、少し距離をあけて同じく立ち止まる。取り敢えず怪しい者ではないと分かってもらうため、フードを少しずらして顔を見せる。それから指を一本立て周りを見回してから今度は首を傾げてみる。
(伝わるかしら?)
「あ、あなたはこの間の。え? 指? 一本……? えっと、、あ! 一人?」
伝わったことに安心して頷きを返し、この前一緒にいたもう一人の人物を探す。
「フィリップなら、多分どこかから見ていると思います。一応私の護衛騎士なので。……あんなことがあったばかりだけれど、今は少し、一人になりたくて……」
そう言って何処か悲しそうに笑う彼女。
未だ彼女を院にいる子たちと重ね合わせていた私は、思わず自分の目線より少し下にあった頭を撫でてしまう。
すぐに自分のしたことに驚き手を離すが手遅れだった。彼女も驚いたらしくぽかんと口を開け幼い表情をした。
「……」
なんとも言えない気まずさの中、先に動いたのは彼女だった。
「……ふふっ。もしかして慰めてくれたんですか? ありがとうございます」
笑ってそう言いながらも、やはり少し悲しげな彼女が気になった。なので開き直って手を掴むと、困惑する彼女を先導するように歩いた。
行き先はもちろん——。
「カミール、と、この前の……? 俺、母さん呼んでくる」
「カミール来たの? どこどこー?」
「本当だ! あれ? お姫様もいるよ! ラナー! お姫様が来たよー!」
今日もここは賑やかで、とても癒される。
歩き始めは驚き戸惑っていた彼女だけれど、少し経つと大人しく隣を歩いていた。
恐らく貴族のお嬢様だろう彼女に対して失礼かとは思ったけれど、彼女は怒らないような気がした。
護衛騎士とやらは少し気になったが、悪いことをしようと思っている訳ではないので、そこはむしろ堂々としておいた。
彼女は連れられて来た場所に驚いていたけれど、今は子供たちに囲まれて少し楽しそうにしている。
「お帰りなさい、カミール。そちらのお嬢さんが……」
そして奥の部屋から出てきた母の言葉に、姿勢を正すと優雅な仕種で挨拶をした。
「初めまして、私……ヴィオレットと申します。カミールさん(?)とは、一昨日に少し。今日も偶然お会いしたところ、こちらへ連れて来て下さいました」
「はい、初めまして。私はここで子供たちのお世話をしているミモザです。先日の話はカミールの方からだいたい聞いています。ご無事でなによりでした」
「ありがとうございます。こちらの子たちにはご迷惑をかけしてしまい……」
「お気になさらず。あの子たちが勝手にしたことですから。それよりも、今日はこれから子供たちと神殿と広場へ行く予定なのですが、もしよろしければヴィオレットさんもご一緒にいかがですか?」
どことなくいつもよりも丁寧な母を見るに、家名は名乗っていないがやはり彼女は貴族の子女なのだろう。
そして母も彼女の表情がどことなく陰っているのに気が付いたのか、私の考えていたことを言葉にして彼女に伝えてくれる。
気分が落ち込んでいる時に子供たちと遊ぶのはいい。無垢で無邪気な彼らと一緒にいると心がとても癒されるからだ。それはきっと私だけではないはず。
ここに向かう途中で彼女に会ったのは、偶然ではなく何かあるのかもしれない。
なんとなく、そう感じた。




